第10話 私とおんなじだね⑤




 まるっと自販はこの街でも大きなお店の部類に入ります。大展示場の敷地は上から見ると横長の長方形の形をしており、手前側に県道、奥には一級河川の堤防が見えています。大展示場の入口は横長長方形で言うところの右下にあり、ショールームと整備工場が左上、つまりは一番奥に建っています。


 入口から向かって左手側には県道に沿って横並びで中古車が並んでいます。お互いを背にしてまるで「俺の背中はお前に預けた!」なんて感じで、二列で左奥まで並んでいます。これが奥の堤防側まで四組あり、二百台近くの中古車がここには並んでいました。


 県道沿いの一番目立つ列には、売れ筋のミニバンと呼ばれる大きな車と軽自動車がひしめきあって並んでいます。まるで覇権を争っているがの如く、割合が拮抗しているようです。その列が二組四列あって、その後には4WDと呼ばれるタイヤの大きなジープ型の車達。坂下さんに聞きましたが、ジープはアメリカ車のブランド名だそうです。

 そして最奥の二列の組には普通に見られる乗用車とかスポーツタイプの車などが所狭しと並んでいるのです。形も大きさも千差万別の自動車達が色とりどりに並べられていて、まるで玩具箱を覗いているようでワクワクしてきますね。


 さて、奈津美ちゃんが忘れ物を取りに戻り、絶賛ぼっちタイム満喫中の私はというと……


 展示場の奥の”ある一角”に向かって歩いていました。何事にも例外というものはある様で、堤防を背にした敷地の最奥地に数台の車が並んでいます。何気なく私は興味本位で見に行こうと思ったのでした。


「値段もついていないのかぁ」

 先程まで見てきた車には、前の窓の所に大きなプライスボードが掲げられており、『人気の最終型・すぐ乗れます!二百五十三万円』とか、『お買物に便利!人気のカスタム、新古車・百八十五万円』など書かれていました。ですが此処に並んでいる…… 八台は形も大きさもバラバラ、つまり軽自動車から大きなワゴン車や高級そうな車までが順不同で置いて有るのです。しかし、共通している点もありました。ボロボロなのです。へこんでいる車とか、明らかにバランスを崩している後付けの部品が目立つ車高の低い高級車とか、車の色が褪せた物など多種多様です。


 私はそれらをぼーっと眺めていたのですが、端の方に申し訳なさそうに並ぶ一台の小型車に釘付けになりました。その車は青色の綺麗な車で、ライトの間に〈ニッセン〉と記された誇らしげなエンブレムが付いています。

 何か目立つ特徴があった訳で有りませんが、それには不思議と気になる愛嬌がありました。

「やあ…… 君は私に何か用があるのかな?」

 何となく思った事を口にしました。何となく…… です。そして気になる理由が解った気がしました。この車の左前のバンパーにも横長に傷があったのです。

「うふふ、私とおんなじだね…… 」


 なぜそんな言葉を口にしたのかわかりません。左のフロントバンパーの傷と、私の左頬に薄らと残っている古傷にシンパシーを感じたのかも知れません。秋の夕暮れがセンチメンタルな気分に誘ってくれたのでしょうか。


 少し肌寒い風が初冬の訪れを告げます。まるっと自販の四隅に立つ背の高い柱の投光器、その水銀灯にゆっくりと明かりが灯ってゆくのでした。

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