第8話 私とおんなじだね③




「坂下さん、ネットオークションって、インターネットのオークションですよね? 車も扱っているのですか?」


 私もインターネットは人並みに知っているとは思っていましたが、さすがにオークションまでは詳しくはありませんでした。欲しかった限定品の書籍をヤプーオークションで購入したことぐらいですかね。


「そうよ、中古車専用のオークションがあるの。業者さんの専用サイトだから一般の人達には見る事が出来ないのだけれど」

「インターネットとかでもよく見る中古車情報とは違うのですか?」


 奈津美ちゃんも興味深々に尋ねています。私達はショールームの一角にある、パソコンが備えられた商談スペースに招かれました。途中、坂下さんが飲み物の自動販売機の前で立ち止まり、私達に好みを聞いてきました。


「何飲みたい?サービスで飲み放題だよ。胡桃ちゃんは?」

「わぁ、良いんですか? じゃあ、私はアイスコーヒーでお願いします。」

「奈津美ちゃんは?」

「ありがとうございます。コーンポタージュが良いです」

「はーい。じゃあ、好きなの押しちゃっていーよ」


 よく見ると時々街中でも見かける、紙コップ式のジュースの自動販売機のボタンが全部点灯しています。

 えっ、これ全部押しても大丈夫なのですか?なんか意味もなくテンション上がってきますね。味の濃さやクリームの有無、砂糖は控えめに…… っと。ふふふ…… あとでメロンソーダも飲んでみようかな。


 私達は各々で好みのドリンクを手に、勧められた商談スペースの長椅子に座りました。


 ──此処、まるなび自販のショールームには壁際に二箇所の商談スペースが設置されていていました。そこには細長い木目調の机の両側に、座り心地の良い黒の長椅子が備えられています。そして細長い机の壁側にモニターとキーボードが備え付けられています。


「うちもこの街ではそこそこ展示場も大きくて、展示車も多い方だけど。奈津美ちゃんのリクエストに応えられる商品は今、在庫が無くてね。」

「これだけいっぱい並んでてもですか?」


 奈津美ちゃんが不思議がっています。私も端から端まで展示場を見ていないのでこれだけ並んでいれば一台くらい有るだろうと思っていたのですが……


「まあ、売れ筋を広く浅くしか並べていないからね。軽自動車とかミニバンなら結構並べてあるけれど、スポーツタイプは少ないのよ」


 ──坂下さんの話によれば、自動車の人気にも流行り廃りがあるそうで、ここ数年の売れ筋は圧倒的に軽自動車とコンパクトというジャンルなのだそうです。


「だから奈津美ちゃんの欲しい車は、お店に並ぶのを待つのでは時間がかかる!」

「はぁ、それでオークションなのですか?」

「そういうこと」


 モニターに対面する奈津美ちゃんと、キーボードに関索ワードを打ち込む坂下さん。横から覗き込んでいる私も、何だか先程からワクワクが止まりません!


「これなんか良いんじゃないかしら?『トヨヨ・シェリカ 1・8 SSⅡ ガルウ…… 』ごめんなさい、これも”いじって”あるわね」


 なかなか格好の良い”スポーツカー”なのですが、坂下さん曰く『ドアの形状が改造で変更されていて怪しい』のだそうです。しっかりとした取り付けがされていれば問題は無いそうなのですが、オーナーが自分で取り付けている車の場合、加工処理が適当なトラブル発生の危険が高い車両かも知れないとの事。


「これは無いわね〜」と坂下さん。

 しかし、坂下さんが複数枚の画像をチェックしていたその刹那、奈津美ちゃんがぴくりと反応しました。


「何これ…… カッコイイ!」


 そこには目を爛々とさせる奈津美ちゃんの姿がありました。


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