第7話 私とおんなじだね②




「二百万円…… 二百万円ね。」

 坂下さんは奈津美ちゃんの予算を聞いて、何やら悩んでいます。周りにも俗にスポーツカーと呼ばれる自動車が何台も並んでいるのですが、奈津美ちゃんに勧める気配がありません。

「坂下さん、この車は同じ車で百八十七万円なのですが、どう違うんですか?こっちの方が高そうですけど」

 確かに奈津美ちゃんの言う通り、隣の車の方が高さが低くて、派手派手なタイヤや大きな後ろ羽根が付いています。すぐにでも大空へテイクオフ出来そうです。えーなになに…… 『ドリフト・エス・ピー・エル』?? 何でしょう?……


「あー、それはお勧めしないかなぁ〜 チューニングカーと言って、前のオーナーさんが改造した車だから」

「えっ? 車を改造するんですか? 普通に売られてる車じゃ駄目だったって事ですか?」

「そうねぇ、駄目って訳じゃないのだろうけど、前のオーナーさんの好みとは違ったからじゃないかしら。それにね、法律に違反しない範囲での改造は許されてるのよ」

「へぇー そうなんだ。でも、改造して有るって事は、それだけお金がかかってるんですよね?じゃあ、どうしてこっちよりも安いんですか?」


 確かに奈津美ちゃんの言う通りです。費用がかかっていれば、車の値段に加えられるのではないでしょうか?例えるならフォーティーワン・アイスクリームのバニラ味に、イチゴ味とチョコミント味をトッピングしたら、もう一本買えちゃうお値段に…… なんですかっ!? チョコミント味美味しいじゃないですか!

 しかし坂下さんは、少し困った表情でやんわりと否定します。


「確かにそうなんだけどね、中古車ってその辺りが難しい所なのよねぇ。新品で購入するいわゆる”新車”なら、そのまま商品の値段に上乗せしても良いのだけれど」


 坂下さんは”改造された車”のプライスボードを指差してなぞり始めました。よく見てみると並んでいる車は、どれひとつとして書かれている内容が同じ物は有りません。私達がそれぞれに個性が有るように、車にも個性が有るようで面白いです。

 そういえば、”彼氏”はどんな個性だったのでしょう?もっと詳しく見ておけば良かったと少し残念に思います。


「中古車は文字通り他人の”お古”なわけだから、どういう使われ方をしてきたか、どんな状態なのか、商品としての人気はあるのか、珍しい物なのか、ありふれた物なのか、とかね…… ざっと簡単にあげただけでも色々な判断要素があるわ」

「はぁ、難しそうですね」


 奈津美ちゃんの表情が曇っています。無理もありません、私達には難し過ぎて躊躇ためらってしまうのです。


「安心して。その為に私達がいるんじゃない。結局ね、良い中古車と出逢うには、知識と目利きも重要なんだけど、もうひとつあるの」

「それが坂下さん達だって事ですか?」

「そうなの。中古車って如何に情報を集めるかがキモなのよねぇ。だから安心して任せられる店員とお店選びで、お客様の負担もぐっと軽くなるし、失敗しない車選びの近道でもあるの。まあ、これは新車を選ぶ時にも言える事だけどね」


 私達は坂下さんと出逢えて幸運だったのかもしれません。いや、幸運だったのです。それだけ彼女の説明には説得力がありますし、人として好感が持てるのです。そうですね…… たぶん坂下さんは嘘をつくのが下手な人だと思います。確証がある訳では無いのですが、この人は誠実な人なんだと信じさせてくれるような気がするのです。

「私の希望としては…… 」


 奈津美ちゃんが坂下さんに車選びの条件を伝えています。

 一つ、予算は二百万円。

 二つ、シュッとした感じの車高の低い奴。

 三つ、雪道でも安心して乗れる物。

 最後、カッコイイやつ。


 …… けっこう漠然としてますね。しっかり者の奈津美ちゃんにしては以外でした。実は結構、感覚で生きている娘なのかも。それを聞いた坂下さんはメモをとりながら思考をしています。ハッと何かを思い出したようで、私達をショールームの方へ手招きしました。


「丁度、今日はネットオークションがあるの、ちょっと見てみない?」

「みるー!」

「奈津美ちゃん、ネットオークションって知ってるの?」

「ううん、知らない」


 とにかく二人とも意味はわかっていませんでしたが、ネットオークションという何だか面白そうな響きに興味深々で臨むのでした。



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