第5話 秋の日
とても良く晴れた晩秋の昼下がり。図書館での勉強会も佳境にさしかかり、そろそろお開きにして親友を遅い昼食へ誘おうかと思いだした頃です。奈津美ちゃんが宙を見上げて呟きました。
「うー お腹空いたねぇ…… 」
それにはたまらず私も同意見です。
「そうだねぇ、軽くいく?それともガツンと?」
「軽めが良いかなぁ。でさ、その後、昨日の中古車屋さん寄ってこ。坂下さん、
「へぇ〜 そうなんだ。坂下さんには気を遣わせちゃったしなぁ。何かお土産持って行こうか?」
「賛成。それより胡桃、まだ”彼氏”残ってるかも知れないけど…… 大丈夫だよね?」
「うん。未練がないと言えば嘘になるけど、実際私がは買えるのかは別の話なわけだしね」
「えっ? そうなんだ。てっきり私、おばさんに買ってもらうのかと思ってた」
「うん、自動車免許の取得費用と車代は出してくれるって言ってたけど、気が引けちゃってね」
「如何して?」
「大学の費用も出してもらうのに、何かそこまで甘えてて良いのかなと思って。冨山大学なら電車で通えるしね」
我が家はけっして裕福な訳ではありません。家業の造り酒屋も辛うじて赤字を免れてると母は言っていました。女手一つで私と妹を苦労して育てて来てくれた母親に、これ以上負担をかけたくはないのです。
「それにね、私よりも心美の方が”秋元酒造”を継ぐ気みたいだし、出て行く娘が我儘言えないよぅ」
「そうだよねぇ〜 心美ちゃんの学費とかも有るだろうしね。でも富山で車使えないと不便さMAXだよ」
「とりあえず大学進学出来たらバイトして自動車免許取ろうかなって思ってるよ」
「偉いねぇ。私も応援するからね」
◇ ◇ ◇
私達は図書館を後にし、モソバーガーで軽くお昼を済ませ、お土産を持参して”まるっと自販”を訪れました。
「いらっしゃいませ〜 あらっ?」
「こんにちは、昨日お世話になりました秋元です。」
「こんにちは、坂下さん。これ私達から、お土産です」
「うわぁ、ありがとう。気を使わなくてもいいのに。あ、”浜町たかい”のたこ焼き大好きなんだぁ。鯛焼きもあるんだね」
「そりゃあもう。大学の先輩になるかもしれない坂下先輩に是非お納め頂きたく…… 」
「!? ほほう…… 奈津美ちゃん、君は話がわかる子だねぇ」
「ははぁっ…… 有り難き幸せ」
「あはは…… 奈津美ちゃん、悪い顔してるよ…… 」
それからしばらく私達は坂下さんとの他愛もない話に花を咲かせました。話題は私達の進学の話を中心に。
「そうかぁ〜 胡桃ちゃんも冨山大の推薦入試を受けるのね。君達は可愛い後輩ちゃんになるのかぁ。何でも相談してね、力になるよ」
「ありがとうございます」
「また気軽に遊びに来てね。あと、もし良かったら外の車見て参考にしてってよ。”彼氏”の他にも品揃えにはちょっと自信あるからね」
「わぁ、面白そう。胡桃、ちょつ見ていこうよ」
「うん…… 」
正直、気乗りはしませんでした。昨日の今日なのです。大好きだった”彼氏”は、このショールーム横の整備工場で点検整備を受けているそうですから。そんな傷心に浸っている私を知ってか知らずか…… まあ、わかってて奈津美ちゃんは元気づけようとしてくれてるんだと思います。ここはお言葉に甘えておきましょうか。
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