第4話 親友
「胡桃ぃ、いないのぉ?」
私の部屋は二階の丁度、玄関の真上に有ります。私は換気のために少し開けていた窓を開けて応えます。
「おはよう奈津美ちゃん、どうしたの?」
「はぁ?『どうしたの?』じゃないでしょ!今日は図書館で勉強付き合ってくれるって言ってたじゃない」
「あはぁ…… そうでした。ごめんね、今開けるから上がって待っててよ」
大事な約束を失念していました。今日は奈津美ちゃんと図書館で勉強会を開く予定だったのです。
「もう、駅前で待ってたのになかなか来ないしさ。メールも返って来ない、LIMUも既読付かない、電話も繋がらない…… どうせ昨日のショックで忘れてるんだろうなぁって思ってたんだよ」
「あ、ホントだ。ごめんね、サイレントモードのままだった」
「ほんとにもう…… まあ、あれだけショック受けてたら仕方が無いかぁ」
──今日の奈津美ちゃんはグレーカラーのロングカーディガンを羽織っています。ふわっとした柔らかそうなカーディガンが、黒髪ストレートヘアーの彼女に良く似合っています。
インナーにはネイビーのタートルネック、そしてデニムのショートパンツが可愛いですね。ブラックカラーのショルダーバックと、ブラックレザーのブーツでキメてる辺りはしっかり者の奈津美ちゃんを良く表しています──
「そんなに昨日は変だった?」
奈津美ちゃんにさり気無く聞いてみます。正直に言うとショックで記憶が……
「憶えてないの?」
「あははは…… 面目ない」
「大変だったんだからね。胡桃はいきなり居なくなるし、坂下さんからは物凄く気を使われるし…… 坂下さん、とっても心配してたから、一言御礼言っておいた方が良いよ」
「う〜…… 悪い事しちゃったなぁ。そうするよ」
「じゃあさ、善は急げだ、帰りにでも寄ろうよ。よし、決まり!」
「うん」
「それでさー、なかなか見つからないと思ったら知らない町内フラフラ歩いてるし、やっと追いついたと思ったら犬の”アレ”…… 」
奈津美ちゃんが哀しげな顔で此方を見ています。
「いやぁー!犬のウンチ踏んじゃったの?」
奈津美ちゃんは表情を緩めて……
「コホン…… ちゃんと直前で止めたわよ」
「ありがとうございます!奈津美さま〜」
こういう人です。しっかり者ですが、サプライズも大好きな頼れる親友なのです。
「そういえば駅前で心美ちゃんに会ったよ」「心美に?」
「あの娘、とうとう剣道部の主将になったんだってね!凄いね」
「上級生からも可愛がられてるらしいし、同級生や下級生からも頼りにされてるからね」
「心美ちゃん、しっかりしてるもん。どっちが姉だかわからないね」
心美と奈津美ちゃんはとても気が合うらしく、うちに来ると仲良くお喋りしています。しっかり者同士、ウマが合うのだろうと思います。
「私だって、これでも『お姉ちゃん』って頼られてるんだよ!」
「そおぅ?この前だってさ、『貴女がお姉さんになってあげたら?』って言ったら満更でもなかったわよ」
「下克上きたぁー!」
「その暁には私が心美ちゃんの妹になるの。さよなら胡桃」
「うわぁぁぁん。親友の裏切りとリストラまで」
「あはははっ、冗談よ。ほら、さっさと支度しなさいな」
わかっています。ただ迎えに来ただけでは無い事も。きっと落ち込んでる私を励ましに来てくれたんだと思います。ありがとうね……
奈津美ちゃん……
◇ ◇ ◇
今日は天気も晴れてとても気持ちの良い土曜日です。私は白のスカートにパーカートレーナーを羽織り、お気に入りのリュックサックを背負って街へ飛び出しました。もうすぐ立冬とは思えない暖かな陽射しを浴びて、私達は図書館へと向かいました。
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