第7話 VSアイアンモール
「…………へっ?」
新人チームはアイアンモールを前にして動かない。いや、動けないと言ったほうが正しいか。コボルト程度であんだけビビってたんだ。こんなのにいきなり出てこられたら恐怖でまともに動けないか、思考が停止するかのどっちかか。だがそれでいい。あんたらに俺が期待する役目は……ずばり肉壁だ。
「おいっ逃げ――「来るぞっ!構えろ!」――っ!」
そう槍チンの撤退宣言に被せるように言って台詞を潰してやった。撤退宣言だけは許さない。お前らを犠牲にしてでも俺は前へと進まねばならんのだ。……もうどっちが敵かわかんねーなこれ。……だがこれは事故、そう事故だ。咄嗟に出た意見の食い違いも、同じタイミングでの発声も。そしてそれによる――「ザンッ!」
「ぎゃあああっ!」
――前線の混乱もなぁ!
新人Aは咄嗟にかばうようにして突き出した腕をアイアンモールの爪に引き裂かれ、激しく出血した。あまりの激痛にその場に倒れ込む。
「うっうわあっ!あああぁっ!」
横にいた新人Aがやられてパニックになったのか、新人Cは持っている武器を無茶苦茶に振り回す。新人Bはというと、それを見て少し冷静になったのか青白い顔をしつつも新人Cを盾にするように数歩下がった。ははっ……こういうところで人間でるねぇ。いいねー、生き残る才能あるよ君。彼がこの先生き残って「ァィァンモールまぢこわたん」とか呟くことがあったらイイネボタンを十回くらいは押してやろうじゃないか。
字面的に一番強いフィフティナインティはというと、こちらは今だ固まって動けないみたいだが姫プするみたいに男達を僅か先に行かせていたからか、無事で済んでいる。自分が女であることに感謝しやがれ。
新人Cの無茶苦茶に振り回す剣が「ガキン!」とモグラ野郎の爪に弾かれ空を飛んだ。剣はくるくると回転しながら後方に落ちる。武器を失った新人Cは一瞬動きが止まり、その瞬間「ゴッ!」と鈍い音が鳴った。爪甲部分で殴られた新人Cが吹っ飛ばされたからだ。がむしゃらに前に出たおかげか爪先で切り裂かれずに済み、更には距離を取ることもできた彼は運がいい。
そして新人Cと違って運の悪い新人Aは今だアイアンモールの目の前で悶えている。アイアンモールは悶えている新人Aの前に立ち、上から見下ろしながら腕を構えた。
「疾ッ!」
その瞬間、槍チンが走り寄り新人Aを守るようにモグラに槍を突き出した。疾ッてなんだよ疾ッて。お前はその道の達人かなにかか。それか漫画の読みすぎか。どう見ても俺よりレベル低い癖に生意気な。
「ドッ!」と槍チンが付きだした槍がアイアンモールの腕に突き刺さる……が、浅い。モグラだけあって腕は頑丈だ。アイアンモールは槍が刺さった腕を振り払うとあっさりと槍は抜け、体制を僅かに崩した槍チンは後退した。
……さて、そろそろこちらも準備が整った。体の中で練り上げた力……魔力を放出し、自らの魂に刻み込まれた属性の力を付与する。俺の持つ属性は……炎。実は風属性も持ってるけど、今は関係ないな。
手をかざすと拳大の火の玉が出現した。それを見て驚いているルミナを横目にアイアンモールとじゃれあっている連中を見る。……誰もこっちを見ていない。まあ当然か。
……じゃあ、そろそろ俺も混ぜてもらおうか!
『ファイアバレット!』
手のひらをアイアンモールの顔に向け、発動句を唱えると、浮いていた火の玉は回転しながら勢いよく飛び出した。槍チン共に注意を向けていたアイアンモールは眼前まで迫った火の玉にようやく気付いたのか、退化した目を一瞬見開いた。
「ドゴンッ!」とド派手な音を立ててアイアンモールの顔に炸裂した火の玉が爆ぜる。着弾するまでの見た目はしょぼい火の玉だが、実際の威力はかなり高い……グレネードみたいなもんだ。
アイアンモールは顔を抑え、よろめきながら後退する。槍チンチームがこちらを見たので指でGOサインを出してやった。ほれ、さっさと追撃するんだよ。
すると、槍チンが前に出て顔を抑えるアイアンモールの腹に向かって槍を突き出した。槍はしっかりとアイアンモールの腹に刺さり、決して少なくはない量の血が流れだす。ミラちゃんと、どうやら気を取り戻したらしいフィフティナインティはその隙に新人Aを引きずって回収していた。新人Bは近づくのが怖いのか遠巻きに見てるだけ。新人チーム、後で色々揉めそうだなー。俺には関係ないけど。
「グアオオォ!」
しかしアイアンモールもやられっぱなしでいるわけではない。炎に焼かれ、目と鼻がまともに使えない状況でも自慢の武器である爪は健在だ。腕を手当たり次第に振り回し暴れる。
途中で槍チンの槍が腕に弾かれ宙を舞った。刺さっていた槍の抜け方が悪かったからか、腹からの出血量が増えるが奴はそんなことお構いなしだ。槍チンは痺れた腕を抑え、再度後退する。……だっせーなあおい。ここまでお膳立てしてやったのによ。
「ていっ!」
ここでアイアンモールに向かって何かが飛翔する。ルミナが新人Cの落とした剣を拾って、投げつけたのだ。剣先がアイアンモールの足に当たり、横向きの切り傷を作る。暴れていたアイアンモールは足への攻撃で体制を崩して地面に両手を付いた。
「ナーイス猫!」
いいコントロールしてんじゃん。さっきの偶然といい本当にローグ系の才能あるのかもしれんな。……じゃあこのふがいない雑魚共と違うってとこを、お前のご主人様である俺も見せつけてやろう。
起き上がろうとしているアイアンモールめがけて走る。剣を構え、狙うは首。目をやられたアイアンモールは目前に迫った剣に気づけない。……そして、一切の邪魔は入らず思い描いた通りの軌跡で剣は振りぬかれた。
――「ザシュッ!」
……首を半分以上断ち切られたアイアンモールは、そのまま声を上げることもできず倒れ伏す。……完全勝利だ。俺は被害受けてないしな。新人チーム?知らんがな。
「ご主人、さっすがー!」
一拍置いてルミナが歓声を上げながら近づいてくる。はいはいさすごしゅさすごしゅ。…………いやこれ結構気分いいな。よし、もっと俺を褒めろ!褒めちぎれ!そこの雑魚共との差をしっかりアピールしろ!
「……で、これって爪とか高く売れるの?」
「……」
はー……次にはこれ。これだよ、だからこの猫は駄猫なんだ。さすごしゅアピールタイム放棄して即座に金勘定。そんなに金が大事か?……大事だわ俺ら今金無いわ。でも、他の作品ならもっとこう……さすごしゅさすごしゅ!なんでこんなに強いんですか!?さっきの魔法すごかったですー!私もご主人様みたいに強くなりたいですー!好き!抱いて!くらいは言うだろ普通。
「攻撃魔法か……すごいな」
槍チンが落とした槍を拾いつつ話しかけてくる。てめーじゃねえよ!野郎に褒められてもなんも嬉しかないわ!
「……すごい」
フィフティナインティが褒めてくれた。いや、野郎ではないんだけど……すまんぶっちゃけ好みじゃない。いやほんと現実って上手くいかないわ。
ミラちゃんはさすがに自分のご主人様がいる手前、あまり前に出れないのか頭をぺこりとこちらに下げただけだった。まあ元々あんま喋る感じの子じゃないし、しょうがないかー……槍チンがさっきの戦いで死んでれば色々ワンチャンあったかな?惜しいことしたかも。
……そして、体に今まで以上の力が沸き上がる感覚。レベルアップか。これで……16か?ルミナと槍チンも同じくレベルアップしたようで、少し嬉しそうにしていた。
新人チームはなんも無しっぽい。だってまともに戦ってないし……囮にはなったけど。被害だけは甚大。あーかわいそ。
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レベルアップ! リベル 15→16 ルミナ 8→9
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