第6話 イレギュラー
やはりなにかがおかしい。
そう思ったのは二度目のコボルトと遭遇した時だ。
何故二度もこちらに向けて走ってきたのか。洞窟内はそれなりに明るいと言っても遠くを見渡せるほどではないし、あいつらはそこまで目がよくないはずだ。
一つ目、犬特有の嗅覚で視界に捉えるよりも早くこちらに気づいていた・・・でもこれはどうだろう。あいつらは俺達と遭遇した時、驚いていた。犬は何かに気を取られている状況だと嗅覚を使い忘れることがあるらしいが……あの驚きようはむしろ嗅覚すらも満足に使えていなかったからだろう。そもそも犬と同じに考えていいかどうかはわからんがな。犬は人といる時のみ真の幸福を感じるとかいう、ひっじょーに人に都合のいい学説があるがあいつらが人と一緒にいて幸福に感じる時なんてオレサマオマエマルカジリーって具合で派手に生肉パーティしてる時だけだろ。
だとすると二つ目・・・天敵に遭遇して逃げてきた。こっちはありえそうだな。なんだなんだ?ここは弱い魔物しか出ないんじゃなかったのか?コボルトの天敵ってだけでいくつか思いつくが……推奨レベル10以上のとかもいるはずだぞ?
となるとどうするか。思いつく限りの魔物だと単体なら俺一人で勝てる相手の可能性はそれなりに高いと思うが……こんな試験依頼なんて金にならん仕事で万が一にも手傷を負うなんてことは避けたい。依頼を受けて討伐した魔物じゃないと報酬はかなり安くなるしなぁ。
だが奥まで行かないと試験依頼は達成できない。しかもその魔物がすぐにどこか行ってくれる保証は無い。そんでもってその魔物がどんな魔物か分からんと調査依頼からの討伐依頼って形でどんだけ時間がかかるかわからんときた。そもそも最速で解決してほしいならこっちが金払って依頼出すハメになるしな。そんな金も無いし行くしかないか。
一行を注意深く観察してもこのことに気づいている様子はない。新人チームは当たり前として槍チンチームもだな。さて、比較的安全に切り抜けるには……まずはどう動くかなっと。
「すまん、一度俺とルミナの装備を軽く見ておきたい。しばらく後ろ歩いてていいか?」
「あ、はい。構いませんよ。次は俺達の番ってことですよね!」
「っしゃ!コボルト程度怖くねーぞ!」
それっぽいことを言っておくとさっきの戦いを見て興奮したのか、出番を譲ってくれたと思ったのかは知らんが新人チームが先頭に立ってくれることになった。槍チンチームは何も言わずこちらを見て頷き、中央へ。新人B……だったはずの男よ、怖くないって言うと怖くなるのってホラーの常識だから覚えとくといいぞ。モブ顔のお前には口動かすの面倒だし教えてやらんがな。
そしてルミナと共に隊列の一番後ろへ。
「ご主人、どうかしたの?めんどくさいからあとはサボるとか?」
……こいつは俺をなんだと思ってやがる。まあ俺の思考回路的にはその判断は間違っちゃいないんだけど一番最初にサボってた奴に言われるのはすげーむかつく。
「いや、もしかしたらやばい魔物がいるかもしれない……だから、あいつらを囮に使おうと思ってな」
「……うっわ、ご主人くっずぅー」
「うるせぇお前に言われたかないわ!……で、場合によっては逃げるから構えとけ」
「おっけー!……それで、どんな魔物なの?」
結局それを了承するあたりこの猫もクズじゃねーか。……だがそのおかげで意見が衝突しないのは助かる。こいつも俺と同じで誇りだのなんだのよりも金と命のほうがよっぽど大切で、そのためならなんだってしてやるって精神の持ち主ってことだ。
「この辺に生息するので洞窟って言うと……豚か小鬼か……もしくは」
その瞬間、「ドゴン!」という大きな音が洞窟内に響き、何かがこちらまでふっ飛ばされてきた。不規則なバウンドを数回した後、ピクリとも動かなくなったその物体は胸を大きくえぐり取られたコボルトだった。
「えっ……?何?何?」
「……コボルト?……まさかっ!」
新人チームはまだぼけっと突っ立ってるが槍チンチームはさすがに気づいたらしい。同時にそのコボルトを吹き飛ばした主もこちらに気づいたらしく、「ドスドス」と重そうな足取りでこちらへ接近してきた。そして、やがて姿が露わになる。
「っち。……よりによってモグラかよ」
単体であることが不幸中の幸いといったところか。
それは成人男性と同程度の背丈だが、黒い毛の生えたずんぐりとした体形のせいか、かなりの大きさを感じさせる。足は短いが太く発達していて、手には長く大きな爪が付いている……その爪は鉄を感じさせる光沢を放っていた。鼻は尖り、退化した目はほとんど見えないものの確かにこちらを捕えている。
アイアンモール。鉄のような爪で獲物を引き裂き捕食する、モグラの魔物。討伐推奨レベル15前後の、やっかいな相手だ。
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