第5話 キミに決めた!
「さっきの!す、すごかったです!」
コボルトの血がついた剣や鎧を布で拭き、汚れを落としているとフィフティナインティから声をかけられた。秘密組織への勧誘かな?
「……そうでもないさ、あれくらい覚悟があれば、誰でも簡単にできる」
少し遅れて謙遜の言葉を口にしておく。本当は無視しようと思ったが面白いことを思いついたからだ。
「そんなことないですよ!こう、最後のも、ズドン!って!なんか、かっこよかったです!」
語彙力ねーなこいつ。
それを見て新人君達は羨ましそうにこちらを見ていた。欲しいならやるぞ。
「いや、本当に簡単だよ。……俺の相棒のルミナも似たようなことができるしな!」
その瞬間ルミナがものすごい勢いでこっちに振り向いたが見えてないフリしてやった。
「そ、そうなんですか……?」
「ああ。元メイドだから給仕もできるしいつも助かってる……」
これは半分事実。本人ができると言ってただけでまだやらせたことないけど。というかあの猫とは出会ってまだ3日だ。
「そうですか……」
相棒と聞いたあたりでフィフティナインティの顔が少し歪み、最後はすごすごと引き下がっていった。計画通り。正直こんなあだ名付ける時点で好みではないので、その感情が発展する前に終わりにしておきたい。
そしてフィフティナインティが引き下がると同時にルミナが近づいてくる。
「ちょちょちょ!ご主人なに言ってくれちゃってんの!?」
「うるせー!手伝わなかった罰だ!次の戦闘で前に出してやるから恥を晒してこい!」
「無理無理!今度は牽制くらいはするから許してよぉ……。ねぇ―――いったぁ!」
ルミナは上目遣いで手を組んで可愛くお願いしてきたが、デコピンして要求を突っぱねておく。こいつ俺がミラちゃんに色目使ってるの目ざとく観察してやがったな。いけると思ったのか急に可愛さ全開で媚びてきやがった。可愛いは可愛いがジャンル的には虐めたくなるタイプの可愛さだったので容赦はしてやらんぞ。
小声の会話だったからか、周りには仲睦まじそうにしている風に映ったのかもしれない。新人達の嫉妬の目線が一段階強化された。槍チンは笑みを浮かべて余裕ぶっこいてた。やっぱむかつく。
そして歩き出すと、数分でまたこちらに向かって走ってくるコボルトに遭遇した。単体だ。その後ろからコボルトを追うようにキノコが一体歩いてきている気がするが、きっと気のせい。
「よしルミナ、行ってこい!」
「うえぇ!?」
先手を取って退路を潰してやる配慮は忘れない。ほら見ろ、この周りの期待するような目を。ここで引けるほどプライド無くはないだろ。まあ引いたら引いたで情けない姿が見れそうだからそれはそれでよしだ。
「うぅ……まあできるだけやってみるけどさ……いってくるよ」
ルミナは短剣を構えながら一歩前にでた。どうやら本当に行くようだ……正気か?
「あ、でも」
と、ルミナはこちらを見て。
「なるべく、近くに……いてね?」
と、うるうるした目でこちらを見つめながら言ってきた。
くっ……可愛いじゃん。これが初対面だったらもう少し甘くしてたかもしれん……いや、よく考えたらこいつギャンブル狂い歴有りの意地汚い盗人だったわ。やっぱないわー。
まあ元から手伝うつもりではあるのだが。死なれても困るからな。でもあえてなにも言わないで戦闘開始。
コボルトが急接近してきたので剣の腹で弾いて横に押しのける。その隙に更に前にでて振り向くとルミナと俺で挟み撃ちする形となった。ルミナは俺が参戦したからか嬉しそうな顔をしているが、俺はもう一切攻撃しないからな。がんばえー。
「ほーれほーれ」
剣を適当に振り回してルミナを煽るのかコボルトを煽るのか分からない動きをする。途中でキノコっぽいものを斬り飛ばした気がするが、きっと気のせい。
ルミナは前にでるタイミングのつかみ方が分からないのか、短剣を前に構えたままコボルトとにらみ合いを続けている。自分より大きな相手に囲まれたコボルトは焦ってきたのか、比較的与しやすそうだと思ったルミナのほうへ突貫した。あらら、先手を取られたな。一応助ける準備しとくか。
「ふわっ!?」
いきなり均衡が崩れて驚いたルミナは変な声を上げながら後ずさった。だがその距離は一瞬で埋まる。
「ぴぃぃ!」
ルミナはもはや悲鳴なのかもわからない声を上げながらしゃがみ込み、目を閉じながら上に向かって短剣を突き上げた。……なんとその短剣は見事コボルトの喉に命中し「ザクッ」と喉の奥までを貫いた。おいおい、ビギナーズラックにも程があるだろ……。
しばらくしても何も起こらないことを不審に思ったルミナが目を開けると、目の前には神経を断ち切られてすでに動けず、短剣に串刺しされっぱなしのコボルトがいた。別の意味でのどアップマル秘十八禁映像である。
「にゃあぁ!」
それに驚いたルミナが反射的にバックステップ。恐怖で手がこわばっているのか短剣は持ったままだ。すると偶然にもするりと短剣がコボルトから抜けて、支えを失ったコボルトは地面に倒れた。
「……へ?」
気が抜けたのか放心状態のルミナがぼーっとこちらを見ている。仕方ない、結果的には上手くやったんだし褒めてやるとするか。
そして俺がルミナを褒めようとした時。
「「「おぉー!!」」」
ぱちぱちぱち、と新人共の拍手が上がった。タイミング悪りーなあ。
拍手を受けて新人達に振り向き、自分がしたことをようやく理解してきたのかルミナの顔にゆっくりと笑みが浮かんでくる。
「ふっ、……ふっふーん♪」
そしてルミナはもう一度こちらに振り向き、冷や汗をかきながらも勝ち誇ったかのようなドヤ顔を決めた……芸人顔負けクラスの。うわこの顔くっそウザい!腹パンしたくなるようなドヤ顔ってあるよね。まさにあれ。やっぱ褒めるのやめとこ。
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