第12話 災厄の再来

 半日程度抑えられるということがわかっただけでもかなりの進歩だったけれども、事態がそれほど好転しなかったことはかなり辛い

 僕はその後も様々な検証をしようとした。どれくらい近づいていたら時任さんの特性を抑えられるのか。半日経つ直前に一瞬だけ離れればカウントはリセットされるのではないか。こういった仮説を検証していきたかったのだが、時任さんは一言、「大丈夫、ありがとう」と言い、結局それっきりになってしまった。

 それっきり、時任さんは学校に来なくなってしまった。

「私のことを巻き込みたくなかったと思うんだよ」

 学校の屋上で柳さんが昼食を食べながら僕に言う。

「そんなこと、気にしなくていいのにね」

「・・・・・・・・・・・・」

 時任さんは他者への迷惑を過剰に気にしてしまう。

 その中でも特に、柳さんへの迷惑は避けなければと考えてしまうのかもしれない。

 常におびえなければならない生活の中、唯一明るく接してくれる存在ーーそれが柳さんだった。

 ここ数日時任さんに接してわかったことがある。

 ーー時任さんは、優しいんだ。

 ーー特に、時任さんと接している人物に対して優しい。

 今思うと、僕と行動していたときに電車に乗ったのは、僕以外に被害を移せるのなら出来ればそうしたいという思いがあったからなのかもしれない。

 時任さんの性質は必ず誰かを巻き込んでしまう。

 それならばせめて、時任さんの周囲には及ばないようにする。

 それが時任さんの生き方だった。

 だから時任さんは、学校を休むという選択をとった。

「柳さんのお弁当、可愛いですね!」

 高らかに有明君がそう言うが、柳さんは呆っと食べ物を口に運ぶだけだった。

 柳さんの性質とその限界を暴いたことは、果たして正解だったのだろうか。このままだと僕は時任さんの不安をよりあおってしまったということになる。

 それだけは、何が何でも阻止しなければならなかった。

 僕は時任さんと違って優しくない。

 僕自身が何かをしなければと思うから、行動する。

「・・・・・・どうすればいいんだろうね」

 柳さんがぽつりと、誰と言うこともなくつぶやいた。

 僕も完全に同じ気持ちだった。

 正直、打つ手がない。

 何をすればいいのかわからない。

 だけど、何かをしなければならない。

 それが、柳さんから頼られた僕のやるべきことだしーー過去への贖罪でもあった。

 どうにもならないことでも考え続ければなんとかなるはずなんだ。打開策のない壁なんて存在しないし、存在してたまるか。


「まもなく滝東高校の屋上にて事件が発生します。ご注意ください」

 

 ーーそう思っているのに。

 どうしようもない現実というのは、やってくる。

 声が聞こえた。

 サイレンはーー鳴り響いていない。

 声だけが、聞こえた。

「なーんてね。うっそー」

 この街では最も不謹慎なその口調を真似るなんて正気の沙汰ではない。

 それでもーー彼女はーーやってのける。

 軽い口調で、やってのける。

「君島やっほーひっさしぶりー」

 彼女は明るくにこやかに、以前あったときと変わらない様子で話しかけてくる。

「いつぶりだろー。あ、そっかー、私を見殺しにしかけた時以来だねー」

 高身長で、金髪で、長髪で、別の学校の制服を着ていて、おそらく校則違反だろうと思えるくらいボタンは外れていて、ミニスカで。 全ての始まりでありである彼女ーー時任茜が、ニタリと笑った。「楽しみ」

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