第11話 実験
「「え、ここなの・・・・・・?」」
ハモった瞬間に盛大なため息を柳さんから浴びせられた。
全く息が合っていない二人の言葉がかぶってしまうのも仕方が無いレベルの家だった。
家というより、高層マンションだ。
このあたりで二つの意味で最も『高い』マンションを紹介された。
「三十六階が私の家よ」
「三十六って、最上階じゃ・・・・・・」
「放任するけど、それなりの待遇はしておきたい・・・・・・そういう親なのよ。ーーまあ、気持ちはわかるけどね」
そう言う時任さんは依然として無表情だったものの、悲しい気持ちなのは痛いほどわかった。
「こ、こんなに高いところなら、何しても問題ないね!」
エレベーターに乗りながら訳のわからない興奮具合をみせる柳さんは放っておき、「あのさ」と時任さんに話しかける。「親御さんには僕が部屋に入ることって言った?」
「言ってないし、言う必要も無いわ」
「いやでもなんかここ、監視カメラとかあって、時任さんの部屋に入る僕の姿みられたら説明のしようが無いんだけども」
「そんな心配、あの親がするわけ無いわよ。大体薫もいるんだから大丈夫でしょう」
「そうかなあ・・・・・・」
僕の隣にはスーハースーハーと全力で呼吸をしている柳さんが居る。その後「我慢しろ私我慢しろ私」とつぶやいている。
大丈夫って何だろうか。
難しいが、その言葉は僕が証明しなければならないものなのだろう。
まるで高級ホテルのような綺麗な廊下を歩き、一番奥の部屋に入った。
「「大きい・・・・・・」」
アパートの一室にひっそり住んでる僕の家の軽く三倍はある部屋だった。
そんなに大きいのに、物という物がほとんどなかった。部屋に設置されている大きなキッチンや、リビングの中心に机と四人分の椅子はある。そのほかにあるものといえば、こじんまりとした冷蔵庫と食器棚、学習机やパソコンは見つかったものの、テレビさえないというのは凄いと思った。
「まじまじと見ないでよ」
「ごめん、気になってしまって・・・・・・」
「正直すぎるでしょう、全く」
時任さんは無表情ではあったものの、僕の方を見ていないところから気恥ずかしいんだなと察した。
「ごめんなさいね、あまりおもてなしが出来ない部屋で。適当に座ってちょうだい」
「うん、ありが」
「ありがとう百合ちゃん! うわっほい良い匂い!」
「急にフルスロットルはやめてくれるかな!」
椅子に座った途端急にハイテンションになったのは、言わずもがな柳さんだった。
「ねえ、何する! 何しようか!」
「何するでもないよ。君ら二人がが一緒に居ること自体が今回の目的だか」
「何それエロいね!」
「せめて最後まで台詞を言わせて」
「ねえ百合ちゃん、何しようか!」
「・・・・・・私の部屋、皆で遊べるようなものはないわよ。せめてドミニオンくらい」
「何それ知らな」
「そしたら王様ゲームしよっか!」
「勢い止めてよ柳さん!」
じゃーんと言いながら柳さんが出したのは三本のストローだった。
一本のストローの先端は赤く塗りつぶされており、それ以外のストローには数字が記入されている。
それらを一度見せた後、逆にシャッフルした。
「はい、百合ちゃん、引いて」
「え・・・・・・本当にやるの?」
「もちろん! まだ時間はたっぷりあるし!」
明らかにうろたえている時任さんを見て流石にこのままやるのは良くないと思った僕は、柳さんに「まずドミニオンやらない?」と提案した。提案はしたものの「ごめん君島君の意見は聞いてない」とドスの効いた声とゴミを見るような目つきで敵意を示されたので「はい・・・・・・」と呟く他なかった。
「ええ・・・・・・どうしましょうか・・・・・・王様ゲームなんてやったことない・・・・・・」
「奇遇だね、私もやったことない!」
「こんなに雑な奇遇、初めてみた」
「何事も経験だよ、やってみよう!」
そう言って時任さんの前にストローが三本差し出された。ちらちらと時任さんが僕をみてくる。「やめた方が良いよ」と一言だけ言ったら「あぁん?」と悪鬼が僕を睨んで脅してきた。
怖えよこの人、何だよこの人、若干の恐怖を感じる。
「引いたわ」そうこうしている間に時任さんがストローを一本手にしていた。おびえる僕を気遣ってくれたんだなということは流石の僕にもすぐにわかった。ーーと思いたかったが、存外時任さんは真顔ながらも楽しそうだった。「次は君島君よ」
「・・・・・・わかった」
時任さんが楽しんでいるならば僕も楽しまなければならない。
その上で、何も問題が起きないようにしなければならない。
確率は二分の一。
ここで王様のストローを引かなければ間違いなく地獄が待っている。最悪の場合『時任さんと柳さんに長時間一緒に居てもらう』という目標を達成できなく鳴るかもしれない。
ここで全ての運を使い果たすんだ・・・・・・やるんだ、僕・・・・・・!
「ええい、ままよ!」
数字が記入されていた。
「終わったーーー!」
「終わってないよ、始まったんだよ! 私という名の王政がね!」雄叫びをあげながら全力で立ち上がった後、「じゃあいくよ!」と叫び出そうとする。
その瞬間。
柳さんは、ピタリと止まった。
「これ、番号わからないと何も・・・・・・」
「それを見越しての発案じゃないの!」
まさかの考えなしだった。
確かに、時任さんに何かをさせようとしても番号を間違えてしまった場合、僕がやることになるのだ。それは柳さん的には何が何でも避けたい展開だろう。
その対策としてストローに細工でもしているかと思いきや、ただ単純に勢いで王様ゲームを発案しただけだったらしい。
「・・・・・・・・・・・・ッ!」
柳さんが全力で僕のストローを睨む。何が何でも僕を対象にすることを避けたいが故らしいが、いくら睨んだところでわかるわけがない。
確率は二分の一。
これは流れ試合になりそうだなと安心しかけたところで、「そうだ!」と柳さんは大声を出した。「一番と二番、どちらか可愛い方が私とスキンシップして!」
いかにもしてやったりという顔をしているが、どう考えてもルールを逸脱していた。
「そんなのまかり通るわけないだろ!」
「なんでー? ちゃんと番号で指示してるよー?」
「番号以外の縛りが大き・・・・・・何そのしたり顔!」
「してやったりってことさ! さあ月とすっぽんの二人! 雌雄を決した後、『月が綺麗ですね』『私、死んでも良いわ』って私と言い合おう! そんでもって月食を起こそう!」
「何を言いたいのかわかんないんだよ! ねえそう思うよね時任さん!」
「そうねえ・・・・・・」
「だよねえ時任さん!」
「薫の条件だと、君島君と薫がスキンシップすることになるものねえ・・・・・・」
「「え!」」
敵対している二人が同時に驚いたが、もう遅かった。
時任さんは自己評価が低いとは思っていたが、まさかここまで重傷とは・・・・・・!
「え、いや、待って、そんなわけないじゃん、百合可愛いよ」柳さんはしどろもどろになりながら、真っ赤な顔でさらっと告白をした。
「何言ってるの。君島君は愛らしい顔立ちをしていると思うわ。何でこんなに女性にモテないのか不思議なくらい」
「嬉しいんだけど勝手に僕をモテない男認定するのはやめて」
「目を覚まして百合! 美女と野獣っていう表現がこんなに似合う二人も珍しいんだよ!」
「柳さんの発言はシンプルに傷つく」
この後、柳さんによる『時任さんはいかに可愛いか』講座が長時間続いた。それは夕方まで続き、夕食を食べながらも続き、夜まで続いた。
家が広いことが功を制し、僕は二人が眠るベッドから離れたソファで寝た。流石に自分の家に帰るという選択肢をとろうとしていたのだが、いきなり両肩を掴んできた柳さんが絶賛興奮中だったため、残ることにした。
その間、危険予知は放送されなかった。
もしかしたらこのままいけるのでは・・・・・・。 そう僕と時任さんは顔を合わせながらそうーー勘違いをしてしまった。
その瞬間、僕らはーーサイレンを聞いた。
半日程度。
柳さんが持つ特性の効力は、その程度しか時任さんが持つ特性に敵わなかった。
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