第8話 映画鑑賞の顛末
そのナレーションを聞いた途端、やってしまったと思った。このシリーズでこんなテーマを扱ってくるとは。
駄目だ。
このテーマを時任さんにみせてはいけない。「時任さん・・・・・・」
つぶやきながら右横を向いてみた。
彼女は僕の方を見ずに、真剣に前を向いていた。
「・・・・・・大丈夫?」
「・・・・・・ありがとう。大丈夫よ」
そう言いながら僕の方を一瞬みてくれた。尚も真顔だったけれど、あり得ない失態にも関わらず、彼女は真摯に向き合ってくれる。
そうして時任さんと僕は映画館に居続けた。三時間という無駄に長い上映時間の中、時任さんは僕の方を一度も見なかった。
時任さんの覚悟など露知らず、物語は進んでいく。
長年サメの恐怖に脅かされてきた住人は、危険予知という仕組みを用いて対抗しようとしていた。危険予知の放送はケータイ電話やパソコン、テレビに搭載されるのはもちろんのこと、交通公共機関や電柱にも搭載された。危険予知をしたところで被害をゼロに防ぐことは難しいが、それでも、少しは被害を減らせるのではないかという試みだった。
ここまでは僕らの日常と同じだったからすんなり説明が入っていった。
しかしそこで現れたのが危険予知の対象に入らないゴーストだった。危険でしかない存在であり、人の目に何故か突然見えるようになったにも関わらず、危険予知が作動しない。
何故なのかわからないままゴーストを退治しようと立ち上がる科学者軍団だったが、一向に方法がつかめない。
目の前にゴーストが居る。
そして遂にその状態のままーー危険予知が鳴った。
ゴースト相手に作動したと思った矢先に出現したのは、サメだった。
終わったーー
そう思った科学者軍団が目をつぶった次の瞬間ーー
ゴーストが、サメに、危害を加え始めた。
大量のゴーストが一度に出現し、サメにまとわりついてく。そしてどんどんサメの表皮に氷が付着していき、やがてサメは動かなくなった。
ゴーストは人間に危害を加えようと出現したわけではなかった。
人間をサメの脅威から救おうと、姿を見せてくれたのだった。
*
「本当に危険な存在は何なのか・・・・・・考えさせられるわね・・・・・・」
「そうだね・・・・・・」
映画が終わった後、ひとまず近場のファーストフード店に入り昼食をとろうという話になった。
「単なるB級映画かと思っていたけれど、意外と奥が深かったわ。あのシリーズっていつもああいう感じなの?」
「いや、シリーズ全部観てるけどいつもはもっととんでもなかった」
「それはそれでみてみたいわね・・・・・・あ、やっぱりだわ。監督が替わってる」
「そうなんだ。知らなかった」
「聞いたことない監督ね・・・・・・メモしておきましょう」
時任さんは意外と映画に詳しく、なおかつ映画の感想をしっかり話したい人だった。
オーソドックスな映画を観たときだったら感想を話し合いたいと思った。
ただ、この作品に関しては話が違ってくる。「ごめん」謝るべきではないと思ったが、それでも、口に出していた。「きちんと前情報を確認しておくべきだった」
「気にしないで良いわよ。面白い映画だったし」
「でも・・・・・・」
「気にしてくれるのは嬉しいけどね。でも、大丈夫。慣れっこだから」
さあ行きましょうかーーそう言って次の目的地へと向かおうとする。僕らが向かうのは何が起こっても巻き込む人を限りなく少なく出来そうな場所。そんな目的地を描いている男女二人など僕らだけだろう。
立ち上がり、僕の方をみた彼女の表情はとても柔らかく、思わず見とれてしまっていた。
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