第6話 一緒に

 目の前であんな光景をみたのは生まれて初めてだった。テレビや新聞の向こう側で起こっていた事象が、ここ二日間連続で起こってしまっている。

 危険予知すらこれまでの人生の内片手で数えられるくらいしか聞いていないのに。

「また、またなんだわ・・・・・・また・・・・・・」

 彼女は駅前にあるカフェの席に座りながら、ぶつぶつとつぶやいていた。彼女の目の前にはコーヒーがあるものの、もうすっかり冷え切ってしまっている。体の震えは収まったものの、辛そうな表情には変わりない。

「・・・・・・大丈夫?」

「いつになったら・・・・・・どうすれば・・・・・・」

 僕が何を話しかけても、彼女はつぶやきをとめなかった。かれこれ十分程度話しかけたが、ひとまず彼女のつぶやきがおさまるまで待つことにする。

 ーー「私ね、一日に一回は危険予知を聞くの」

 彼女はこう言っていた。

 最初は内心そんなはずはないだろうと思っていたけれど、これが真実ならば、彼女はこれまでどんな人生を歩んできて、これからどんな人生を歩むのだろう。

 一日に一回危険予知を聞く。

 そのたびに誰かが死んでしまうほどの事件や事故が発生する。

 彼女はこれまで当事者になったことはなかった。良くも悪くも危険予知のおかげなのかもしれない。特に昨日の事故は、彼女自身が死んでしまう可能性もあったのだから。

 彼女は危険予知によって生かされてきた。

 だが、そのたびに凄惨な現場を目の当たりにしてきた。

「私のせいで・・・・・・」

 ーーこう思っても仕方の無いことだった。

 その気持ちは、僕には、痛いほどわかった。「そうだよね、時任さん」

 それゆえこのときは自分の気持ちを言葉に出した。

 多分、彼女が僕に求めているのはこの要素だと思うから。

「・・・・・・君島君ならわかってくれると思ってた」

 弱々しい表情だった。

 今にも泣き出しそうで、今にも逃げ出しそうな、そんな表情。

 いつの間にか、僕は彼女の手を握っていた。「一緒に抵抗しよう」

 ーー脳裏に浮かぶのは、親友の姿。

 ーー親友が、屋上から飛び降りている光景た。

 あんな悲劇は、二度と繰り返さない。

 そのためにはどうすればいいのか、僕が考えた結論を述べる。

「危険予知を、覆そう」

 時任さんと一緒に居れば、一日に一回危険予知を聞くことが出来る。

 巻き込まれるではなく、発覚を予知できる。 予知を、予知できる。

 『未来がわかる未来』がわかるのならば、何か打てる手はあるかもしれない。

「時任さんの力で、色んな人を救おう」

 この言葉を聞いて、時任さんは僕の手を強く握った。じっと僕の目を見て、次の言葉を待っている。

 わかっているに決まっている。

 そんなことは、予知がなくてもはっきりしていた。

「そのためなら、僕は全力を尽くすよ」

「うん・・・・・・うん!」

 そうして時任さんは僕の手に顔をあてながら、盛大に鳴き始めた。嗚咽を漏らしながら、「ありがとう」とつぶやいている。

 他のお客さんなんてどうでもよかった。

 時任さんの泣き声を聞きながら、僕は思った。

 あんな悲劇を繰り返さなくて良いなら、なんだってやってやる。 

 そうして十分間泣き続けた時任さんは、泣きはらした顔で「それじゃ、よろしく」と言った。

 気丈な表情に戻っていて、それだけでも僕がいてよかったと思えた。

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