第3話 行動
「・・・・・・え?」
何を言っているのかがわからない。
確かにこの街では事故や事件が発生する際には、その数秒前に『危険予知』として放送される。信号のスピーカーだったり掛け時計だったり、電柱一つ一つに設置されたスピーカーから放送出来るようになっている。
そんな街に住んでいれば人生のうち一回は聞いたことがあるものだとは思うけれど、それを一日に一回聞くなんて、そんなことがあるのだろうか。
もしそれが真実ならば、彼女は毎日、事故や事件に巻き込まれていることになっている。「こんな体質だから、事故とか事件とか、全部私のせいじゃないかって思うの」お手ふきで口を上品にぬぐった後、彼女は言う。「卵が先か鶏が先か。危険予知に巻き込まれているのか、私が危険予知を放送させているのか。わからなくなっちゃうのよ。人様に迷惑かけているかもしれないのに、のうのうと生きていて良いのかなって思ったりもするわ」
彼女の言葉は徐々に迫真めいたものになってくる。一つ一つの言葉が僕に突き刺さってくる。
彼女が次に言う言葉は、容易に想像できた。
「茜にあんなことをした君島君は、何故のうのうと生きていけるの?」
今すぐこの場から逃げ出したかった。
絶叫をあげ、コーヒーをそのままに、代金だけ支払って立ち去りたかった。
ーー一年前。
過去回想なんてする間ももったいない。
なんせ三行で終わる話だ。
・・・・・・僕と時任茜は仲が良かった。
・・・・・・時任茜が屋上から飛び降りた。
・・・・・・服の裾を掴めたのに、力が及ばなかった。
ーー一年前。
あの事件が起こった直後の僕だったら逃げていただろう。
だが、今は、逃げない。
そのために僕は生きている。
「・・・・・・君島君、やっぱり変われたのね」 ーーよかったわ。
ぼそりとそうつぶやき、彼女はブレザーの内側に手を突っ込んだ。
彼女の手にはスマートフォンが握られている。
「明日の午前九時、金山駅の改札前集合ね」
本格的に何を言っているのかがわからなかった。
そんな僕を見て「なんて顔してるのよ」とジト目を向けながら、スマートフォンをいじる。
SNSの連絡先交換画面が表示されていた。
「・・・・・・どういうこと?」
「だから言ったじゃない、恩返しがしたいって」
彼女ーー時任百合は口だけ笑って、こう言い放った。
「恩返しに、デートしてあげる」
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