第3話 登場巻暗いし。

 彼からお付き合いの話をされてから、2ヶ月と半分が過ぎた。あんなに暑かった夏はすっかりどこかへ去って、冬がジリジリと迫って来ていた。あんなに土砂降りになってはかんかん照りになって、暑くて暑くて狂ってしまいそうな季節が過ぎた。夏は眩しくて嫌いだ。だからといって冬も暗いから嫌いだ。季節が過ぎてもそれでも彼は変わらなくて、イエスもノーとも言わない私の側にいる。私はだんだんとこのままでいいような気がしていた。でもそれじゃダメなことも知っていた。



「図書館久しぶりに行きました」


「私も」


「あんなに行ってたのに?」


「昔と今は違うんだよ」


「ですね。先輩、実は俺」



 なんだかその声がいつもと違う気がして少し不安になる。実は俺、先輩のことなんか好きじゃないんですよね。なんて。



「実は、小説書いてるんです」


「は?」


「いやー恥ずかしい話、中高からずっと。元々本好きで、いつか書店に並ぶくらいの小説家になって先輩に読んでもらおう、とか。実はそれ僕なんですって言うのが夢で」


「そんなことやってたの?」


「うう。先輩の目を盗んで先輩が借りた本を借りて。どんな本よく読むのか研究して。一回もバレなかった」


「お前が本が好きなのも今知った。私に合わせてるんだと」


「正直、初めはそうでしたよ?でも今は先輩関係なく小説書いて、ネットに上げてます」



 私のことを書いた話はボツ。私の登場巻の彼の苦悩が暗過ぎ。



「もっとラブコメにしてよ」



 あ、しまった。



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