第16話 正月

「中谷さーん、店長が呼んでますよ」


どんどん叩く戸の音で目が覚めた中谷は、汗でびっしょりになった体を無理矢理起こすと、

「今すぐ行くって言ってくれ」

と呼びに来た配達員に向かってドア越しに叫んだ。

腕時計を見ると、すでに昼を回っていた。

計算すると10時間以上寝ていたことになる。夢の残像が瞼から未だに離れない。


(俺は負け犬だ。クズだ。死ぬこともできない)



中谷が着替えて営業所に出向くと、仮眠室に全員が集まっていて、酒を楽しんでいた。

「店長、昨日はすみませんでした」

「気にすんなよ。まあ座ってこっち来て一杯やれや」


中谷が大森の声に誘われて、空いている所に座り込むと、若い配達員が気をきかして、中谷にコップ酒を手渡した。

中谷はいつもと少し部屋の空気が違うので、周りを見ると、知らない顔が二人、奥の方に座っていた。

中谷はすぐに堀江と自分の区域の補充の為、他の営業所から回された応援部隊であることを察知した。

二人は中谷を見て軽く頭を下げた。


「この冷え込みだと、天気予報でも言ってたが明日は雪になるかもしれないぞ。

今晩は各自チェーンを用意しておけよ」

大森が号令をかけると、若い配達員が中谷に気をつかって話しかけた。


「正月中は朝刊だけだから楽ですよねー、中谷さん」

「中谷、お前疲れてるからしばらく休んでいいよ。

所長も承知してるし、応援の入ってるから心配しないでゆっくりしてろ」


大森が優しく言うと、中谷は顔を受けて軽くうなづき、コップ酒を飲んだ。

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