第13話 師走
それから四日後の平日、中谷は堀江を連れて銀行へ行き、三百万円を降ろした。
堀江はガムが張り付いたように中谷の後ろから離れない。
それから二人は工場へ行き、書類と引き換えに札束をおやじに手渡した。おやじはそれを中谷から受け取ると口を開けっ放しで慌ててナッパ服に突っ込もうとした。
三百万ともなると結構な厚さで、しまうのに手間取っていると、
「おやじ、慌てるな馬鹿。ここへ置け。領収書を用意してこい」
堀江はおやじのポケットに入りかけた札束をひったくると、テーブルの上に置き直し、
「おやじ、お茶を持って来いよ」
と怒鳴った。
「全く職人は困るよ。ちょっと大きい金見るとすぐ泡食うんだから」
中谷が特許の書類をめくって目を通して眺めていると、前と同じようにおやじがお茶とせんべいを持ってきた。
堀江は器の草加せんべいを一枚とるとバリバリ口にほおばった。
「中谷さん、俺、おやじと内輪の話があるから、後は俺に任してくれる?」
そう言って、中谷に先に帰るよう促した。
中谷は、書類を封筒に入れると、堀江に言われるままに外へ出た。
師走の冷えた風が中谷の頬を撫でた。
晴れ上がった空を眺めて中谷は、下町の空気を手を広げて胸いっぱいに吸いながら歩きだした。
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