第12話 ドラゴン
二人は工場を後にして、駅前の赤ちょうちんで一杯やることにした。
「だけど日本の経済も終りだね。ああいう優秀な技術を持ったおやじを見殺しにするようじゃ」
「あそこで何年くらい仕事してんの」
「そうねえ、俺がガキの頃からだから、終戦後間もなくじゃないの」
堀江はそっけなく答えると、手酌で熱燗をグイグイと飲んだ。
「ねえねえ中谷さん、今度、吉原行こうよ。俺いいソープ知ってるからさ。中谷さんにピッタリの子、紹介すっからさ」
堀江は前歯の一本欠けたしまりのない口を開けて中谷に笑いかけた。
「ところでさっきの話、いつまでに必要なの」
「ああ、さっきの話ねえ。二十五日くらいまでじゃないの。暮れの〆は大体二十五日でどこも終りだから。でも、無理しないでくださいよ。
もったいない話なんだけど、世の常で長いものには巻かれるしかないのよ。あのおやじも背に腹はかえられないし、大きい会社に吸収されていくしか生きるすべはないでしょ」
「ちゃんとした保証人でもいれば三百万円くらい借りられるでしょ」
「いや、あのおやじ、もうこれ以上やる気無くしてんのよ。疲れ切ってるからねえ。
すべて処分して廃業する気でいると思うよ」
「僕が三百万出したとしたら、その後どうすればいいの」
「まず、特許権を中谷さんに移して、それからおやじの後継者として得意先に挨拶シて回るようでしょ。あとは、おやじと中谷さんで経営していくようになるんじゃない。でも、俺も無理には勧められないよ。あのおやじも年だし、いつまで体がもつか。それによく考えたら中谷さん、全くのシロウトだもんね」
「そんなに年には見えなかったよ。あのおやじとなら、何となく一緒にやっていけるような気がするんだけど」
「新聞辞めるの、中谷さん。確かにあんたはいつまでも新聞なんかやってる人物だとは思ってませんけど、、、、」
「二十五日までに三百万用意するから、堀江さん保証人になってよ」
「俺、中谷さんとはズッといい関係でいたいんだよな。俺が紹介した件でやっぱりうまくいかなくなって恨まれんの嫌だからさ」
「堀江さんらしくないねえ、今晩は。やけに弱気じゃない」
「いや、そういう訳じゃないけど、、、、」
堀江は照れ臭そうに頭をかくと、再び手酌で一杯飲み干し、
「よーし、いっちょやってみるか中谷さん。握手しましょ、こういう時は。
嬉しくなってきちゃった。久しぶりに男気を感じたよ。やるねえ―、いよッ、男前!」
堀江は中谷の右手を両手で握りしめ、目をパチクリさせて今度は中谷の肩を思い切り叩いた。
すると、中谷の背中で寝ていたらしい龍がピクッと動いた。
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