k-137

 仮に、無人島で10億円をもっていたとして、何の役に立つのだろうか。


 『重要なのはサバイバル技術であり、衣食住に必要な物資だ』と誰もが答えるだろう。


 レッサードラゴンがバッサバッサと飛んでくるこの世界に、金銭の価値はそれほどないのかもしれない。


 金など生きていく上で必要最低限な程度があれば十分だ。重要なのは自由な時間であり、他人に寿命を奪われないことである。


 タイムイズマネーという言葉は正しくない。


 時間と金は決してイコールなどではなく、タイムの方がはるかに重要な価値があると俺は思う。



 ◇◇◇



 俺はこの日、ドラム缶に設置できるサイズの鉄の板を作成。


 マーマンの鱗を砕いて、鉄の板に水属性を付与していた。


 冬、雪が降るとして交通手段はどうなるのだろう。


 ドラム缶を荷馬車に積んで風呂用の水を気軽に運ぶのは難しいように思う。


 俺は水が湧き出る鉄の板、【ウォーターボード】をドラム缶に設置して、風呂用の水にすることにした。


 水は綺麗なのだが、たまる速度は非常にゆっくり。一つでは足りないので、ドラム缶を三つに増やした。


 なお、雪が積もれば、雪を融かして風呂にするという手もあるが。


 丁度『ウォーターボード』が三枚完成したところで、汗だくになっていた俺は、風呂に入りたいと思った。


 今すぐ風呂に入りたい俺は、ドラム缶を荷馬車に積んで川に水を汲みに行き、風呂を沸かした。



 18:00


「ふー」


 湯煙の中俺は深く息を吐く。


 空を見上げると蒼い満月がやけに大きく見える。


 ふと思う。今日はユリナさんのことを考えていない。


 人はドラマの世界みたいに恋愛だけには生きられない。


 リアルな日常生活を過ごすのには相当な労力を使う。俺など、風呂を沸かすことだけを考えて今日一日を潰した。


 いつまでも結婚しない俺に、上司は「妥協しろ」と夢のないことを言っていた。


 やはり、それが正しいのだろうか?


 妥協をして、結婚をして家庭を作る。実現している人は立派だと思うし、それを否定する権利は俺にはない。


 しかし、俺にはこの不思議な世界でできた親友たちとの関係以上に価値があるものとは、どうしても思えなかった。



 気がつけば、彼女のことで舞い上がっていた自分を客観的に冷静に分析してしまう悲しい生き物がそこにはいた。


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