第3話 帰りたいけれど……
今の私よりも幼い子供の頃にやって来て、辛い事もあっただろうと思った。
帰りたいと強く思った。だけど、帰れない覚悟もしなければ駄目だと思った。
「上原さん。また、来てもいいですか?」
「ええ是非いらしてね。困った事があったら遠慮なく言ってね」
と言われた。
帰り途中洋介さんに、まだ他にも方法があるかも知れない。と、励まされた。
その優しさに涙が出そうに成った。でも、私は涙をぐっとこらえ、「うん」と頷いて笑った。
家に帰って来て、今日聞いた事を話し、これからどうするか?を話し合った。
帰る方法が見付かっても見付からなくても、今は、この世界の常識を覚えないといけないという事に成った。
その為、学校に行ったらどうかという案がでた。
学校……。行きたいけど、この世界の事を全く知らない私で大丈夫なのだろうか……
とりあえず、字の書き方や簡単な地名などは、おばさんや洋介さんに教えてもらう事になった。
この世界での字は日本とそれ程変わりはなかった事に安心した。
意味はどうなのだろうか……。それは辞書を開いて調べてみよう。
常識は、へまをしない様にちゃんと教わろう……。
よし。頑張るぞと、自分に気合いを入れた。
それからの毎日は、昼間は家の手伝いを兼ねた常識と外に出ての過ごし方や魔法の操り方の練習。夜は洋介さんから勉強を教わった。
洋介さんの教え方は、とてもわかりやすく楽しかった。
でも、助かるんだけど、私の勉強ばかりを見ていたら、洋介さんの勉強の邪魔に成るんじゃないかしら……。
私は心配したけれど、本人が大丈夫だと言うのでお言葉に甘えさせてもらった。
その甲斐あって学校に入る事ができた。
私は、この世界の高校二年生に成ったのだ。
洋介さんは二つ年上で隣の大学に通っている。
とても優しく親切な人だ。私は彼をとても信頼している。
学校での授業は先生が魔法を使って書きながら授業する。
私の世界と違うのは、先生が振り向かなくても字が書けるので、油断ができないのがツラい……ところだ。
それでも、私にとっては授業は新鮮で楽しいものだった。
私にも、この世界での友達ができた。
一人はセイラあゆな、もう一人はハルキ加奈どちらも明るくて可愛らしい女の子だ。
この世界の苗字は変わっている。名前の様な感じで、外国人みたいだと密かに思っているのは内緒だ。
二人には、私が異世界人という事はまだ、伝えていない。伝えた方がいいんだろうけど、反応が怖かった。
ごめん。あゆな、加奈必ず話すから……と、心の中で詫びた。
今日は、帰りに遊びに誘われたんだけど、用事があると断った。
お世話に成っているのに、遊んで帰るのはさすがに気がひけたから……。
「ただいま帰りました。」
「あら、お帰りなさい。早かったのね。」
「お友達もできたんでしょう?遊んで来ても良いのよ」
「でも……、お世話に成っているのに悪いです。」
「気にしないの。大丈夫だから、誘われたら遠慮せず遊んで来なさいね」
「はい。今度はそうしますね」と、返事をした。
「あっそうだわ!美和さんにお小遣いあげてなかったわね。はい。お小遣い。自由に使ってね」
「居候なのに学校やお小遣いまで……。ありがとうございます。」
大事に使おうと思った。それから間もなく洋介さんが帰って来た。
「学校はどう?友達はできた?」と、聞かれた。
「ええ。二人程仲の良い子ができました。」
「それは良かったね」と、微笑んだ。
かっこいい……。彼女とかいるのかなぁ……。たぶんいるよね。かっこいいもん。
私は、いるだろう彼女を羨ましく思った。
ここの生活にもだいぶ慣れたけれど……日本に帰る方法はまだわからない。
洋介さん達や上原さん達が調べてくれているんだけれど、何も進展がない。
自分でも図書館で調べたり、市役所に相談したけど、全くわからないとの事だった。
私はどうなるんだろう……このままこの世界に残るんだろうか?と、考えていると、顔色が悪いよ……と洋介が心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫です」と笑ったけど、ちゃんと笑えてなかった様だ。
「帰る方法はまだわからないけれど、美和さんは俺たちが守るから大丈夫だよ。」
優しい言葉に涙が出た。泣かない様にしてたのに、泣いてしまった。
「ツラいんだろう。泣いていいんだよ。」と、洋介さんは私を抱きしめた。
私は彼の腕の中で泣いた。どれくらい泣いたんだろう……急に恥ずかしく成った。
「洋介さん。ありがとうございます。もう大丈夫です。」
「一人で悩まないで俺に頼ってよ。俺が守るしチカラに成りたいんだ。」と、彼は言った。
私はまた、涙が出そうだった。
心配してくれてありがとう。と、言って部屋に戻った。
部屋の壁に背中を預けズルズルと落ちながら、帰りたい………けれど帰る方法が見つからない。
もう一ヶ月以上過ぎた。覚悟しなければ駄目だよね。
洋介さん達に甘えてばかりじゃ駄目だと思った。
強くなれ私!負けるな私!この世界で生き抜くチカラを自分で見つけるんだ。
私は、グッと手を握りしめた。
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