第4話
今日で3日になる。
上から下までお嬢様ファッションで決めた女子大生の尻を追っかけまわすのは、果たして探偵として相応しい仕事なのか否か・・・・しかしもう前金を50万も受け取っちまったんだ。
仕事は仕事だ。
ただ、俺にだって探偵としてのプライドってもんがある。
『もし娘さんが万引きを働いて、それを保安にみつけられ、向こうが警察を呼んだりしたら、その時はもう仕方がないと観念してくれ』俺はそれだけは念を押した。
俺が出来るのはせいぜいゴシップ屋どもから彼女を守ることくらい、それだけだ。
彼女も『その時はもう覚悟を決める』とくちにしたものの、出来れば防いでほしい・・・・そういう表情が見え見えだった。
幸い、俺が尾行に張り付いてから、幸か不幸か彼女は万引きは働いていない。
少なくとも、今日の書店までは、だ。
店そのものは中規模で、繁盛しているようだったが、しかしセキリュティにはそれほど金をかける余裕はないようだ。
入り口にあるような警報装置もない。
防犯カメラも据え付けられていない。
店員は一人だけ、それもあまりやる気のなさそうな男子学生(バイトだろう)が、レジのカウンターの後ろに座って、さっきから参考書にくぎ付けになっている。
店主はいるにはいるが、あまり店に出てこない。
これじゃ『盗んでください』と、大げさに宣伝してるようなもんだ。
しかし俺はこの店に雇われているわけじゃないし、仮に万引きだと分かっても、店の中で騒ぎ立てるわけにもゆかない。
彼女がこのまま一歩でも店を出てからでないと逮捕は出来ないのだ。
店の中には目つきの悪い男二人と、仲に入るとき気づいたのが、大きめのバンが路肩にハザードランプを着けて停車しているのを確認していた。
彼女はもう一度店の中を巡って、今度は文庫本コーナーに行き、リルケの詩集と、夏目漱石と太宰治の著作を数冊、バッグの中に放り込んだ。
そして、そのまままっすぐに出口へと向かって行った。勿論レジは通していない。彼女の身体全体が店の外に出たのを確認すると、俺は迷わず後ろから彼女の腕をつかんだ。
『分かってるね?』
俺の言葉に彼女は素直に従い、何も言わずにそのまま事務所へとついてきた。
まず俺は探偵免許とバッジをみせ、盗った品物を出すように促しておいて、電話
で店長を呼んだ。
直ぐに店長が駆けつけてきた。
俺は事の次第を説明すると、店長は呆れたような、泣きたいような表情を浮かべ、一見しおらしそうに椅子に腰かけている『優里亜』と、並べられた雑誌を見つめた。
『お金は・・・・お金は払います・・・・だから・・・・許してください!』
『わしにもあんたくらいの娘がいるがね・・・・自分の娘がこんなことをしたら、今頃張り飛ばしているよ・・・・』
そういってから、本屋が一冊の本を売り、そして利益を出して店を維持していくのが必要かを、諭すような口調で話して聞かせた。
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