8話ー2 ソウルシャウト

焔ノ命ほのめお嬢様が飛びますわ!対空砲火――深淵の余波を打ち散らして下さいませ!」


「アイ・マム!対空砲火、焔ノ命ほのめお嬢様周辺へ……お嬢様には当てるなよっ!」


「「「アイ・サー」」」


 赤き弐番艦武蔵が天女の如き歌姫を守らんとし、吸血鬼の妹カミラの号令の元に奮闘する。

 同時に強奪の壱番艦大和命の深淵オロチに操られる様に、前線の魔法少女達を標的に捉えんとした。

 が――


回転衝角ドゥラギック・フォーディスを障壁へ叩き付けろっ!こちらの攻撃は届かんが、攻撃を分散させる事ぐらいはできる――」


「主砲でさえなければ当艦の被害など構うな!この村上水軍の血に誓って――何としてもお嬢様方にお力添えをして見せる!」


 再度の反転から、赤き弐番艦武蔵守りの鏡八咫天鏡へと激突する。

 それもただの無意味な特攻とはならず――獣宿す令嬢若菜が展開する微小重力干渉が功を奏し、回転衝角ドゥラギック・フォーディスの突撃が生む衝撃波が強奪の壱番艦大和へと少なからず干渉を始めていた。


壱京いっきょうはん、おおきに!こちらも攻撃の機会が生まれます!桜花おうかちゃん!」


「了解だよ、若菜わかなちゃん!皆、焔ノ命ほのめちゃんを援護して!」


「何だ!?何やらかすし!?」


「委細承知――深淵よ、我が回転衝角ドゥラギック・フォーディスの突撃を味わうがいいっ!!」


 すでに守りの鏡八咫天鏡へ飛来した歌姫焔ノ命

 それを視認した獣宿す令嬢が最強の当主桜花へ合図を飛ばし……意図を測りかねる聖霊天使アーエルと、有無を言わさず突撃を敢行する赤き魔王レゾン


焔ノ命ほのめちゃんは私達が守るよ!対空砲火、霊撃変換にて攻撃……撃てっ!!」


 応じる金色の王女テセラ戦乙女ヴァルキュリア対空砲火をばら撒き、歌姫が行く道を抉じ開けにかかる。

 浸蝕の月神ツクヨミノミコトの背部から深淵に満ちた霊撃が舞い……その度に戦神の如き少女がそれを穿つ。

 その中央を抜けた歌姫は歌声を天空へと叩き付けながら接敵する。


 止めるべき神の少女を……愛しき兄妹である少年の体躯を救うために——


「ツクヨミの神様っ!ウチの歌を、聞きやっっ!!」


『ア……グウゥゥ——ヤメ、ロ!?』


 少女の体躯へ取り付く歌姫。

 歌声がその体躯を通して浸蝕の月神の魂を震撼させる様に……その頭部を掴むと額を合わせる。

 もがく月神を抱き寄せ、深淵を打ち払う様に額を——その心を合わせる。


 一層の足掻きを見せる深淵を穿つは五人の魔法少女。

 空域に散った深淵の魔手が二人へ目掛けて飛べば、五人の少女の守りの一撃がそれを阻んだ。


「やらせないって言ってるでしょ!」


「深淵如きが……焔ノ命ほのめちゃんには手を出させない!」


「久々に魔を穿てるしっ!聖剣エクスカリバーよ……アタシの思いに呼応せよ!エイメンっっ!!」


「ふっ……この私が天使に遅れを取る訳にはいかんな!さあ——我が魔竜双衝角ドゥラギック・フォーディスの餌食となれ、深淵よっっ!!」


 金色の王女が——

 最強の当主が——

 聖霊天使が——

 赤き魔王が深淵の行く手を阻む最強の盾となり、深淵をさえぎった。


「さあ、ツクヨミはん……焔ノ命ほのめちゃんが今あなたを救ってくれますよって、少しは彼女の言う事聞いてあげな——」


『ヤメ……ローーーーッッ!!?』


 だが暴れ、足掻き狂う浸蝕の月神から爆発的な負のエネルギーがほとばしり眼前——額を合わせる歌姫すらも飲み込まんとした。


「……焔ノ命ほのめはん!?その力は危険おす!それに飲み込まれたら、二人とも黄泉比良坂ヨモツヒラサカへ――」


 歌姫と月神を覆う負の膜が、二人の魂を黄泉比良坂ヨモツヒラサカへと引き摺り込もうとした刹那——


「……ちいとの辛抱やで、月の神様。そのまま……!!」


 握り込んだ歌姫の拳が——深淵の浸蝕の膜ごと、闇に迷う神の頬を撃ち抜いた……。



∽∽∽∽∽∽



 深淵の全てが覆い尽くす寸前、ウチはツクヨミの神様を殴り飛ばした。

 それもただの拳やない……八咫の対魔の秘術になぞえるゼロ射程からの術式で。

 元来護りが主なお役目のウチらには、明確な攻撃と言える術式が存在せず——特に歌が秘術の真価となるウチの戦い方などはもっぱら後方からの支援が主体だ。


 そんな中で僅かに存在する完全にふところへ入られた際の反撃の手段は、ゼロ距離からの術式展開。

 それを突っ込んで放つと言うのは、歌で支援する自分の戦い方では無謀とも言えた。


 けれどこ戦い方では悠長に構えていられなかった。

 歌が届かなければ、問答無用で大切な者達を失ってしまうから。


『ありがとう。焔ノ命ほのめちゃんならきっと、ここに来てくれると思ったよ?』


 そんなウチは確かに聞いたんだ。

 ツクヨミの神様を深淵の力ごと殴り飛ばした時……もうその肉体からは離れるしか残されていない、ウチのたった一人の兄妹の言葉を——


御津迦みつか君……!?御津迦みつか君やんな!今ツクヨミの神様が大変なんや……早うこの身体に戻って——』


 聞こえた声に、ウチは言葉を張り上げた。

 けどそれは、

 


 だから彼はこう告げた。

 それは叶えてはならぬ願いだと——けれど……因果に従った場合、たった一つだけ理法があると。


『それはダメだよ、焔ノ命ほのめちゃん。ボクはすでに肉体との霊的な繋がりが途切れている。このままそちらへ戻ることは叶わないよ。けど——』


『たった一つだけ方法がある。でもそれは、ボクもツクヨミノミコトも……その存在が残る保証はない秘術。』


『……御津迦みつか君。それは……それは——』


 ウチもそれを知らぬ訳ではなかった。

 神仏融合の社会に於いては、神事と共に仏門の理も受け入れ……それを理知として蓄えるは基本。

 すでに備わる知識と、今存在するこの地の——四国の本質が脳裏を掠めた。


 は即ちと呼ばれ、八十八の社を逆手に巡ればエネルギーの逆流を呼び——黄泉比良坂ヨモツヒラサカより死者が蘇る。


 けれどその秘術ではただ死者が蘇るだけ。

 そのままでは摂理に反する下法と成り下がる。


『きっと今ならそれが叶うはずさ。だって君の友人には、いるんだから。天楼の魔界セフィロトより下りし、——』


 ただし――

 秘術に関わる者が人ではなく、神仏に相当する者であれば結果が異なるとされていた。

 さらには星に流れる命の大河〈龍脈〉を操作する存在が関与すれば、導かれる結果が理法と化すんだ。


 事実上事切れているたった一人の兄妹から贈られた言葉で……ウチは決意する。

 下法であるそれを理法へと変え、親しき神仏に匹敵する力備える友人協力の元——


 深淵の呪縛からツクヨミの神様を救うための決意を。


「うわああああああっっ!!」


 振り抜く拳にありったけの霊力を込めて、深淵の闇からその身を救い出す様に——ツクヨミの神様を撃ち抜いた瞬間……爆散する深淵の気配。

 散り散りになったそれは、四国へ展開される八十八の社の結界で浄化されて行く。

 そして——悲しみと深淵の狂気に染まりかけていた神様の表情が、穏やかな安らぎに包まれるのを確認しつつ……その身を抱き留めた。


 同じく強奪されていた大和からも深淵の支配が消えたのを感じ、すぐさま制御を取り戻すべく後方の武蔵へと連絡を飛ばした。


「大和を覆ってた支配が消えたで!すぐにメイン動力を遠隔制御したってやっ!」


『心得ました、焔ノ命ほのめお嬢様!これより武蔵の管制制御から、大和への臨時並行管制制御を敢行します!』


 戦乙女ヴァルキュリアモニターに映る緋暮ひぐれはん。

 流石は真鷲組ましゅうぐみ統括部長にして現在武蔵の指揮を執るお方。

 大和と武蔵に備わるシステムをよく熟知している。

 有事に備えた臨時管制制御をすかさず敢行する所は感嘆すら覚えた。


 運用制御する者が消失し、最悪カガワの都へ大和が墜落すると言う事態は免れたウチら。

 ふと見やる視線——別のモニターに映ったのは……ウチを支え続けてくれた桜姫のサクヤちゃん。


焔ノ命ほのめ様……見事な演奏にございましたっしゅ。』


「後ろでサクヤちゃん達が、最高の伴奏を演じてくれたお陰やて。ほんまおおきにな、サクヤちゃん……。」


 もう多くの言葉は必要なかった。


 テセラちゃんにレゾンちゃん……桜花おうかちゃんにアーエルちゃんと共にある、従者達の様にウチらも笑い合います。

 これこそが魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステムの本質。

 従者となる存在との絆が奇跡の力を呼び起こす。


 これよりその奇跡の最大級の力を発動するため……ウチは共に歩んだ友人達へと、話を切り出したんだ。

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