7話—5 鏡の魔法少女 対 魔法少女連合

 暗き深淵が守りの鏡を破壊の魔鏡へ変貌させる。

 八咫 御津迦やた みつかでありツクヨミノミコトであったはずの体躯が、怨嗟の蛇龍を纏いて強奪の壱番艦大和上空へ権限した。

 ほとばしる負の気配が黒き霊撃となりて、四国を覆う八十八の社の結界までも浸蝕せんとする。


「何だこれ!?今までの深淵の気配どころじゃ済まないし!?」


「くっ……負の浸蝕が、我が内のリリに連なる力にさえ干渉する!?これが命の深淵の——」


 聖霊天使アーエル赤き魔王レゾンが撒き散らされた想像を絶する力に驚愕する。

 共にその力の片鱗を知り得たはずであった——が……それが如何に半端なものであったかを同時に叩き付けられた。


「この感じ……カミラが浸蝕されていた時に酷似してる!?そうか——御津迦みつか君を失った痛みに耐え切れなかったカグツチ君のお姉さんが、オロチの浸蝕をまともに受けてしまったんだね!」


「カグツチ君、この感覚は——彼女はツクヨミノミコトで間違いないよね!?カグツチ君のもう一人のお姉さん……太陽の化身であるアマテラスオオミカミ様に対し——」


宿月の化身、あなたの大切なお姉さんだよね!!」


『そうだ、主よ。我が……我が誇りし偉大なる夜の王——ツクヨミの姉者だ!』


 金色の王女テセラもかの魔界にて、己が妹を浸蝕した裏切りの導師を語った気配と悟り——最強の当主桜花は今一度頼もしき従者へ、眼前の存在の正体確認を取る。

 顕現した量子体のまま、力無く頷く破壊の炎神ヒノカグツチはそのまま彼女の戦乙女ヴァルキュリアシステム内へと回帰する。


 その言葉は同時に彼女達魔法少女が相手取る存在が、——日本の八百万やおよろずの神々に於ける主神になぞらえる存在との戦いである事を意味していた。

 それも先の魔界で赤き魔王が挑んだ決闘……神族クラスの魔王との戦いなどことごとく凌駕するモノ——

 負の深淵へと堕ちた神族と死闘である。


 だが——

 その事実を突き付けられた五人の魔法少女の後方より、魂のシャウトが突き抜けた。

 鋼鉄の協奏曲ヘビーメタルに秘められるは――百も承知の事実を受け止め、そこへ真っ向から挑む少女の決意その物。


 歌姫焔ノ命が各魔法少女達の戦乙女ヴァルキュリア宙空モニターへ、行けとその双眸で訴える。

 それはだけではない……でもあった。


 自身も従者を従え、そばには最強の当主も居合わせた事で悟っていたのだ。

 従者となった月を司る神の……主を想うがための暴走であると——


焔ノ命ほのめはん……分かりおした!皆、眼前の深淵に蝕まれる神様は敵やおへん——あれはウチらがそれぞれ傍に従える従者の……大切な友人と同じおす——」


「主を大切にしたい……主のために全てをなげうってでも共に歩みたい言うて尽くしてくれとる、大切な友人達と何も変わりまへん!」


 歌姫の意を受けた獣宿す令嬢若菜が吼える。

 そしてその放たれた言葉に意を唱える物など、この空域には存在していなかった。

 当然である——ここに集う少女達は、共にあった従者を従者としてではなく友人として接して来た者達だから。

 その友人達に支えられ、そして支える事で今の成長を得た者達であったから。


「そうだね、若菜わかな!私はずっとローディ君に支えられて今があるんだ!」


「だね——私だって、カグツチ君が居なければ自分の運命を超えられなかった!」


 王女が……当主が男性陣である友人をおもんばかり——


「ふっ……私など一体どれだけベルの世話になりっぱなしだった事か——思い返しただけでも久々に醜態の文字が浮かんで来る!」


「アタシは今なら分かるし……あの凄惨な過去で生き残る事が出来たのは、間違いなくガブリエルが守ってくれてたからだし!」


 魔王に……天使までもが女性陣である友人を褒め上げる。


 だからこそ理解する。

 理解出来るのだ。

 眼前で悲痛と焦燥にまみれ、深淵の餌食にならんとする存在の呪いとも言える己への贖罪の意思が。


 戦乙女ヴァルキュリアモニターで友人を一瞥した獣宿す令嬢は、同時にそれらに付き従う従者の切なる思いも感じ取り——

 真の戦いの火蓋を切るための言葉を解き放つ。


「ほなら行きまひょう!ウチらはこれより御津迦みつか君を喰らい尽くし、後悔に沈む天津神のツクヨミさんを——深淵の呪縛より解き放ちますえっ!!」


 それは今までと何も変わらない少女達の戦い。

 救いを求める命の叫びに答えると言う、であった。



∽∽∽∽∽∽



 感じたのはツクヨミノミコトとされる少女の嘆きが深淵へと塗り替えられる、ドス黒い浸蝕の足音。

 あの大和を強奪してまで成さんとした事は、今現状では最悪の事態を招く凶行であるも――それが最初からであったか、浸蝕を受けてからなのかは本人へ問い質さねば真相には辿り着けません。


 だからこそウチらが総力を結集して、彼女を止めなければならなかったのです。


『何で私の邪魔をするのですか。何で……私は主へこの身体をお返ししたいだけなのに――シタイダケナノニ……。』


「あなたはツクヨミノミコトはんで間違いおへんな!?こんな事をして何になりますの……それであなたの主が喜ぶ思てはりますのんか!?」


 恐らくはすぐにでも強行手段に打って出なければ手遅れになる。

 そんな事はウチも分かっています――分かっているからこそ、彼女の理性へと呼びかける必要があったのです。


 明確なる理由も無しに事を起こしたとあれば、すぐ引っ叩いてでも止めなければなりません。

 けれど眼前の闇夜の神様は悩み、苦しみ……そしてさいなまれた結果凶行を敢行したのが漏れた言葉ではっきりしました。

 ただ彼女を止めるのではなく——彼女の魂をこの世界へ呼び戻す事で……深淵の浸蝕を超える事が出来るとの確信にも繋がったのです。


『私は……ワタシハ——』


『アアーーーーーーーッッ!!』


 ツクヨミさんの悲しみが爆発的に膨れ上がらんとした刹那——

 背後より叩き付けられたのは……その彼女の主が生きていると願い続けたウチの友人の——悲痛と憤怒が入り混じる魂のシャウトでした。


 大切な家族がすでにこの世にいない現実と、眼前の悲運の神様を救わなければとの天秤に揺れる焔ノ命ほのめちゃんの……切なる想いを乗せたビートの嵐。

 それを受けたウチは覚悟を決めます。


 友人の想いを背負い……友人の救いたかった人の願いを背負って——ウチは眼前の悲しき神様を止めて見せると。


「深淵の浸蝕は確かに御津迦みつか君を飲み込んどります。けれど彼女は……ツクヨミはんは未だに主への贖罪を果たさんと戦っとります。彼女の言葉は——」


「彼女の想いが、ウチに宿る獣はんを通して伝わって来ました。ほならやる事は一つおすえ!」


 ウチの放った言葉へ——

 テセラお姉ちゃんが、レゾンはんが……そして桜花おうかちゃんにアーエルちゃんが——獣はんの投影した宙空モニターで強く首肯してくれます。


 そして最後に……ウチへの感応が一際強さを増した獣はんが——

 ウチが振るうべき得物を顕現させたのです。


「……!?獣はん、ウチへ本気で手を貸してくれはるんおすか?おおきに……ほんま、おおきに!では行きまひょ——数字を冠する獣ナンバー・オブ・ザ・ビースト・クォーティアよっ!!」


 右手に振り翳すはお父様の形見……魔剣ラグナロク。

 そして左手に構えるはお母様の形見——超射程バスターライフル クロノストライカー。

 あの導師ギュアネスが起こした地球と魔界衝突の危機を、寸でで食い止めたお姉ちゃんも振るった禁忌の力。

 全てが繋がる今、それはこの蒼き星へ再び再臨したのです。


 左右異なる翼を広げたウチは、それを合図に接敵する四人の友人に合わせ——

 鏡の化身であり……八咫やた家を担うはずだった存在を深淵の底より救い出すため——


 禁忌を翳す雷光となり、深淵を纏う鏡の魔法少女へと接敵したのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る