7話—3 人類最大戦力

 その日カガワの都上空は激しく燃え上がる。

 八十八の社が生む結界と、獣を使役する少女が被害を最小に食い止めるが……その余波は遥か遠方へと飛散する物も出る。

 あの外交の天才炎羅が危惧した日本国土へのダメージは最小に押し留められるも、近隣諸国——特に最も近郊である統一半島や中華大国には、少なからず余波が流れ着いていた。


 事前に宗家よりの指示が諸国で活動する同志の耳へと入っていた事もあり、人的被害は皆無であるも……時の総理清宮が渇望する大アジア連合と言う思想には不安すら残す事態でもある。


 だがしかし——事前警告を受けた国々も知り得ている。

 今この蒼き大地の危機を回避できるのは、幼き少女達しか存在しない事を……。

 その最後の砦が堕ちれば——溢れる深淵がたちまち世界を飲み込み……この世界が死の星へと変貌する事を。


 奇しくもかつての人造魔生命災害バイオデビル・ハザードに苦しんだ世界の人々は、世界の滅亡目前でようやく一つとなり掛けていたのだ。



∽∽∽∽∽∽



「テセラ、支援を!」


「了解だよ、レゾンちゃん!対空砲火……ぇーーーーっ!!」


 赤き突撃が鏡の絶対障壁へ幾度と突き刺さり、それと入れ替わるように金色の風を纏う高速巡航艦の対空砲火が強奪の壱番艦大和を強襲する。

 が、未だその対空砲火同士の打ち合いに止まる魔界勢。

 すでに強奪の壱番艦も、船首を封絶鏡へ向けんとスラスター制御を開始していた。


「お姉ちゃん!大和が封絶鏡へ!?」


「行かせないよ!私が前に回り込みます!」


「テセラっ!?お前の現装備では的にしかならん!そこは私が——」


 互いを案ずる金色の王女テセラ赤き魔王レゾンが、今にも封絶鏡への進路を取らんとしたそれへ肉薄した。


 その刹那——


「おいテセラ!それとそこのバカ吸血鬼——が行くから……どーーーけえーーーっっ!!」


 獣宿す令嬢若菜後方より銀嶺の風が駆け抜ける。

 その声を聞き急制動を掛ける二人を尻目に……銀嶺の翼が——障壁へ激突した。

 銀嶺の翼……ヴァチカンより〈聖霊騎士パラディン〉の称号を賜りし断罪天使、アムリエル・ヴィシュケである。


「アーエルちゃん!?まさか、力の制御が回復したの!?」


「これは……そのようだねテセラ!と言う事は——」


 振り向く王女の視界には、姿追従していた。

 そう……銀嶺の翼に続く光の最大戦力は、かの破壊の焔ヒノカグツチを使役するに至った少女である。


「その通り!草薙流閃武闘術皆伝、草薙 桜花くさなぎ おうか——推して参る!!」


 蒼炎の翼で天を駆け——スラリと抜き放たれるは草薙家の誇りし伝家の宝刀。

 銀嶺の翼を追う様に舞う蒼炎の閃光が、天を割く衝撃となり——強奪の壱番艦大和へ足止めを掛けた。

 いにしえより数多の魔を討滅せしめた〈アメノムラクモ〉……その波打つ波紋が眩き霊剣を振るうは、最強の座に上り詰めた草薙 桜花くさなぎ おうかである。


「ほう?お前にしては珍しい武器を所持しているじゃないか。まあ私はそれに触れたくもないがな。」


「クヒッ……抜かせバカ吸血鬼!調子こいた事抜かしてると、お前から銀の灰にしてやるし!?」


「……な、何を売り言葉へ買言葉を返納してはりますの!?今はそないな時やありまへんえ(汗)!?」


「「それは同感だなっ!!」」


 力が戻り戦場へ舞い飛んだかと思いきや……使勃発し——冷や汗のままたしなめんとした獣宿す少女。

 直後……それすらも挨拶と言わんばかりの二人が——普段の犬猿の仲を忘却させる様な相槌を見せる。

 同時に互いが、力比べでも申し合わせたかの阿吽の呼吸で対方向へ飛び——左右から畳み掛ける様に壱番艦を強襲した。


 瞬間——

 光の霊剣〈エクスカリバー〉と闇の衝突〈ドラギック・フォーディス〉が障壁を同時に穿うがった時——通常の人の能力では決して感知する事叶わぬ刹那の空隙を……獣宿す少女の持つ超高速量子演算能力が暴き出す。


「この反応は……そう言う事おすか!カミラはん……そちらへ観測した封絶鏡のデータを送りますよって——弾き出されたタイミングでの突撃敢行、お願いしますえ!」


 確かに見出した刹那の空隙。

 それをすでに二人の少女後方に視認した、最強戦艦総監を担う少女へと送り届ける。

 魔界勢に移譲されし宗家最大戦力弐番艦——武蔵が到着したのだ。


「委細承りましたわ、若菜わかな様。いえ……テセラお姉様の妹と言う事は——私にとってもお姉様ですわね。という事で、壱京いっきょう様——機関最大出力で大和の八咫天鏡やたてんきょう穿うがちますわ。」


「手段はお任せします。……——得とご覧に入れて差し上げて下さいませ!」


「配慮痛み入ります!では真鷲ましゅうが誇る若衆よ……カミラ嬢の許可が出た——これより我らは得意の戦術にて突撃を敢行する!」


「「「アイ、サー!!」」」


 繋がる血統テセラ繋がる意思若菜

 そこに違いがあろうとも、姉妹である事に変わりないと……吸血鬼の妹は獣宿す少女を姉と評し——次いでその願いを聞き届けんと、赤き弐番艦武蔵を指揮する統括部長へ指示を飛ばす。

 そこに含まれた日の本の大海賊との言葉に……統括部長 緋暮 壱京ひぐれ いっきょうは歓喜を顕とする。


 かつて戦国時代……瀬戸の海を跨ぎその名を知らしめた大海賊の子孫である彼は——巡る因果の末、瀬戸の海を背に超戦艦を駆る機会を得た。

 魔界に居を移し、その身をかの戦国で天下布武を唱えたノブナガ・オダ・ダイロクテンに預けた彼は……己が身に眠る血筋を強く感じる様になっていた。


 故に彼は宣言する。

 瀬戸の海を望むこのカガワの都に今……戦乱の炎を再び持ち込まんとする者を討つため。

 そして世のために真鷲ましゅうの技術の粋を結集した、命を守るために生み出した最強戦艦を奪還するため——

 魔界での戦いで披露した、……を指示した。


「全回転衝角起動……艦中央、戦術用バレル旋回重力アンカー待機!この瀬戸の海を背に見せつけるぞ……我が村上水軍式、秋津洲あきつしま流戦闘航海術の真髄をっ!!」


 足止めを食らうも壱番艦後方主砲一門が弐番艦を狙い——射線軸へ捉えられんとする。

 八咫やたの絶対障壁を備える蒼き壱番艦大和と異なり……それを持たぬ赤き弐番艦武蔵は、同性能の艦が放つ主砲の一撃は致命打に成りえ——加えて、今弐番艦それはそこへ突撃態勢を取ると言う常軌を逸する戦術を取っていた。


「大和の主砲、射線軸へ入ります!」


「ギリギリまで引きつけろ!重力アンカー左舷上部、及び右舷下部を待機!同時に——」


 だが構う事なく突撃を敢行する赤き弐番艦武蔵——その指揮を担う統括部長壱京はしたり顔のまま機を伺う。

 蒼き壱番艦大和主砲は逸らす事なく赤き弐番艦武蔵を標的に捉えた。


 刹那――


「今だっ!重力アンカー……左舷を上方10時へ、右舷を下方4時方向へ射出!回転用スラスター全開——武蔵、!」


 放たれる艦砲射撃。

 それを眼前に捉えた赤き弐番艦武蔵——重力アンカーが次元的に固定されると、双方へ引く力が働き……さらに全開となる回転スラスター推進力が合わさる。

 襲い来る三条の砲火を軸に回転を始めた弐番艦は、艦橋を下に……そして船底を上に向けるようにバレルロール航行を敢行したのだ。


 舞う主砲の閃条に艦橋下をかすめられながらも、艦艇としてはあり得ない動きで宙を舞う超戦艦。

 しかし止まぬ突撃は、回転する船体そのままで勢いを増した。


「重力アンカー……パージだっ!障壁へ回転衝角ドラギック・フォーディスにて接敵する……重力制御と同時に各員対衝撃防御——」


「機関最大!穿て……回転衝角ドラギック・フォーディスよっっ!!」


 主砲を舞う様に回避した赤き弐番艦武蔵の突撃は、絶対障壁へと回転衝角ドラギック・フォーディスを激突させ——そのタイミングを見計らい、獣宿す令嬢が合図を飛ばす!


「皆、一斉に八咫天響やたてんきょうへ突撃しておくれやす!そこにこの、不完全な術式の穴が出るはずおす——」


「ウチがそれを強制的に拡大しますよって!皆はん、頼みますえ!!」


 各戦乙女ヴァルキュリアに接続されたモニター越し……今カガワの都に集う魔法少女達が首肯で返す。

 それを確認した獣宿す少女は、その身の獣へ――の開放準備に取り掛かった。


「さあ、獣はん!同時展開は少々きつう思いますけど――皆が揃う今こそ勝負の時おすえ!?一斉攻撃の瞬間に現れる僅かな隙間へお父様の――」


いにしえの魔王としての力……あらゆる時間と空間を認識・制御する高次物理制御――プロフェッソア・ヘルシャフト発動おすえ!!」


 因果の果てへたった一人の姉を送り届けてくれた父、魔王ルーベンス・アーレッドがかつて備えし獣の力を――

 今……その愛娘が解き放つ事となる。

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