7話—2 大気を揺らせ!鋼鉄の叫び!

 赤き弐番艦武蔵甲板へ幾重の輝きが降臨する。

 歌姫焔ノ命が纏う戦乙女ヴァルキュリアより齎された物である。

 しかし他の魔法少女の装備から見ても大きく違えるそれが、従姫コノハナサクヤの姿と共に展開された。


「では、来れっしゅ!我らが祝詞のりとを紡ぐ者たちよっ!」


 声を放つ従姫桜舞う女神コノハナサクヤ

 国津神を代表する桜舞う女神が叫ぶと、三体の影が実体化——だが同時に、おおよそ武器とも取れぬ装備も顕現して行く。

 さらには女神が手にする漆塗りの三味線が、量子レベルで形状を変化させ……現れたのは桜を変形させたかの如きボデイを持つリードギター。


 それに合わせる様に、後方へ顕現した三体の影が桜舞う女神にも似た様相となり——加えてリズムギター、ベース……そしてドラムセットの姿を作り出す。


「……って!?はあぁぁっ!?いやあれ、焔ノ命ほのめの装備何かおかしいし!?」


「いいんだよ、アーエルちゃん!アレが焔ノ命ほのめちゃんの力——彼女の魔法少女としての戦い方なんだから!」


 恐らく戦場と言う場所での判断としては当然の疑問が聖霊天使アーエルより放たれ、最強の当主桜花が問題無いとしたり顔を浮かべる。

 武蔵艦橋内で歯噛みしていた二人の少女が、モニターで決意の歌姫焔ノ命の勇姿を目撃していた。


「では、皆の者!アメノウズメ、キクリヒメ……そしてタマヨリヒメ!準備はいいっしゅか!?これより焔ノ命ほのめ様のために、を叩き付けるっしゅ!」


焔・攻鏡管弦楽団ホムラ・ファイアソニック、演目〈アマテラス・ライズアップ〉——開演っしゅ!」


「「「レディ……ナウ!!」」」


 桜舞う女神の咆哮へ三人の女神が呼応。

 そして彼女が手にするリードギターより……超高音の絶叫が放たれる。


 それは鋼鉄神の叫びにも似た魂の狂奏曲。

 それは狂えるギターが吐き出すビートと言う名の旋律。

 スピードが、パワーが、メロディーが怒涛の勢いで大気を駆け抜ける。


 紡ぎ出された祝詞のりとは——世界にて、〈ヘビィメタル〉と呼称される。


「ウチの歌を、聞けやーーーーーっっ!!」


 桜舞う女神の叩き出すサウンドに乗せ……歌姫が突き抜ける高周波の叫び〈シャウト〉と共に吐き出すは——を源泉とする陰なる霊力。

 彼女を包むは半透明の衣と思しき纏いに、ヘッドセット型の音子フォノン増幅端末。

 おおよそ金色の王女を初めとする戦乙女形態ヴァルキュリア・モードからは一線を画す御姿——

 これこそが歌姫の戦乙女形態ヴァルキュリア・モード焔・攻鏡管弦楽団ホムラ・ファイアソニック〉の全容である。


 吐き出された憤怒を源泉とする魂の咆哮は、大気を味方として強奪の壱番艦大和へと届き——それが時空を伝わる超振動となりて鏡の化身ツクヨミノミコトを強襲した。


「くっ……あっ!?何、この振動は!?これが……こんなものがかのほむら様の力を継ぐ、我が主人に通じると——」


「通じると思っているのかーーーーっっ!!」


「〈アアアアアアーーーーッ!〉」


 振動に魂を貫かれはしまいと、鏡の化身は己が主人に宿る音子使いフォノンドライバーの力を発現。

 歌姫の叫びへ拮抗する様にそれは放たれる。


 隠と隠……魂と魂の衝突。

 同じ歌姫の血を受け継ぐ者同士が、魔導歌まどうか合戦を開始した。



∽∽∽∽∽∽∽



 ウチらの背後から大気を振動させて響くは焔ノ命ほのめちゃんの歌声。

 けれどウチでもまず聞く事も無いその衝撃は、魂すらも揺るがします。

 そしてその時空を超えた振動は今眼前で力を補い合う二人、テセラお姉ちゃんとレゾンはんへ注ぎ込まれ――地球へ訪れた際に放出した魔法力マジェクトロンの回復を見る事となったのです。


「こ……れ!?これが、焔ノ命ほのめちゃんの力——魔法少女の能力!力が……溢れる!」


「魂の芯から湧き上がる様だな!これが皆の言っていた歌と言う物か……だが——」


 歌の文化に乏しい魔界勢。

 お姉ちゃんは女子会と言う名のカラオケを通じて、歌がどんな物かを少しは知り得ていますが……皆と地球で過ごす時間が僅かしかなかったレゾンはんは理解の外です。

 けれど——焔ノ命ほのめちゃんが得意とする歌は、その中でも魂に直接響くとさえ言い表せられる鋼鉄の協奏曲ヘヴィメタル


 霊的龍脈の象徴である竜魔王ブラドの力を継いだ彼女には、理解するのに言葉も必要ない様でした。


『天元は砕け 君の手は離れ——地の扉は放たれる——』


 闇であるも魂揺るがすそれは熱き咆哮を伴って、ウチらを鼓舞し——


『暗き 静けき闇は 永遠の理也——深淵は 世を分かつ 現世の鏡也——』


 焔ノ命ほのめちゃんが歌えば、それを打ち消さんと……御津迦みつか君であるはずの者から発せられた歌声が咆哮を叩き返す。

 そしてウチらを支える方達が……その歌声に違和感を覚えたのです。


「……っ、この声……は!?——おかしい……これは御津迦みつか様の物じゃない!?」


「確かに——彼との面識はそう無い……が、ここまで少女然とした物では——」


 SPと言う立場上、当主レベルの存在との接触が少なからず存在するあぎとはんと沙坐愛さざめはん——この様な事態に成せるべき事が無い二人が、控えた大ホールにまで響く外部音声に困惑を表します。

 そして導かれる状況は——

 それは……八咫やた家表門当主である、すでにもう——


 そう思考するウチの背後—— 一層の激しさを伴う歌声が大気を走り抜けます。

 ウチでも感じられるほどに、絶望と、悲しみと苦しみが込められた鋼鉄の狂奏曲ヘヴィメタルが。


 歌が——真実を確信してしまった焔ノ命ほのめちゃんの嘆きが……天空を憤怒の振動で焼き焦がしたのです。


「真実がどうであれ……大和を奪還せねば立ち行きません!お嬢様方っ!」


 焔ノ命ほのめちゃんの嘆きと憤怒を悟り……だからこそ声を上げた沙坐愛さざめはんは、もうドンくさいなどと評していた頃の面影は無く——

 モニター越しで首肯した桜花おうかちゃんとアーエルちゃんが、この歌合戦直後の事態急変に勘付いていたのです。


「アーエルちゃん、これ……同質量の音子フォノンが衝突したせいで——」


「だな!これならアタシらも出られる!おいっ、ガブリエル……調子はどうだ!?」


『待ってましたデスねー!桜花おうかサマのユートーリなのデース!』


『うむ!こちらでも確認した……主よ、我も力発現が叶うぞ!』


 詰まる所——

 二人へ霊的な戦力阻害を掛けていた術式の発生元が、眼前の大和内……御津迦みつか君であったはずの存在からという事。

 それが、焔ノ命ほのめちゃんの叩き付ける歌声に拮抗するだけの力を絞り出した結果——二人に掛けられていた術式効果が薄まったと言う現状でした。


 であればそこで手をこまねいている二人が、そのまま歯噛みする現状を良しとしない事など分かっていました。

 どちらと無く駆け出した足で、武蔵の甲板上へ躍り出た——遂にその力を解放したのです。


「行くよ、カグツチ君!もうこんな状況で何も出来ないなんて……我慢ならないよ私!」


「ふっ!最悪の状況であるかもしれん——が、今を抑えねばそれこそ取り返しが付かぬ!いつでも良いぞ、主よ!」


「うん!……この身に宿りし天津神の炎神よ——我に従い、魔を払う討滅の焔を顕現せよ!戦乙女形態ヴァルキュリア・モード焔ノ鬼若ほむらのおにわこ〉……装填っ!!」


 色々場を重んじ、しばらく姿を見せなかった天津神の炎神様が実体化。

 その天を焼き焦がす天津神の焔が、降り注ぐ砲火の弾幕すらも薙ぎ……現れたのは桜花おうかちゃんの魔法少女上位戦闘形態。

 それを尻目に、負けじと主の祈りが武蔵甲板を包み——


「なんだ、桜花おうか……以前より霊力の基礎値が跳ね上がってるし!?これは負けてられない奴じゃないか——そうだろ、ガブリエルっ!」


「ハイなのデース!こちらも色々オヒロメしたい所ですが……優先事項アリマスネー!」


「クヒッ!お前もしばらくぶりの実体化だな!んじゃま行くし……主の裁きと慈愛を我の力と成す——戦乙女形態ヴァルキュリア・モード薙ぎ払う断罪天使ブレイド・ジャッジ・エンジェル〉装填っ!!」


 こちらへ顕現するのは、ウチもほとんどお目にかかれない主の御使い様……熾天使セラフガブリエルさんがアーエルちゃんと融合し——

 これまたウチらでも初お披露目となる、聖霊騎士パラディンを基礎とした魔法少女上位形態。

 合わせてその手に握られるは一振りの霊剣……あのアセリアさんを守り抜いた事で、円卓の騎士会機関より託された魔を断つ聖剣〈エクスカリバー〉。


 この封印の地であるカガワの都上空で……遂に六人の魔法少女がその本領を発揮したのです。


「お姉様方を支援いたしますわ!壱京いっきょう殿、貫きの竜衝角ドラギック・フォーディス……準備を!」


「アイ、マム!武蔵主、副偏心回転機関ロータリック・リアクターへ動力接続……各種先端解放——〈三対魔竜双衝角トライディ・ドラギック・フォーディス〉起動!全艦、突撃態勢へ移行せよ!」


 甲板より光の魔法少女が飛び立ったと同時に、武蔵も支援に動き——

 レゾンはんの武勇にあやかる名前を与えられた、武蔵の誇る特殊兵装……三対の巨大なる回転衝角ドリルがその姿を表すと——武蔵が許されるレベルの最大出力で迫り来ます。


 ここに——魔法少女 対 魔法少女……超戦艦 対 超戦艦の、熾烈なる戦いが幕を開けたのです。

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