護りの鏡の意思を継ぐ者

7話—1 八咫の名が背負いし定め

 三人の魔法少女達が天空を舞う中、その背後よりついにそれは現れた。

 刹那——大気を焦がす重力子グラビトンを帯びた爆轟が、カガワの都上空を突き抜ける。

 当然それは強奪の壱番艦大和の物ではない……その奪還のために馳せ参じた弐番艦——魔導超戦艦 武蔵のものである。


「お姉ちゃん、レゾンはん……武蔵の主砲が来ますえ!射線に気を付けて!」


「確認したよっ!レゾンちゃんっ!」


「対応している!武蔵の艦砲射撃ならば魔界の決戦で把握済み——射線のレンジ外から突撃を敢行する!」


 獣宿す令嬢若菜の演算により算出したギリギリの弐番艦武蔵主砲射線——それを縫う様に、金色の王女テセラ赤き魔王レゾン強奪の壱番艦大和を強襲。

 重力子の砲火と同時に絶対障壁へと激突した。

 が……地球に降り立った際の魔法力マジェクトロン放出が尾を引き、十分な回復を見ぬ魔界勢の攻撃が徐々に出力低下を見る。


「……ベル!流石にこの連戦に近い状況——加えてこの地球の光量子フォニック・クオンタムに満ちた空間の影響は、予想以上だなっ!この私が押される!」


『あら、泣き言ですか?レゾンらしくもない。……とは言え、私もここまで力の制限を受けるとは思いませんでした。ここは魔界での戦闘時の様な、安直な思考は慎んだ方がよさそうですね。』


「その通りだ、ベル!そうと決まれば突撃に要する魔法力マジェクトロンを制限し、テセラとの同調を優先する……テセラっ!」


 しかしかの天楼の魔界セフィロトで最強へと手を伸ばした赤き魔王——劣勢を想定し戦乙女ヴァルキュリアシステムに宿る赤き竜の友ベルと打ち合わせ、即座に応じた策へ転じる様は

 同時に王女へ……〈惹かれ合う者スーパーパートナー〉へと覚醒した友人へと通信を放つ。


「スーパーパートナーの力だね、レゾンちゃん!ではローディ君、私の力をレゾンちゃんと同調させるよ!準備はいいっ!?」


『もちろんだよテセラ!いつでもっ!』


 魔王からの言葉を受けた金色の王女は、その意図するところを素早く察知——

 次いでその起点となる、こちらも戦乙女ヴァルキュリアを構成する熾天使の友人ローディへと叫び……状況を打開するべく起点の簡易詠唱術式展開に入る。


「〈天楼の魔導王女マガ・プリンセス〉システム解放……霊量子相転移変換機構起動——」


『重なりし我らは、宇宙の摂理を体現する者なり……〈惹かれ合う者スーパーパートナー〉——同調開始っ!』


 通常の魔法術式行使とは異なる、二人の同調が基盤となる形態の魔法——惹かれ合う力発動はキーこそ金色の王女によるものであるが、術式からの相転移変換そのものは戦乙女形態ヴァルキュリアモードの魔導機核を介し行われる。


 魔界世界であればその依存度合いも少ない所だが、ここは光の満ちる世界——大幅に魔法力マジェクトロンを減じられる魔界勢では、戦乙女ヴァルキュリアと言う魔導機頼みの魔法術式展開となるのだ。


『レゾン……〈煉獄黒竜帝ブラックドラゴン・インフェルノ〉の出力が一時的に回復を見ます!ですが、テセラ様との同調を崩せば——』


「皆まで言うなよ、ベル!私がテセラとの同調を崩すなどと思っているのか!?」


『ああ……まあ、大体予想はしてましたけどね(汗)そんなレゾンが眩しく見え——』


「ちょっとベルさん!?そう言うの、今はダメですっ!後にして下さいっ!」


「……なんやえろう余裕ありますな、レゾンはんにベルはん(汗)。お姉ちゃんも突っ込み待った無しや。」


 術式展開と同時に、王女と魔王の戦乙女ヴァルキュリアが同形状の魔量子立体魔法陣マガ・クオント・シェイル・サーキュレイダに包まれる中——

 金色の王女の言う様に、……場にそぐわぬ空気が流れる。

 だがそこには反撃するも未だ反応を見せぬ敵対者……魔法少女達が八咫 御津迦やた みつかと推測した者への牽制が宿っていた。

 それを裏付ける様な赤き魔王の視線は、百合百合な軽口を飛ばしながらも鋭く壱番艦艦橋を睨め付けている。


 悲しき定めに舞う超戦艦を用いた凶行……魔界で共に戦場を駆け巡り、弐番艦に宿る運命と魂の気高さを知った魔王にとって——

 その蛮行は余りにも度し難き行為であったのだ。


 そして——

 強奪の壱番艦大和艦橋宙空モニターでは、同じくその視線を迎え撃つ双眸が眉根をひそめ歯噛みする。

 彼女にとって理知の及ばぬ魔界勢なる勢力が、宿す願いに足止めを掛けていたから。


「魔界勢だと?赤き魔王だとっ!?なんだこの状況は……私が望んだのはこの様な事態では無い!この様な者が私の邪魔をするなど——これでは主へこの肉体を返す事も叶わなくなるではないかっ!!」


 鏡の化身ツクヨミノミコトは悲しみと憤りにさいなまれ、次第に正確な思考を描けなくなっていく。

 それは即ち——深淵の浸蝕——

 霊的に高位な生命ほど、魂が堕落した際の深淵浸蝕速度が増すと言われ——

 その中でも最も高位である天津神の神霊ツクヨミノミコトは……正に深淵にとって都合のいい贄となり得た。


 神霊が深淵に堕ちる瞬間を待ち望む者が……この地には存在している。

 あのカガワ沿岸の造船地帯に居を構える、深淵の手足となって動く人ならざる者である。


「どうやら、己を維持する事も叶わなくなって来たみたいだな。まあ……まともな思考があれば、その程度の事を神霊に属する者が気取るのは簡単だったろうが——」


「いいぜ?。俺はそれをただ利用させて貰うだけだからな……哀れなる鏡の化身さんよ。」


 造船地帯の門型クレーン上で独りごちる深淵の尖兵。

 その背後には、只ならぬほどに増大した深淵の気配が渦を巻いて立ち込める。


 いつでもその深淵の刃を生命に向けられると言わんばかりに——



∽∽∽∽∽∽



 未だに彼の真意は定かでは無い。

 けれどウチは、悲しみに暮れる暇など無かったのです。

 現状ウチを始めとする光に属する戦力は、術式にて抑え込まれたまま。

 おまけに眼前——武蔵艦橋の宙空モニターに映るテセラちゃんにレゾンちゃん……そして若菜わかなちゃんが、奪われた大和と接敵し足止めを敢行しています。


 そして隣り合う二人の友人。

 馴染んだ草薙の裏門当主である桜花おうかちゃんに、すでに長年のお友達の様に感じているアーエルちゃん。

 視界に映る二人は……歯噛みし——力があるにも関わらず、それが封じられて手も足も出せない今を悔やむ様に立ち尽くします。


「……サクヤちゃん——このまま黙ってるなんて、ウチは耐えられんで。」


焔ノ命ほのめ様?まさか——」


 心の中で今まで揺らめいていた決意が……友人達の覚悟に感化され——ウチはようやく決断します。

 この内に眠る八咫やた家の宿命——宿


焔ノ命ほのめちゃん……まさか焔ノ命ほのめちゃんまで——」


 ウチが成さんとする事を知り得る宗家身内である桜花おうかちゃんは、言葉を投げるも全てを否定する程では無く——

 純粋な確認を取るとの面持ちでウチを見やります。


「守護宗家に属するウチの前で、桜花おうかちゃんに若菜わかなちゃんまでが戦う覚悟に身を委ねたんや。ここでウチが出張らんやなんて、友達として示しがつかんやん。」


「……うん、もう決断したんなら——私から言う事は何も無いよ。けれど一つ……無理はしない様にね?」


「分かっとるで☆ありがとな、桜花おうかちゃん!」


 頷き合うウチらを見たアーエルちゃんも、いたずらに言葉を挟む事無く静観してくれ……それが配慮と理解するウチは——


「サクヤちゃん、行くで!ウチの力は何も……それこそが八咫やた家が背負う宿命——」


「三宗家でも、——!」


「御意にございますっしゅ!陰の理にて放つならば、現状我らの戦力を封じる八咫やたの秘術——その縛りには捕らわれる事もありませんっしゅね!」


 決意を口にした私はそのまま武蔵艦橋より——

 飛び出たその足で甲板上へと躍り出ます。


焔ノ命ほのめお嬢様!こちらもお嬢様の決意をサポートさせて頂きます!武蔵対空砲火、焔ノ命ほのめお嬢様をお守りする様弾幕を張れっ!』


 響く通信の先で、守護宗家御用達の真鷲ましゅうを纏める緋暮ひぐれさんが事を察し守りを固めてくれます。

 その彼へ、ウチの霊導機を通して出でる宙空モニター越しに首肯を返すと……武蔵甲板の遥か前方――大和を望む位置へと陣取ります。


「人の陰陽とは感情も含まれる事象であり……ウチはその陰なる力——!これより——」


「その陰に属する……それを我が友サクヤちゃんの霊力を介して解き放つでっ!」


 ウチの背後……少し離れた場所に待機したサクヤちゃんとアイコンタクト。

 そしてウチは——ウチの持つ魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステム……戦乙女ヴァルキュリア〈鋼鉄の歌姫〉を解放します。


「サクヤちゃん、戦乙女形態ヴァルキュリアモード展開!焔・攻鏡管弦楽団ホムラ・ファイア・ソニック起動——」


「ウチの歌を聞けやーーーーーっっ!!」


 カガワの都……蒼碧の天空へ響くのは歌声。

 それもただ想いをつづる様な旋律では無い——


 ウチの咆哮と共に、ハイスピードヘビィメタルの牙が……大気を熱く激しく打ち震わせた。

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