5話—2 形見の名は、クロノペイン・セイバー
守護宗家を覆った悲劇の序章——それは身内である御家の本丸にありし者が、反意に駆られその手に武器を取った事。
しかもその武器は世界を救う希望として再生された、日の本の魂宿せし
言いようの無い絶望が、反意に駆られた御家の対極——その表に位置する少女の心へ深い刃となりて突き刺さる。
「そんな……
「主様!落ち着いて下さいませっしゅ!」
「けど——」
従姫である
しかし王女も揺るがぬ視線を八咫の舞姫へと注ぎ続ける。
かく言う彼女とて、その舞姫と同じ境遇に立たされた一人……あの魔界で反意を示した妹であるカミラ——元々の名をヴァルナグス第三王女ヴィーナと称する彼女に、同様の思いを抱いたから。
だからこそ……舞姫を
「現在得られる情報では、その彼が襲撃したという事ですが——
決して蔑ろにしている訳では無い——寧ろ
それもまた、金色の王女が魔界でその身で辿った苦くとも得難き経験であったから。
その事件の当事者であった
「ではこちらで、カミラへの連絡を入れる。事は急を要する故、
「私達も行こう!さあ
「そうおすえ。ウチらもあの大戦の時やそれ以降……そうやってお互いを理解して来たんおす。
要人控え室から足早に退出する魔王をキッカケに、同室へ控えた地球勢の少女達も不穏に苛まれる舞姫の背を押す様に行動へと移行した。
そうして皆一様に現在手元にありし超戦艦
「
「はい?ウチおすか?」
まさかの自分が、草薙の誇る外交の天才に呼び止められるとは思っても見なかった
しかし直後……勝利呼ぶ当主から語られた言葉が——
今の今まで守られるだけであった彼女の決意を、揺るがぬ物とする瞬間が訪れる事となる。
「今君は、己に宿る力を発動するか否かの瀬戸際にあるはずだ。おおよその経緯をSPらから通信にて聞き及んでいる。」
「……っ!?」
少女の胸がドクンッ!と跳ね上がる。
まさにはんなり令嬢が今、己の内に宿す厄災との葛藤の最中である事実——そのど真ん中を射抜く勝利呼ぶ当主。
さらに続けられるは……はんなり令嬢でさえ想定していなかった、彼女のために残された深く偉大なる想い——
その集大成が形となって……はんなり令嬢の元へ届けられる。
そう——ようやっと、届けられたのだ。
「これは今の君が、己の内に眠る大いなる厄災と戦うための……いや、それを手中へ収めるための取って置きだ。ようやく君にこれを渡す事ができる——」
「あの偉大なりし悲劇の英雄——ルーベンス君とユニヒ君より君のために残された……たった一つの想い。掛け替えのない——たった一つの、彼らの形見。」
「……お父様と、お母様の!?」
見開く双眸が、両親と別れて間もない頃の僅かに残る記憶を呼び起こし——頬を伝う雫が、今届けられんとする想いを前に溢れ出す。
そのはんなり令嬢の黒髪を逞しき手でそっと撫でた勝利呼ぶ当主が……懐から淡い輝きの小箱を取り出した。
重厚にして
勝利呼ぶ当主によって開け放たれたそこへ、そっと収められるはペンダント形状に時の歯車と剣を形取る機械紋様。
小箱の中よりはんなり令嬢の手へと渡された輝きが……手にするべき主に辿り着き、一層の輝きを見せ始める。
そして——
勝利呼ぶ当主は語る。
はんなり令嬢が今手にした物の正体を。
少女のためにそれを準備し……少女の手に渡る時が訪れる事を待ち望んだ、二人の英雄の親心と共に——
「これは彼らの想いの証。彼らが君に宿る厄災を制御するために生み出した……君のためだけの
「守られるだけだった君が……今度は多くの大切な者を守るために振るう——戦う力だ!」
「……ぅうっ……!」
すでに混じる嗚咽は、はんなり令嬢が何より飢えていた……記憶にしか残らぬ両親への愛情に対しての物。
悲劇の英雄と呼ばれた者達は、愛娘が己らと同じ道を辿る事になった時——その先を見越してまでも、たった一つの想いの結晶を残していたのだ。
少女が歩まんとする、無限の煉獄とも言える魔業との戦い……その一歩を力強く踏み出せる様に——
∽∽∽∽∽∽
淡い記憶の片隅で——
お父様とお母様が、ウチへ最後の微笑みを贈ってくれてたのを覚えています。
その頃のウチは5歳にも満たぬ幼子で……けれど身体に宿る厄災の因子が影響し——口にするは言葉は同年代の子供を遥かに凌ぎ、
『(おとーさま……おかーさま。もうウチと会えへんの?どっかとおくへいってまうの?)』
最後の最後までウチは両親を困らせ……でも、それが最後と知る大人達は決して制する事はありませんでした。
『(まぁ、こればっかりはしゃーねぇな。オレ達が先頭切って始めた戦争だ……今更手のひら返す訳にもいかねぇしな……。悪りぃ……アイシャ。)』
当然ウチを呼ぶ名はアイシャ——お父様とお母様が名付けてくれた、ウチのための名前。
今は懐かしさしか浮かばないその名で呼ぶお父様は、ヤンチャで……それでいて全てを包む大きすぎる器を備えた、魔族の魂宿せし人ならざる者に自らなった人。
『(……アイシャ。ほんまに堪忍おす……ユニはあなたを置いていかなあきまへん。せやけどあなたの事は忘れへん。絶対に……忘れまへんえ。)』
ウチの喋りの大元は、優しくて……そして悲劇から生還した悲しき化け物——世界最悪の厄災をその身に宿すお母様のもの。
人ならざる者へ……人間によって変えられてしまった人。
『(おとーさまっ!おかーさまっーーっっ!!)』
それを最後に……両親は永遠の星の旅路に着きました。
この地球より——反逆者として追放される形で。
「……もうきっと、お父様にもお母様にも会えへんおすやろな。でもそれは、あの時から分かってた事。せやけど——」
悲しき過去がウチの心を吹き抜けて……やがて視界に映る、今のウチが立つ時代。
そこには今危機と直面し——けれど揺るがぬ双眸で臨む、大切な友人達が映っています。
「おい、
「何かあった様だな……先の雰囲気から全く違う物を感じるぞ?
惨劇から生まれ、やがて
かつては敵対し——
分かり合うも、自らの無力に苛まれながら……魔王の座を手にしたレゾンはん。
「
小さなその身に
そして最後は——
「
ウチと出会い……最初はちょっと素敵な王女様みたいで——けれど実は、本物……魔界の王女さまだった少女。
その自分の定めとの葛藤の中、この地球と魔界を救った救世主——ウチにとって魔族最初のお友達なテセラはん。
もう——それを考えただけでも、今のままじゃいられない。
もう……守られるだけじゃ嫌なんだ。
だからウチは決意する。
この手に、お父様とお母様がくれた大切な思い出が輝くならば……迷う事なんてないんだ!
「違います……もうウチは守られるだけは嫌なんおす。せやからこれからウチも、みんなと一緒に戦いますえ!」
みんなが一瞬言葉を失い——直後にウチの姿で驚愕します。
でも大丈夫……もうウチは大丈夫。
だって……ここに戦うための力を手にしたんですから!
「では行きまひょう!起動——
さあ——ウチを襲う魔業の定めよ。
どこからでもかかって来るがいいっっ!!
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