4話—4 内閣総理対談…そして動き出す危機

「初めまして……となりますが、ようこそ。遥々魔界からおいでになられた、幼き大使殿……私が日本内閣府をまとめる聖眞ひじりま——ああ、もっと気を楽にして頂いて構いませんよ?」


「はい、お気遣い感謝します。初めまして——私は天楼の魔界セフィロトは一世界……美の世界ティフェレト魔王の代理となります、姫夜摩ひめやまテセラと申します。以後よしなに……。」


 幼き大使が特設会議室にて、初老の男性と対峙する。

 しかしそれは、日本国の政界をまとめる大物であり——現在の日本を支える要……現内閣総理大臣 聖眞 清宮ひじりま せいくうその人である。

 初老らしく刻まれたしわはかの人造魔生命災害バイオデビルハザード以降……責を問われ辞職した前総理以降、押し寄せる国家の不手際を押し付けられるも—— 一つ一つを確実に片付けて来た、堅牢なる内閣府を背負い刻んだものである。


 あまりの国家の疲弊具合から多くの総理候補は尻込みし、図らずとも連続して任期を任されるという不遇の中で……それを支えた三神守護宗家の働きもあり、今の地位を不動の物としていた。


 滲み出る苦労を乗せた雰囲気に祖国の姉の尽力を重ねた金色の王女テセラも、並々ならぬ敬意を込め——だが……対面して感じる未体験の緊張で、幼き顔も強張りを見せる。

 それを見越した殊勝な総理清空——幼き勇姿に羨望を送りつつ、緊張を解きほぐす労りを乗せた。


「まずは対談の前に……実質君達魔界勢のお陰で、先の地球を襲った危機回避がなった訳だが——それに対する礼が今日まで遅れた事を……お詫びしたい。そして——」


「その身を懸けて地球を救ってくれた事——改めて礼を言わせて貰いたいと思う。本当に……ありがとう。」


 元来導師ギュアネスの陰謀を阻止し、地球を救った防衛大戦の英雄達——その者達への謝礼は、彼女らが地球を離れるまでに終えるつもりであった内閣府。

 だが守護宗家が成り代わったとは言え、本国へのダメージは少なからず発生しており……各地で見舞う深淵の残滓への対処を優先した結果——


 早々に魔界セフィロトへの帰郷を要した魔界勢と入れ違いとなってしまったのだ。


 現れる殊勝さは、総理の隣に座する勝利呼ぶ当主炎羅にも劣らぬ腰の低さ——さしもの金色の王女さえ、総理が下げるこうべの深さに知り得る者ルシファーが過ぎり……慌ててそれを制する。


聖眞ひじりま総理っ……お顔を上げて下さい!そもそも魔界から出でた反逆者が、その危機を招いたのです!非は寧ろ、我ら魔界勢が受けてしかるべき——ですから……——」


 と口にした王女へ、顔を上げて視線を向けた殊勝な総理。

 僅かに眉根を寄せ……幼き少女が口にした言葉へ、虚しさと共に憂いを吐露した。


「……住まう世界は変われども、——そしていつの時代も、。そのことわりを、幾度惨劇を経験しても変えられぬ人の業……耐え難き物ですな……。」


 重すぎる言葉が殊勝な総理から語られ……客人として訪れた一行でさえ沈黙が襲う。

 が——それを破ったのは、同席し王女に隣り合う赤き吸血鬼レゾン

 その業を背負って進むと宣言した、赤煉の魔王である。


「私も初めましてとなるな。同じく魔界の一世界——勝利の世界ネツァクを統べる事となった者だが……まさにその反逆者は我が世界が排出した輩。だがその大人とやらが生み出したかも知れぬ業——」


。そしてそれを償い……繰返さぬ様一歩を踏みしめて——私は己の人生を歩むと誓った。……ならばあなた方大人もやるべき事——理解出来ない訳はないはずだ。」


 赤き吸血鬼は宣言した。

 その業を背負ってなお、しかと未来を見据えた双眸と共に。

 殊勝な総理は眼前で、かつて見た事もない気概を目撃し——驚愕のあまり双眸を見開いた。

 幼き容姿と見定めていた眼前の少女らは、紛う事なき世界を救いし英雄であったのだ。


 そして改めて謝罪を述べる総理。

 しかしそこに込めた理由は全く別のものであった。


「どうか許して欲しい……。私はどうやら君達を見くびっていた様だ。幼き容姿だからとその見かけで測るは侮りと——今の言葉で痛感したよ。君達はまさに——」


「世界を救った英雄——いや、勝利の女神達だ!」


 僅かな侮りを悔いた殊勝な総理は、高らかに賞賛する。

 眼前の世界の希望たる女神達を。

 総理の隣に座し……事態を一瞥した勝利呼ぶ当主も、ゆっくりと双眸を閉じて微笑する。


 今総理が賛美した少女達こそが、守護宗家の全面支援によって世界を駆ける新たな時代の希望達であったから。



∽∽∽∽∽∽



 瀬戸の潮風が香る沿岸。

 だがくすぶる魔素が空間を歪める程に立ち込める某造船所地帯。

 すでに潮風が瘴気を纏うほどに、地を焼き焦がしていた。


「……何だ、アレは……。私は知らない——あんな勢力など!」


「魔界勢力……など——その様な存在は聞いた事もない!」


 巨大なる門型クレーン上で、悲痛な表情から一転——憤怒宿す鏡の少年である少女。

 その鏡の化身は知り得なかった。

 主を喰らい尽くした鏡の化身……だが事件勃発の当時はすでに、草薙の小さな当主が正統なる当主の座を手にした頃。


 つまりは彼女が現世の流れを知ったのは、先の防衛大戦後の事であったのだ。


 民の信仰を集め、上げたてまつられる日本神であれば……祈りを捧げる民草の思念にて現世を知る事も叶うのだが——

 奇しくも彼女は、祀られた神から主へ仕える従者となる契約の最中……そして何より鏡の化身には防衛大戦諸々の世界情勢などよりも、いつ果てるとも知れぬ主の姿しか思考に存在していなかったのだ。


「オロチっ!居るのだろう……お前の兵を借りたい!オロチっっ!」


 門型クレーンの上で怒気を孕み叫ぶ鏡の化身背後——気怠そうに姿を現すは、あの灰色の御髪に生気の宿らぬ双眸を光らせる深淵の残滓である男だ。


「……るっせえな。てめぇ、何か勘違いしてないか?俺はあくまで利害の一致で手を貸してやって——」


「そんな事は分かっている!……あの魔界勢とやらは常軌を逸している。我が主の力である、霊言の歌コトダマノノリトによる戦力術式阻害も受け付けぬ力——」


あまつさえ、あれだけの深淵の残滓の襲撃すらさえも意に介さぬ軍勢など……想定外も甚だしいっ!」


 たける憤怒覚めやらぬ鏡の化身を、うとましく一瞥するも……それを利用せねば深淵本体復活を成せぬオロチの残滓の男は――

 パチン!と鳴らす指の合図で数十体の深淵を顕現させる。


「今こちらで準備できる出駒はこれがやっとだ。与えられた力は限られてんだ……これ以上はさしもの俺も、目的に支障を来たす故ある程度は残させてもらう。それよりも――」


「てめぇの目的とやらをさっさと果たし、深淵本体を呼び起こす算段……付けさせて貰いたいところだ。」


 やれやれと両手を挙げて肩をすくめる様は、おおよそ人間のそれと変わらぬ仕草。

 されどその双眸が光り無く鏡の化身を射抜き……クイッと上げたアゴで深淵の傀儡戦士を鏡の化身へと向かわせた。

 

 整然と立ち並ぶ深淵の残滓が半物質化したそれは人型――が、そこへ精気など宿らぬ様は生ける屍。

 奇しくも闇夜を司る神である鏡の化身には、相応しい傀儡戦士であった。


「お前に言われるまでもない。我が主のお身体はすでに崩壊を始めているのだ——猶予など与えられていない。」


 深淵の声へ睨め付け……怒気を以って返す鏡の化身。

 返す双眸が視界に捉えるは、その造船地帯から西——瀬戸の海を挟んで存在するであろう場所——

 今現在新たな任務までの雌伏の時を過ごす、日本の魂の一角が在りし西の居城W−1 新呉市


 歯嚙みと共に鏡の化身は口にする。

 三神守護宗家……引いては日本にとって——悲劇とも、悪夢とも言える事態の引き金となる最悪の宣言を——


「残された猶予で事を成す。これより私は主の御身を主へと返すため——黄泉比良坂ヨモツヒラサカへと赴く。そのためにも——」


「……あの次元の壁を超えることも叶う、 ――!」


 すでに視界に映るは、己と主を襲った悲劇のみ。

 前後不覚となった壊れた鏡は……誰も望まぬ最悪の宣言を放ち——深淵の傀儡戦士を従え空を駆けた。


 悲劇を脱するために生まれ、悲劇の中に散った哀れな日の本の魂へ——再び悲しみを背負わせる事もいとわずに……——

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