4話—2 西都心 オオサカ

 人造魔生命災害バイオデビルハザードの中心。

 地上数万メートルに達する人智を凌駕した巨大なる魔——命の深淵ヤマタノオロチに浸蝕された地球最終防衛システムとも称される神霊龍。

 本来その制御を成す観測者アリスを失ったのが、主な原因とされる暴走——

 地上の全ての龍脈レイラインを束ねていたそれは、かつて世界へ滅亡の放火を解き放ちました。


 九頭龍くずりゅうと呼ばれたそれは、司令塔である観測者アリスへと連なる主龍脈欠如と共に命の深淵ヤマタノオロチへと変貌——そしてそれは厄災の発生源である日本国土へ、壊滅的な被害を及ぼしたのです。


 あれからすでに十二年の月日が流れ——けれど……かつてより幾度も壊滅に見舞われようとも立ち上がると謳われた国家は、その十二年で驚きべき復活を遂げます。


 その支えになった地——

 それが日本首都の一部機能を移動させたもう一つの首都……西都心オオサカなのです。


「せやったんやね……ハルさん。どうやった?分断列島をつなぐ陸海縦断高速道路アクアリア・エクストリームは。」


「それはもう、凄いの一言で……!これまで古の技術体系ロスト・エイジ・テクノロジーが主体だった東首都トウキョウのイメージで、てっきり架橋もそれに準えた技術での建造かと……!」


「……そうなんだよ~~。このSPさんお登りさんでもあるまいに、あっちこっちよそ見するから乗ってるこっちは怖いのなんのって——」


「そっ……それは言わないで下さいって~~(汗)!?」


 ウチへのサプライズやったはずの東日本任務一行様……けれどサプライズの前から、違うサプライズが応酬していた様なハルさん。

 沙坐愛さざめはんよりも艶やかで、上品な二房お下げをふわふわ揺らしながら可愛らしい抗議を顕とします。

 すでに日常でもあったサプライズバトルの餌食になる彼女……新参な初々しさは目新しさすら覚えました。


 そこへ華麗なるツッコミをぶっ込んで来た焔ノ命ほのめちゃんが——


「なんやハルさん、雰囲気だけ見てると沙坐愛さざめはんに被っとる~~。図星刺されてアワアワしてる所とか——」


「どういう意味ですか~~!?なんでそこで私が出てくるんですかっ~~(泣)!?」


 なんて言う、言葉を掛けてきたので――

 名前を出されて情けなく声を上げる、……ここはフォローも待ったなしです。


「いや、焔ノ命ほのめちゃん?ハルさんはやる時にはやる女おすえ?あの桜花おうかちゃんとハルさんの、手に汗握るドリフトドックファイト……見せたかったわ~~☆」


「そうそう。私の力が暴走しかけた時だって、その身を張ってあの異形の深淵に立ち塞がったんだよ?ハルさんに籠められた芯の強さは正にホンモノ……なんだから!」


「いえ!?そんな、あの時は夢中で……照れちゃいますよ~~。」


「そこは知りませんおしたな?まあスポーツカーを乗りこなす時点ですでに、大違いおすけどな~~。」


「おお、お嬢様~~!?」


 クスクスと笑いが響き、沙坐愛さざめはんをここぞと弄り倒しながら——見やる先は金色の王女様。

 ウチの視線に気付いたテセラはんもキラキラと輝く笑顔を送ってくれて、それが嬉しくてこちらまで笑顔になって来ます。


 現在ウチらは西都心オオサカまでの航路を、一時の休憩と——武蔵内部の休憩用大広間で、その名の通り盛大に息抜き中なのです。

 が——ここは休憩室の名が吹き飛ぶほどに豪華絢爛で、テーブル一つにしても機械的な装飾が電子の帯を走らせ……準備される菓子や飲み物も普通に豪華です。


 そんな思考の中疑問が浮かび——


「……って、よう考えたらこれ——今気が付いたけど、和菓子……おすな?ん?待って?この艦今まで魔界におって、急遽馳せ参じたはずやおへんか?それもこんなにようさん……これどないしはったん?」


「ああ~~気付いた?さすが若菜わかなちゃん、私達よりもこの手の知識が豊富なだけあるね。」


 ——と、テセラちゃん。


「これは、ミネルバお姉様が地球のレシピと食材を参考に……美の世界ティフェレトのお城内厨房で腕を振るった一品ですわ。地球への旅路に先んじて、皆様のお口汚しにと武蔵へ運び込んで下さいましたの。」


「……み……ミネルバ様って、とんでも無いパーフェクト魔王様やったんおすな(汗)。」


「ああ(汗)そこは私も同意せざるを得ないな。私もミネルバ様の和食をいただく機会があったのだが……アレはこの地球で言う所の三つ星級と誇れるものだ。」


「つか、吸血鬼……お前なんで和食とか食ってんの(汗)本当にお前、吸血鬼かよ……。」


 カミラちゃんが加えた、仰天事実に答えるこれまた奇想天外な吸血鬼レゾンちゃんの解答——仲が悪いはずなのに、絶妙な突っ込みを入れてくるアーエルちゃん。

 それは今までテセラちゃんとの関わりを持った中でも、一番騒がしいと言える光景でウチの思考へ刻み込まれます。


 そしてこんな些細な記憶は全て、これからのウチにとっての宝物になると……そんな思いに駆られながら——

 潮風香る瀬戸の海を行く蘇った超戦艦武蔵の中……揺られ揺られて一路西首都オオサカへと向かうウチらなのでした。



∽∽∽∽∽∽



 日本における西の大都心。

 そして現在二つ目の首都を名乗るそこは、現在オオサカの大地を望む海域へ西の拠点……その三番目が建造の只中にあった。

 メガフロートウエスト−3【新堺市】——すでに竣工を終えた物を加えた7つ目のメガフロートが、着々と完工へと突き進んでいた。


『武蔵はこれより、【新堺市】の臨時多目的港へ入港します。同時に……突貫工事ではありますが——諸外国対応として建設された外交用、特設会議場へ案内致しますので——』


『魔界より特使としておもむくお嬢様方……そろそろ準備をお願いします。』


「はい、分かりました。ありがとうございます、綾城あやしろさん。」


『自分の呼び名は桜花おうかお嬢様と同様、あぎととの呼称で結構です。では、後ほど——』


 【新堺市】から数キロ地点を進む超戦艦。

 深い血の色を模したカラーリングで、瀬戸の海に異様さを晒すそれは魔界勢でも吸血鬼勢力が艦運用を担っている点……さらには魔界での事件で活躍した赤煉の魔王に至る、赤き吸血鬼レゾンと供に戦った戦友である事から――

 魔界での改装時に急遽纏わされた専用配色である。 


 優しきSPがその赤き超戦艦艦橋にて、魔界出向組である統括部長壱京より艦運航状況を確認し——魔界親善大使となる金色の王女テセラへと状況を報告し、すでに親しさも浮かぶ王女がSPへと了承を言葉にした。


 赤き超戦艦内特設大ホールで、くつろぎから引き締まった表情へと移り変わる魔界勢……そのいずれも少女然とした雰囲気から一転——

 天楼にありし魔界を代表する、王族の面構えへと変化していた。


 それもそのはず——

 彼女らがこれより面会するは国家を代表する首相……臨時に西都心オオサカへと駆け付けた現日本国閣総理大臣へ——魔界を治めし魔神帝ルシファー代理として、正式な友好条約締結に向けた外交を持ちかけるのだ。


「よもやテセラちゃんが、あの炎羅えんら叔父さん的な立場でこの日本に訪れるなんてね~~。いや~~人間って成長するもんだなぁ~~。」


桜花おうかちゃん……私は魔族だよ(汗)でも、正人類と対になるのが魔族なら……あながち私達が人間と呼称されるのも間違いじゃないんだね。」


「そうおすえ~~☆正人類も魔族も同じ人間と……そう言い表すのが、この世界での当たり前おす~~。そこに差なんてありまへんよってな~~。」


 確かに魔界勢は魔神帝ルシファー代理——が……そこへ僅かに揺らぐ緊張を見逃さぬ王女を慕う友人達が、心へゆとりをと砕けた会話を提供した。

 そしてその言葉へ含まれた、は同時に……魔界が故郷となる少女へすらも安らぎを生んでいく。


「地球で私が生きていた記憶は、すでにありませんが——もう一人の私……その記憶へ朧げながらに眠る悲痛が嘘の様に思えますわ。」


「ふっ……そうだなカミラ。私はこの世界で出会った、この種族の壁すら飛び越える慈愛に救われた……。その世界へ君を招待出来た事——僥倖以外の何物でも無いよ。」


「……悲しき過去を越え——輪廻の末出逢うと言う因果の法則。日本を代表する宗教的な思想で知り得ておりましたが……それが現実に、この目に出来るとは——」


「レゾン様にカミラ様……本当に良かったですね。」


 くつろぎの最中聞き及んだ、二人が真の姉妹となった経緯—— 一時は余りの壮絶さに言葉を失っていた英国協力勢のご令嬢アセリアも、その睦まじさに親近感を多分に感じ取っていた。

 彼女も彼女なりではあるが、過酷な人生の中出会った少女——主に変わり魔を断罪する銀嶺の天使……断罪天使アーエルと姉妹の様な関係へと昇華したのだ。


 魔界より訪れた睦まじき姉妹へ、賛美を贈らずにはいられなかった。


 すでに地球も魔界もない親しさが包む特設大ホール——望む会談への緊張も解れた事を確認したはんなり令嬢若菜が、最後の引き締めと言葉を紡ぎ出す。


「ではそろそろ【新堺市】港へ着きますよって……魔界勢は準備よろしゅお願いしますな。ウチらも同席が必要言う事おすから、準備に移りますよって~~。」


 締められた言葉の後――

 誰からでも無く、大ホールに備えられた宙空大型モニターを見やり……地球と魔界の歴史でも史上初となる、正人類と魔族との友好条約締結へ向けた一歩を踏み出す。


 背後に忍び寄る……厄災の訪れと言う憂いに、その背を焼かれながら——

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