3話—5 その心に生まれた決意
そこはカガワの都中部地区の沿岸港。
数少ないフェリーがこの崩壊復興後も忙しなく行き交い——都の民にとっての生活を支えていた。
だがそのフェリー群を尻目に、港へ君臨する姿があった。
200mを超える全長と折り畳まれた巨大なる翼が、異なる文明の融合を感じさせるそれ——
三神守護宗家の技術の粋を結集し建造された、魔導技術と
船体サイズから来る座礁も考慮された重力制御と言う形ではあるが、宇宙より舞い降りながらも海洋航行艦然とした寄港が一枚絵にすらなり得ていた。
「うわぁ~~これホンマに復活させてたんや。ウチ宗家に属しとりながら、大和すら拝んだことあらへんで?ふへぇ~~これが戦艦か~~。」
「
先の大戦時も封印の地守護を担っていた
しかし黒髪人形少女に至っては……あの
「ではお嬢様方、こちらへ。艦内の特設大ホールにて、英国協力勢と……お嬢様方の
「はいな……ほならテセラちゃんに
「「「おー!」」」
外観をかつての超弩級戦艦の意匠に
「いかがなさいましたか?ハル嬢。どうぞこちらへ——」
「あの……私流石にこんな軍艦への搭乗は初めてで——それに
「ボクの事は気にせんと……行ってください。恐らくこれ以上は、一民間人である自分には過ぎた領分や思いますんで。」
「彼の言い分通りです。しかし案ずる事はありません——彼らチームにはこれ以降、何かと一般送迎などで協力依頼を仰ぐ事となります。ですがハル嬢はSPとしての経験にはよい機会……ご同行願います。」
「SPって……想像以上に大変なんですね……。頑張ります。」
嘆息のままその足をエスカレーターに預けると、初体験の軍艦の中へと消えていった。
「ふぅ……生で武蔵を見たと言ったら——ウチのリーダー、発狂するやろな……。」
艦内へと消える宗家組を一瞥する
白き孤高の
∽∽∽∽∽∽
ウチらが電磁式エスカレーターを上って進むのは、懐かしき友人と新たなる来訪者の待つ武蔵艦内特設大ホール。
心の奥底に先の異形の襲撃が引っかかり……それが気にならないと言えば嘘になりますが——
そもそもその不安を取り払ってくれた素敵な友人を立て、今はそれを振りほどく様に歩きます。
ただ……隣を歩く
「さあ、着きましたよ!では——少しだけ懐かしき顔と、初顔合わせの方とのご対面です!」
先頭に立ち、ウチ含む宗家組を案内してくれた素敵な王女様——けれど最初彼女とお話しした時からは、比べるまでも無く堂々たる歩み。
それでいて、魔族の王族たる威厳と凛々しさを兼ね備えたテセラはん……まるで別人かとも思えました。
多分に空気を読みつつ放たれる言葉には、今陰りを見せる二人の初顔さん達の心情さえも鑑みた配慮が
「早よ早よ、テセラはん!扉を開けておくれやす!もうアーエルちゃん達は到着しとるんおすえ!?」
不謹慎と思いつつも、久方ぶりの友人に……初顔合わせと言う方との出会いが待ち切れないウチは、思わずテセラはんを急かしててしまい——
「
急かされたテセラはんが、電磁パネルを操作し——視界に映る淡い蒼の金属扉が、重々しさを感じさせぬ動きで開け放たれます。
そして視界に飛び込んだのは——まぁ、よくよく考えれば検討はついたのですが……——
「アタシは助けてとは頼んでねーし!?勝手な事してんなよ、吸血鬼!」
「ふぅ……見るからに窮地に立たされていた様に見えたんだが?断罪天使。よもやその年で痴呆でも発症したか?」
「——ああ……忘れてた狂気がMAXで
「……えええぇ~~(汗)ウキウキが、台無しおす~~……。」
視界に映る見慣れてたはずのお約束に、深海の様に深い嘆息で肩をガクリと落としてしまうウチ――ええ……そうなんです。
この二人は正に相反する立場——
方や魔を滅する機関に属し、
方や深淵を餌に生まれた野良魔族であったけれど、その種から
その絶望的なまでに対極へ位置するこの二人——とっても仲が悪いのです。
と言っても、それはおおよそ傍目からの様子であり……実際本心では互いを認めている——はずなのですが……顔を合わせればこの通りなのでした。
「あー……うん。やると思ってたよ?二人とも。でもここは少し落ち着いてくれるとありがたいのだけど?」
「……テセラが言うのなら仕方ないな。断罪天使……今日の所は引け——またいつでも相手をしてやる。」
「……そうだし。テセラが言うならアタシは我慢も止むなしだな。つか、上から目線で語ってんじゃねぇぞ!?吸血鬼!」
「いや?文字通り上から——魔王として発言したのだが?」
そしてテセラちゃんが仲裁に入ると、案外二人ともチョロイ感じな訳で……ようやく再開と初対面の場を構築出来た——
と思考したウチ—— 一瞬ある単語に引っ掛かりを覚えて、その発信者へと問い質します。
「相変わらずテセラちゃんには弱いなぁ二人と——ん?はて?今レゾンちゃんなんて言いはりました?」
その問いへ——
そこに会する一同——それも、先の防衛大戦後の彼女しか知り得ない面々限定で……想定など遥か彼方へ弾け飛ぶ回答が強襲したのです。
「ちょうど皆そろった所だ……頃合いだろう。改めて名乗ろう——私はレゾン……レゾン・オルフェス・アイザッハ——」
「つい最近、
「……え?はっ?ま……魔王……さん、おすか!?」
あまりに驚愕で自分でも分かる程に、ポカンと口を開け——直後……その名に続いたラストネームに強い恐怖を感じたウチは——
「いや!?ちょう待ってえな、レゾンちゃん!魔王云々もそうおすけど——今レゾンちゃん……アイザッハって——」
アイザッハ——その名を聞きし者は、強い憎悪と絶望に駆られる事でしょう。
それは、先の防衛大戦における世界滅亡の引き金を引かんとした——忌むべき存在である導師……ギュアネス・アイザッハのラストネームなのですから。
ウチが代弁した事で、言葉を飲み込んだ宗家陣営と異国協力陣営。
しかし一様にその言葉への強い困惑と疑念を浮かべます。
それもそのはず——レゾンちゃんはかつて、その策謀の導師と呼ばれた者に従い……私達と敵対していたのですから。
だけど——
それを一瞥したレゾンちゃん……全ては想定通りとの思考で——ニヤリと口角を上げ、したり顔を浮かべます。
同時に魔界より訪れた初顔合わせの方とテセラちゃんも、そのしたり顔と視線を合わせて頷き——
さらに続く驚愕の言葉を、魔王を——そしてアイザッハを名乗った吸血鬼さんが言い放ったのです。
「困惑させてしまったな……だがそれは事実であり——私が選んだ道だ。私がその道を選ばなければ、偉大なる魔王——
「私はその名を……アイザッハの名を継いだ。
語られたのは、想像を絶する覚悟。
けれどその覚悟の言葉は——今の私へとてつもない重さを伴いのし掛かって来ました。
直後……その言葉で強く心を打たれた私は、気付かぬウチに熱い物を頰へ伝わせていたのです。
「
強くて優しい慈愛の化身……テセラちゃんが最初に涙へ気付き声をあげるも——
ウチの生まれをすでに聞き及んだ彼女は、強く……そして海の様に深い慈愛の双眸で、ウチを慮ってくれます。
その時より——
ウチの思考へ宿った思いが強く……より強く輝き始めたんだと思います。
この身に眠る
そしてその先……お父様とお母様が少しだけ語ってくれた、私にのみ許された唯一の未来への道——
——この蒼き星を観る者……
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