3話—3 光と闇を纏いし金色の王女

 その時ウチは覚悟しました。

 突如として現れた異形の深淵オロチ——けどウチらの側には、その深淵を屠る最強の剣と……それを封じる強固なる鏡が存在しているのです。


 ——そう……していたはずなのです。


 そして訪れた絶対絶命の危機……その剣と鏡の力が封殺されると言う緊急事態。

 原因も分からず、ウチらはただ深淵の魔手から逃げ惑うしかありませんでした。

 そんなウチらを嘲笑うかの様な深淵の増殖は、止まる所を知らず続き——やがて退路を断たれた時……ウチは覚悟を決めたのです。


 地球における史上最悪の厄災——数字を冠する獣ナンバー・オブ・ザ・ビーストが持つコアの力クロノギアを解き放つ事を。


 しかし覚悟のまま足を踏み出したウチは、目にする事となります。

 ——


 この時以降に訪れる……永遠の地獄へ足を踏み入れる事となるウチにとっての、と共に——



∽∽∽∽∽∽



「こちら綾城あやしろっ!アロンダイト卿っ、応答願う!——……っく……通信妨害だと!?何が起こっている!」


あぎとさん!こっちは一般人誘導完了です……それで通信は!?」


 異国令嬢組と別方向へ依頼交渉に向かっていた宗家組であったが、断罪天使アーエルらが危機的状況に陥った頃と同時期——同じくこちらも深淵の襲撃を受けていた。


 それは言うに及ばず命の深淵オロチを根元とする異形……そして天空を埋め尽くす有翼の脅威も同じく襲い来ていた。


「……っ!?桜花おうかちゃん……空からも深淵がようさん来とるえ!?このままやったら——」


「あかんて、若菜わかなちゃん!ハルさんも、はよ——こっちや!」


「ハル様、若菜わかなお嬢様……ささ、こちらにございますっしゅ!守りの結界を張りました故……えっ!?」


「ど……どないしたん!?サクヤちゃん!」


「——これはマズうございますっしゅ……。結界が……勝手に術式崩壊を……——」


「な……なんやて……!?」


 舞姫の従姫である、黒髪人形少女サクヤの守りの術式——八咫天鏡やたてんきょうを始めとした八咫やた家の秘術は、人形少女サクヤの神霊力を舞姫焔ノ命が介する事で強力な結界として展開可能である。

 だが——あの断罪天使が、守護天使ガブリエルと力の結合に不都合が生じたのと同様の事態が発生していた。


桜花おうかちゃん!桜花おうかちゃんは、カグツチ君と霊力結合できるんかいな!これ……場合によっては、魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステムに影響がでとるかも——」


 優しきSPがベレッタ92Fを抜き、対魔弾にて応戦する中——舞姫の言葉でギクリ!と双眸を見開いた小さな当主桜花——

 すぐさまその事態確認のため、従者である天津神の破壊神……業火の炎神ヒノカグツチとの霊力結合を試みた——のだが——


「痛っ!?痛った~~……なんか弾かれたよ!?カグツチ君!」


『これは不測の事態ぞ、主よ……!我の姿顕現は問題無い様だが——どうやら、封じられた形だ……!』


「それ——本当にマズイじゃない!?いったいこれどうなって——」


 舞姫に続き小さな当主の霊力結合さえままならぬ事態——それ即ち、戦力である要の二人が完全に封じられた状況であった。

 その経緯を視認し……思考に浮かぶあってはならない——しかしたった一つだけ、それを可能とする御業を知る舞姫が——


 眉根を歪ませ……悲痛に漏らした。


「この力……いや、この術式は——戦う霊的な力のみを封じる結界の秘術……!これを使えるんは……八咫やた裏門家を……継ぎし者——」


 そう——確証は無くとも、八咫やた表門に属する少女は悟っていた。

 今自分達から力を奪ったのは、——守護宗家にとって、あるまじき事態以外の何物でもなかった。


 直後……大型ショッピングモール駐車場から建物を背に退路を封じられた宗家一行へ、深淵の異形の大群が目標を定め——


「皆さん……来ますよっ!?」


「おっ……お嬢様っっ!?」


「くっ……この様な——万事休すなどっ——」


 宗家SP陣でさえ、絶望的な瞬間が走馬灯を走らせる。

 しかしその絶望が……を後押しする様に——静かに因果の歯車を狂わせ始めた。


「あきまへんよ……皆が犠牲になる世界やなんて——」


「……お……嬢……様?」


「そんなん……ウチは望みまへん——望んでなんかいまへんえ!」


 黒髪と大きなリボンを揺らし、決意宿す紅玉の様な瞳で……少女が前へと歩み出た。

 今まで守られるだけであった少女が……——


「だめです、若菜わかな様っ!約束したじゃないですかっ——二度とその力を解放しないって!お嬢——」


 ドンくさいSP沙坐愛がその年相応の大人の剣幕で、力を解放せんとするはんなり少女若菜を悲痛の叫びで制するが——


「うん……分かっとりますえ。せやけどそれは、意味を成しますよって——皆がおらん世界でいくら力を抑えたかて……何も意味がありまへん。」


 そして——

 少女が悲しき瞳を……悲劇の英雄と呼ばれた両親が、自分へ向けたのと同じそれを――

 永遠の別れを籠める様な一瞥後に、深淵の大軍勢へと向き直ったその時——


 眼前を……


「では壱京いっきょう様、重力子グラビトン圧縮にてピンポイント射撃——決して街への被害を出さぬ様、お願い致しますわ。」


「アイ、マム!主砲、副砲……重力子グラビトン圧縮式・半物化質量弾装填!街への被害を考慮しつつ——武蔵……一斉射撃——」


ーーーーっっ!!」


 それは爆轟……重力の弾雨。

 宗家組が絶望を垣間見……厄災宿す少女が、己の忌まわしき業を解き放つか否か——


 遥かな天空の彼方より放たれた。


 その時天を仰いだ者達は歓喜し——そして涙したであろう。

 視界を占拠した姿は、かつて大空襲を受けてなお沈まぬ脅威を人々に叩きつけた——本来であれば平和を招来するために生まれた、日の本の民の願いが生み出した最強の姿。


 地球の蒼き天より舞い降りたのは超弩級戦艦——魔導超戦艦【武蔵】が、命の深淵オロチを屠るために馳せ参じたのだ。


「む……武蔵——だと!?では……それではっ!」


 天へ現れた存在が宗家を通じ、いかな場所へ譲渡されたかを知りうる優しきSPが——絶望から一転……希望を湛えた双眸で天を仰ぐ。

 その仰いだ爆轟の彼方——深淵を穿った事で巻き上がる煙を掻き散らす影が……金色こんじきの帯を引き天を駆ける。


 十二枚の羽撃はばたく光翼の如き、機械式スラスターから気炎を吐き——棚引くドレスを思わせる機械鎧は、白と黒に若草色のアクセントが光るオーブを各所へ煌めかせ——


「ローディ君!深淵オロチがうじゃうじゃいるけど——今の私と、武蔵の敵じゃない!私達の素敵な家族へその魔手を向けた事……後悔させてあげようっ!」


『ああ!了解だ、素敵な主……ボクもこの世界なら、熾天使ルシフェルの力を存分に発揮できる!』


 天空より——美の化身と称される少女が舞い降りた。


超振動ヴィブラス小宇宙解放クオスマイクス魔導回路接続マギウスゲイト——魔導の王たる我に従え……熾天してんの将よ!その霊撃——反転の器を介し、魔を断つ閃条を解き放てっっ!!」


相転移対魔霊撃閃フェイザリオン・マガ・リバストライドーーーっっ!!』


 その体躯を包むは闇の象徴……魔族の纏う闇が覆い——しかし魔導の鎧である白と黒の機械のドレスが、それを眩き光へと変換する。

 戦乙女形態ヴァルキュリア・モード天楼の魔導王女マガ・プリンセス〉に備わる……魔霊力を神霊力へと変換する、金色の王女だけに許された禁断の霊力位相反転変換システム。


 彼女を支えるは、かつて天軍をまとめし最高位天使ルシフェル——故に少女は、その攻撃を現実のものとしていた。


 宗家組を進退窮まる様に追い縋った異形の深淵オロチが、瞬く間に光の閃条で焼き尽くされ——さらに超戦艦からの砲撃で、天を覆う様に現れた異形が次々と爆豪の元に撃ち払われる。


 そして——


「テ……セラ……はん?」


「うん。……少しだけ——お久しぶりだね、若菜わかなちゃん。」


 己が内に眠る厄災の因子を覚醒させる寸前であった、はんなり令嬢の眼前へ——彼女にとって掛け替えのない友人——

 金色の王女……姫夜摩ひめやまテセラが、ようやくの帰還を果たす事となったのだ。

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