3話—2 降臨!赤煉の魔王
「なんだし!?こいつら——どっから湧いて出た!?」
「シャルージェ!皆様を避難させて下さい!」
「
それは突如訪れた。
『お嬢様方、大丈夫ですか!』
「カズーさんか!こっちは大丈夫だ——最悪あんたは逃げろ!こっちはこっちで何とか……って、まだ湧いてくるし!?」
一般市民誘導に全力を尽くす異国組の令嬢達……内二人は確実に戦う力を得ている。
故に一般市民代表であるカスタムマシンチーム所属の男性は、足手まといにすらなり得る状況であった。
だが——
「大方避難させたな……!よし、久々の出番だ……ガブリエルっ——
『アウーーっ!もうワタシ忘れられたかとオモイマシタネーーッ!』
「つか、悪かったし!……ちょっとあれだ……友人との語らいが楽しくて——って、それは今どうでもいいし!?いくぞっ!」
人的被害を最小にするため、最優先で市民誘導を買って出た断罪天使——狂気を纏い、己が復讐のために霊銃を振りかざした時より数段の成長を見せていた。
だがしかし——断罪天使も予期せぬ事態が、彼女を襲う事となる。
「——っく!?な、なんだ……ガブリエル!」
『マ、マスター!大変デース……マスターとの量子結合が阻害され——霊力がヘンカンデキマセンデー——』
「……なんだ……それ……!?」
それは詰まる所の絶対絶命。
彼女らを襲った存在は……今最もこの世界で恐れられる異形。
モール駐車場へ所狭しと出現したそれらは徐々に距離を詰め——しかし民を襲う事なく一点を目指す。
その一点——英国令嬢と断罪天使である。
「つーか、何とかならないのかガブリエル!このままじゃ——」
「お逃げ下さい……アムリエル様!ここは私めが食い止めます!」
「いや!?シャルージェさん……あんた——」
「これらはどうやら、私達を狙っていると考えられます!アムリエル様とお嬢様を追う様に仕向ければ、私めがそれを迎撃し——時間を稼ぐ事も可能と推察します!」
断罪天使の異変へ即座に対応する
そして黒の混じる金色のポニーを揺らす英国令嬢侍女が、不敵な笑みのまま断罪天使を一瞥し——
「私めがあなた方に同行するは、まさにこの様な時のためです!行って下さいませ!」
「つーか……シャルージェ——」
「お姉様、お急ぎをっ!シャルージェの覚悟を無駄になさいません様……!」
「ア……セリ——くそっ!無茶はすんなしっ!」
野良魔族に襲撃された経験もある
すでに覚悟を決めた少女は成長し、異形の存在を前に震え
それどころか、侍女の覚悟を悟り……自らの力発動に支障を来した断罪天使の手を取り、駆け出す令嬢。
そこには強き信念……世界の危機に立ち向かう、魔法少女達にも劣らぬ滾りが伺えた。
駆ける断罪天使と英国令嬢……そしてそれを待っていたかの様に追い始める異形。
かつて彼女らが相手取った個体からは幾分小柄——それでも相手は異形の深淵……それも大群を伴い出現するは最早脅威でしか無い。
「数が……多すぎますね!こちらシャルージェ……っく!?通信も阻害されている様です!」
「通信もかよっ!?これ何が起こってんだ……って——ちょっと待つし……!?」
駆ける少女は英国令嬢と共に天空を見上げた。
それは翼と思しき大気を孕むそれをはためかせ、今までの異形からは大きく異なる天を舞う有翼の大蛇――他国の神教で擬えるならば、アステカのケツアルコアトルか……ゾロアスターのアジ・ダハーカを訪仏とさせる御姿。
その双眸を犯した天を埋め尽くす程の異形——飛行型の
「んなっ!?おいおい……これはマズイし。ガブリエルっっ!」
『ダメですーーっ!接続が、ヤッパリできないデース!』
「お……お姉様っ……!」
未だ力途絶の状況が回復しない断罪天使。
そして——ついに……異形が進軍を始めた。
「くそーーーーっ!!」
直後——
断罪天使へ向けて突撃を始めた異形が——爆炎を伴う巨大なる一撃により……屠られた。
「どうした?……随分
「——っ!?……お……お前——お前なんでここにいるんだし!?」
「ああ……こちらに帰った矢先、情けない天使の姿が見えたのでな?ちょっとついでに助けに来てやったんだ。何……礼ならテセラにするといい。」
「テセ……ラ!?」
「お姉様……あの方は、まさか——」
舞い降りたのは赤き烈風——灼熱の業火。
燃える様な赤髪を
否——それは……その存在は——
「さあ……こちらでの肩慣らしにしては物足りないが——なにぶん地球は光の支配が強すぎる。調整も含めてこの烏合の集を片付けていこうか……ベル。」
『ええ、久しぶりの戦闘です。腕がなりますね、レゾン。』
「だな……。」
「おいっ!つかお前、吸血鬼!あの大戦でテセラに助けられるだけだったお前が、これだけの数を相手取れる訳——」
断罪天使は防衛大戦で、眼前の赤き存在が無様な醜態を晒した事実を知り得ている。
しかしその後——天空の魔界での出来事は知り得ない。
その天使へ……赤き存在は——不敵なるしたり顔で叩き付けた。
「あの時は済まなかったな、確かに醜態だった。だからしかとその目で見届けてくれ——
「……
「ま……魔王……——」
蒼き大地の大気が震える。
眩き赤が鮮烈に輝き放つ。
断罪天使の前に舞い降りたのは……先の防衛大戦で、無様を晒したいと小さき吸血鬼ではない。
それは魔界における伝説の片翼を引きつれ現れた、赤煉の意志を纏う者――
「さあ、異形の有象無象どもよ……これより刹那の突撃で、お前達はみな
「赤き超音速の突撃が、お前達を完膚なきまでに撃ち散らす!では――ぶち抜かせて貰うとしよう!装填……
赤煉の魔王を名乗りし少女を包むは獄炎——それが彼女の
黒竜鱗をあしらったショルダーガードとウエストガード——赤と黒を配するマントとも翼とも取れる衣が背部へ舞い——
吸血鬼であり最強の竜である彼女を表す、巨大な推進用スラスターを兼ね備えた大翼が大気を孕み開かれた。
最後にその手に握られるは、竜の双角を表す〈
そして猛々しく……業火舞う気合を込めて——最強に至った少女が咆哮を上げた。
「さあ、異形の者どもよ!全力で願おうかっっ!!」
刹那——
疾風はその手に握った竜の角を超高速回転させ……赤き閃光と化す。
天空を埋め尽くす異形が反応するよりも速く……いと速く——
無軌道な稲妻となった赤き魔王が——異形を……片っ端から喰らい尽くした。
「……ウソ……だろ……!?」
銀嶺に輝く少女はあり得ないモノを目撃した。
少女の記憶では眼前に現れた吸血鬼は、あの防衛大戦の折でもよくて自分の足元——それ以上の力を有する現実はあり得なかった。
断罪天使とて最強の称号である【
以前と比べるまでもなく強き力を手に入れていた。
だが——双眸を赤き稲妻となって駆ける吸血鬼は、彼女の想定など軽く凌駕する。
さらに言えば現時刻は昼下がり……下等な闇の眷属であれば一瞬で消滅するであろう昼日中。
しかし闇の眷属においては例外も存在した。
それは眷属の中でも魔王クラス以上の存在であれば、日中でも不自由なく活動できると伝えられている。
――
さらにそれらは、
つまり断罪天使の視界に飛び込む現実——それは赤き吸血鬼が発した、己が魔王であると言う発言が真実である事を示唆する。
その断罪天使が僅かの間、信じ難き現実に戸惑う最中——赤き稲妻が最後の異形を文字通り、撃ち抜いていた。
「本来なら私の様な闇の力は、この様な異形も滅し難い所だろう——だが、残念だったな……異形よ。これは宇宙に在りし不変の法則でしかない——」
「霊的な力が殺されるならば、超常を超える物理の突撃で押し通ればいい。そして異形よ……お前達は霊的に下等だ。その様な不貞に遅れをとる様では——私に力を与えてくれた、
直前の危機がウソの様に晴れ渡る蒼き星の天空へ、一人の少女が帰還した。
それは地球で生まれたいと小さき害獣であったモノ——しかし今、
天より見下ろす姿は、最強の頂きに至りし魔王——赤き吸血鬼レゾン・オルフェスの、威風堂々たる凱旋であった。
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