2話—2 綻びを憂う者

 うどん次郎店向いの店舗駐車場。

 今後のカガワの都滞在のため、別荘近隣における宗家守備隊配置——さらには、有事に必要となる然るべき場所……四国の西にあたる瀬戸の海上へ居を構えるイースト—1【新呉市】との情報共有及び、増援要請後の経路確保を打ち合わせするSP陣。


 ことカガワの都においては東都心トウキョウと比べるまでもなく、幹線道路の少なさが際立ち——有事に緊急走行警報を出そうものなら、一瞬にして生活道路全域が走行不能……それによりライフラインが寸断される問題があった。


 幸いにも空路の拠点が瀬戸内に構えし西の居城E‐1 新呉市近海へ併設されており、近接する都の航空自衛隊所属機動兵装支援も可能である立地だが——それら機関が緊急出動する際発生する、国防省からの指示待ちと言うタイムラグを考慮すれば……実質宗家で対応する他なかった。

 先の防衛大戦の折……宗家と深い縁を持つ防衛省長官にして【日の都の暁ライジングサン】が一人——数十年前……日本救済に尽力した狩見 音鳴かりみ ななる長官がその件に関し、頭を悩ませたのは記憶に新しかった。


「現状の封絶鏡であれば今すぐ事態が悪化する事も無いだろう——が、緊急走行エマージェンシー・ランディング警報時の混乱を考慮した経路選択が必要だな。ただ——」


「この地に於いては、普段の足以外での任務車両走行——弊害にしかならない可能性がある。」


「そうですよね~~。この地の幹線道路は、結界によって守られていた関係上昔ながらの街並みのまま——それは言い換えれば、古い時代の……それも緊急走行エマージェンシー。ランディング警報に対応しない時代のものですから~~……。」


 昔ながらの良きを残す風景であるが故……新しい時代のセキュリティには対応しない。

 宗家が任務地へ即座に急行するため、任務車両を全速で運用出来る施策――人造魔生命の絡む災害対応である警報発令は、先の防衛対戦以前より国内へ浸透するも……それは大方人工密集地帯である大都市が中心である。

 そこには古の技術体系ロスト・エイジ・テクノロジーが当たり前の世界であろうと関係ない、都心と地方の埋め難い文化及び技術格差――歴史が移り変わろうとも、変わらぬ現実が確実に存在していた。


「では、騎士会ラウンズが擁する空挺部隊をお使い下さい。開けた場所を利用すれば、支援に訪れる任務車両を輸送機で運ぶ事ぐらいは可能と推測致します。宗家が擁する擬似霊装機動兵装デ・イスタール・モジュール支援……それらが、新呉市E‐1から訪れるまでの時間稼ぎ程度にはなるかと。」


「相手が深淵であれば、各機動兵装モジュールの火器使用も制限付きだが許可が降りるだろう——しかし支援が到着するまでの時間稼ぎ……そこに限っては任務車両が有効か。では、開けた駐車場を持つ大型ショッピングモール等を中心に——片側二車線の経路を優先して警報を出す様通達しよう——」


「アロンダイト卿……支援志願、感謝します。」


 刈り上げた茶髪を揺らす小さな当主桜花お付のSP……綾城 顎あやしろ あぎとはこなれた謝意を、英国令嬢アセリアお付きの、剣の名を名乗る女性シャルージェへ向け——女性も首肯にて応じていた。

 古の技術体系ロスト・エイジ・テクノロジー使用は、アリス代行である【星霊姫ドール】ブリュンヒルデの許可を要する現在——常にそれを考慮した、現場で調達可能な支援及び防衛手段を駆使し……事に当たる必然性を知る支える者達――

 その中でも陸路の緊急移動手段となる、任務車両を含むスポーツマシン勢を任務上のキーへと据え計画を絞り出す。


「ウチのチームは、当面お嬢様方の日常サポートを受け持ち……何かあれば、宗家の方に連絡。その上でお嬢様方をお守りする——って事を、リーダージェイへ伝えておけばええかな?」


「はい~~その方向でお願いします~~。……本当は私がそれを担当しなければならないのですけど——ひっ!?」


 カスタムマシンチームの眼鏡の好青年カズーへ、確認と自虐を向けようとしたドンくさいSP沙坐愛——突如として響くけたたましい爆音……それも調律された音には程遠い、でビクリ!と震え上がる。


 支えの大人達一行が見やる視界の先に、数台の改造バイク達——奇抜な装飾は一行の任務車両からすれば特異であるがインパクトは絶大な様相。

 それが今まさに、お昼を堪能せんとするお嬢様方のいるうどん屋へと入って行く。


 が、さすがの支える者達——今しがたビクリ!と身体を強張らせたドンくさい美人はともかく、その改造バイクが吐き出すで右往左往する者はいなかった。


「またですか~~!?カガワの都は、こう言う面で結構無法地帯で——ここに来る度に遭遇するんですよっ……!あうぅ~~早く居なくなってくれませんかね~~――」


 大人であっても触れたくはない種の苦手が存在し—— 一般の営みを享受するものであれば、そのはまさにピンポイント——

 しかしながら、その怯える姿……無様以外の何物でも無かった。


 だが——

 その直後に訪れるが一悶着が……ドンくさい美人にとっても一つの決断を下さねばならぬ事態となろうとは——まだSP国塚 沙坐愛くにつか さざめも、知りえなかったのだ。



∽∽∽∽∽∽



「ちょ……若菜わかなちゃん。何ムキになっとんねん……SPさんが来るまで——」


「そうだよ若菜わかなちゃん。無茶しちゃダメだよ……。」


「いや……アタシ、若菜わかながこんなガチギレする姿なんて……初めて見たかも……。」


「そう……なんですの?お姉様。」


 二人の宗家関係者である魔法少女達は、彼女を深く知る者の思考で……事もあろうか輩へケンカを吹っかけたはんなり令嬢若菜を抑えにかかる。

 対して——彼女の力無き姿しか知り得ぬ異国の少女達は、はんなりふんわりと認識していた少女のあるまじき表変に困惑を隠せない。


 ただ一人……神族に属する黒髪人形少女サクヤは、双眸へ悲しみを浮かべ——年場も行かぬ少女に注される、哀れな輩の無様を憂いていた。


「お……お客さん!相手はまだ子供や……頼むからそんな大人気ない事は——」


「ああ……店主はんにはご迷惑をかけませんよって。ウチがちょいとこの——」


 すでに出来上がった、温かいうどんを尻目に立ち上がった少女へ……醜悪な面を寄せる輩は――ついに、まだ中学にも達さぬ少女へ買い言葉を吐き捨てた。


「なんじゃコラ!オレにケンカ売るんか、このクソガキが!上等や表出たるわ……どつきまわしたる!」


「おらっ、来いや!兄貴に恥かかせんなやガキっ!」


 戦慄の眼差しを浮かべ、誰一人仲裁に入る事叶わぬ街の常連客——少女を守りたくとも、皆足が竦んで動かない。

 それをあざ笑うかの様に……店舗の引き戸ガラスを割れんばかりに開け放った輩どもが、少女を追う様に外へと出て行き——


 しかし直後——そこにいる誰もが想定しない事態が巻き起こる。


「——あれ?なんや静かになったね。ウチちょっとみてくるわ!」


「はぁ……世話の焼けるお嬢様だし。店主さん……アタシらにここは任せてくれ。アセリアはここで待ってるし。」


「ええ、お姉様。お任せします。」


「大丈夫かな……無茶してないかな、若菜わかなちゃん。」


 少しの間を置き静かになった外が気にかかり……おおよそ戦力となり得る少女達が、やれやれ立ち上がると——ガラス戸を開きの支援へと向かった——


 が……皆がそこで見た物は——


「す、すびばせんでしたっっ!もう二度とこんな真似はせえへんので……どうか、どうか勘弁をっっ……!」


「ああ……分かってくれたらええんおす。お店にご迷惑がかかるし……せっかくの美味しいおうどんや——もっと味わう様に食べて貰いたいんえ?」


「ええおすか?今後お店にご迷惑がかかる行為を働こうもんなら、……それはもうあんさんらが、。肝に銘じておきなはれや?」


「は、はいっ!申し訳ありませんでしたっ……!」


 一触即発を想定した断罪天使アーエルでさえ、硬直したまま呆然と事を見送った。

 今しがたケンカを売られ、巻き舌のまま意気揚々と表へ出向いたDQNの輩達——それがまさかのはんなり少女へ始末。

 極め付けは、初等部少女に向けて輩が放ったのは罵詈雑言ではなく……「あねさん!」と言う珍セリフ。


「——つか、初等部児童にあねさんて……。若菜わかな、何やらかしたし……(汗)」


「……これ、若菜わかなちゃん——かな?」


「したかも知れへんなぁ……。大丈夫かいな。」


 の意見が分かれて溢れる。

 断罪天使の言葉は……小さな当主桜花舞姫焔ノ命の言葉は

 その彼女達の眼前で先程の勢いが抜け切った輩達を、手を腰に据え仁王立つはんなり令嬢が店内へと即す。


「ほらあんさんら、さっきかけうどん注文しとりましたえ?もう店主さんが出来立てを用意してくれる頃やさかい、ちゃんと味わって食しなはれ。……あと、お客様にご迷惑——かけたらあかんえ?」


 コクコク激しく首肯した輩達は、先の罵詈雑言が嘘の様な大人しい態度でうどんを受け取り……水を打った様な静かさのまま食事を開始し——その姿に度肝を抜かれた店主と常連客が、唖然と口を開け放つ。


「おい、若菜わかな!お前何をしでかした——」


 あまりの珍事態に、さしもの断罪天使が問い質そうとした時——向かいの店舗より早足で道路を渡る影が、天使を遮る様にはんなり令嬢の前へ立ち塞がった。


 しかしその表情は、ドンくさいと呼ばれているのが無かったかの様な面持ちで——


「あっ……沙坐愛さざめ……はん。その——大丈夫や……無茶な開放はしとらん——」


 はんなり令嬢が珍しく狼狽うろたえる様な視線で、SPへ——これまた令嬢としては珍しい、言い訳とも取れる言葉を放とうとした……刹那——


 ……はんなり令嬢の頰を——引っ叩いた。

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