砕けた鏡の鎮魂歌

2話ー1 その身に巣食う災厄の残滓

「では我等はこちらへ停車させますので。先にお店へとお入り下さい。」


「了解や~~。注文も先に頼んどきますえ~~。」


 はんなり令嬢若菜が案内したのは、他でもない例のバイパス沿いに構えるうどん屋――しかし昼時前とは言え、今の一行は数台の車で押しかけた大所帯。

 機転を効かした小さな当主桜花のSPである綾城 顎あやしろ あぎとは、向かいの店舗空きスペースへ車を向かわせる。


「ああ、お嬢様方――先に降りて頂ければ、車を駐車しますので。」


「おおきにな、ジェイさんのお仲間さん。え……と、カズーさん――おしたか?貴方の分は注文しときます?」


「お気になさらず。こちらはこちらで注文いたしますので――それよりも、お腹が空きすぎて……友人方、お待ちですよ?」


「お気遣い感謝おす~~☆」


 カスタムマシンチームLightning BUG出向ドライバーは、ジェイ関谷せきやから依頼を受けたメンバー……人当たりの良さそうな面持ちに淵なし眼鏡が生真面目さを覗わせる男――カズーと呼ばれた青年は、流れる様な駐車を決めてスマートに降車した。


「うわ~~……これ、と大違いやな~~。やっぱりロータリーマシンを運転する方々は、繊細な運転を得意としとるのやろか?」


「確かにな~~。ささ、入ろうや……二人ともこっちや、こっち!」


「まぁ☆……素朴ではありますが、素敵な建物で——」


「……アセリア……それ褒めてんのか?けなしてんのか?どっちだし?」


「い、いえ!褒めてますよお姉様!?まだ俗世の事柄に対して、上手く適した言葉が選べませんので!?」


「難儀だな~~お嬢様ガチ勢は……(汗)」


 舞姫焔ノ命に手招きされてお店へと足を向けた断罪天使アーエル英国令嬢アセリア——が……御家柄俗世との関わりも薄かった令嬢は、に突っ込まれて慌てふためいていた。

 しかし彼女らも、小さな当主が真の当主継承を受けたと同時期……任務上の事件を乗り越え手を取る様になったばかり——未だぎこちなさが抜けないが、少しづつ友人としても仲を深めていた。


 ……——


「お嬢様もようやく、俗世をおもんばかれるほどに成長した頃合いにございます。それもアムリエルお嬢様のお陰と言う物……誠にありがたく——」


「「ちょ……恥ずかしいからっ!?」」


「うんうん、息の合った返事で何よりだね☆これが百合のあるべき姿……そんなことより——二人とも、このおうどんを頂くお店はセルフサービスだよ?ほら!お盆を持つ!」


「……百合?って——お盆?これをどうするんだ?」


「どうするんですの?」


 今より頂くうどん店のルールを事細かく説明する小さな当主は、二人の息の合う惚気のろけたデレ返答を嘆息の中聞き届け……然るべき行動を促した。

 俗世うんぬん以前に――未知の領域である日本地方文化にシドロモドロの英国令嬢と断罪天使も、拙い手付きでお盆を手に取りカウンターへと並ぶ。


「あら、新しいお友達ですか?お嬢様。いらっしゃいませ、小さなお客様達。」


「そうおすえ~~。ほら、アーエルちゃんとアセリアさん……ご挨拶——って、サクヤちゃんもここは初めておすな。」


「ど、どうも。」


「よ……よろしくお願いいたしますわ。」


「いたしますっしゅ!」


「いえいえこちらこそ。では注文をお一人ずつどうぞ。」


 はんなり令嬢が贔屓ひいきにする所以ゆえんでもある、店主奥さまが放つ笑顔に小さな客人達も自然と笑顔を見せる。

 その光景へ、紹介した甲斐もあると笑顔を向け合うはんなり令嬢と舞姫も……初セルフ飲食へ果敢に挑むの後に続き、手慣れた注文で各々の食する好物を手にしてレジへと向かった。


 同じ頃あえて小さく暖かな光景から間を取るSP陣と、カスタムチーム出向の眼鏡の青年カズー……ささやかな心配りを見せる大人達の元へ、一旦は下がるお付きメイドシャルージェ——

 彼らは当主とその代理である少女の今後と、カガワの都への長期的な滞在を踏まえた段取りをと……店舗から僅かに離れた場所で意見交換に移った。


 その直後——

 少々予想外の出来事が……今八尺瓊やさかに裏当主代理でこの地を訪れる少女の内——未だ巣食う厄災の残滓へ、いと小さき綻びを刻む事となるのであった。



∽∽∽∽∽∽



 焔ノ命ほのめちゃんにサクヤちゃん……桜花おうかちゃんとアーエルちゃんにアセリアさんと——ウチの贔屓ひいきにするおうどん屋が、大切な人達で賑わう様子は感慨深い物がありました。

 SP方達——まぁ神様であるサクヤちゃんは例外として……ウチらのバックアップに勤しむ素敵な年長者方は、任務上のお話で少し外し——


 しかしそのの取り方も、一般客の訪れを考慮した対応であるのは想像に難くありません。

 ウチの大好きなこのお店も決して広い店舗とは言えず——大所帯が舞い込むと、その地元で短いお昼を頂く町民へご迷惑となるからです。


 それをよく知るSPさんは、いつもすぐお向かいの店舗へ許可を——ちょっと権力を効かせちゃいますが(汗)、最低限ご迷惑とならぬ時間差対処を毎度の事ながら取ってくれてます。


「お会計は全部ウチが持ちますよって……ほな皆はん、席へ着いておくれやす。」


「「「は~~い!」」」


 見た目も小中学童の一団なウチらは、手にした各々の注文が乗るお盆を机へと据え——お会計を済ませたウチを最後に、待ちに待ったおうどんを頂こうとした時——


 鳴り響く爆音——それもを撒き散らし……目立てば良いと言うだけの装飾で飾り立てた二輪車の一団がやって来たのです。


「おー俺マジ腹へったがーー。バイトの姉ちゃんは――くそっ、おらんのか。……オラ、はよ入れや!」


「す、すんませんっす先輩!つか相変わらずここ汚いなーーギャハハハハっ!」


 それは貧相下劣な言葉を撒き散らす、通称DQNと称されるやから族さん達です。

 おまけに口にするは、ウチが贔屓ひいきにしているお店への罵詈雑言——けれどそんな輩族さんへも笑顔で接客する店主さんが、注文をと乗り出します。


 ですが——


「いらっしゃい!うどんはどれに——」


「うどんはうどんや……かけに決まっとるやろが!つか、おっさんはいらん、姉ちゃん出せや!」


「ごめんな……今バイトは休憩中やから、勘弁してな。……じゃあかけでええな?」


 店主さんの温かい対応さえ怒鳴り散らすさま——確かに大人です。

 ——ですがそれは、子供のウチらから見ても情けなさしか浮かばない姿。

 そんな輩族さんを一瞥した、初めて食するうどんに興味深々な笑顔であったアーエルちゃん……傍目から見ても分かる変化で、確実に不機嫌へ移り変わったのを確認し——


 制して置く必要を感じたウチは小声で——


「(アーエルちゃん、あかんえ……?お店のご迷惑になるよって……——)」


「(分かってるし……。けどいるんだな……この平和を享受する和の国にも。)」


「(ですわねお姉様。わたしも、この国の素敵な面を多分に感じておりました所——この様な方々の存在は、いささいきどおりを覚えてしまいます。)」


「……って、アセリアはん……アーエルちゃんに似て来てはるな(汗)ええからここはほっといたら——」


 そこまで口にしたウチは、小声のつもりが不覚にも輩族さんのお耳に届くレベルで喋ってしまい……見事にそれで点火された矛先が、こちらへと向いてしまいます。


「は?なんやこのガキ……あんまり調子乗ってたらしばくぞ、コラっ……!」


 今はお昼時……他の地元客であろう人達もいる中の、残念極まりない所業——知能が足りて無い輩族さんは、ケンカを売り始めます。

 その上宗家の頼れるSP陣も、未だ店内には入店していないと言う始末の悪い状況に……ひとまず穏便に事を収めようと言葉を口にし——


「ああ……悪気あるわけやあらへんえ?お兄様方。気に障った様なら堪忍して——」


 と、ウチが言うが早いか舌打ちのままイケメン店主さんへと向き直る輩族さん——流石に年齢差を意識し手が出せないと踏むや否や……あろう事かお店への暴言に変換し、のたまわり始めたのです。


「オイオイ、なんやこのガキ共!このお店は、客のしつけがなっとらんのとちゃうか!?こんな客しかおらんのやったら、!」


 その暴言に店主さんも困惑顔。

 お客様に喜んで頂ける様に、丹精込めたおうどんを提供頂けるこのお店へ——あるまじき暴言が舞い……けれど、輩族さん達に声も上げれず縮こまる常連客の方々。


 その状況に視界が占拠されたウチ——


「——あんさんら……言うてええ事と、悪い事がありますえ?ちょっと表出なはれ……。」


 ウチにとって今後二度と訪れないかもしれない、掛け替えのないささやかな日常——それを害された時……その深淵は、永き眠りから目覚める様に——


 ウチのこの身を……浸蝕し始めたのです。

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