1話—5 ささやかなる日常と騒がしき訪れ

 日を置いた少女達は改めて日常に浸るため、朝駆けより待ち合わせとし……再び封絶鏡の駐車スペースへ訪れていた。

 当のはんなり令嬢若菜は、例によってドンくさいSP沙坐愛が駆る深淵紛いの任務車両オロチで無用に揺られ——僅かに合流を見る。


「おはよ~~……って、若菜わかなちゃん平気?思いっ切り顔、青いで(汗)?」


「本当っしゅ。っしゅ……まさに……――しゅっ!?」


「うう~~堪忍な、焔ノ命ほのめちゃん……。そして今日の所はサクヤちゃん——これで勘弁しといたります……。今何処見て、それ口にしはったんかな?ん?」


「痛いっしゅ……。けど確かに、いつものチョップよりも威力が不足にございますっしゅね。」


 弄りを見せた黒髪人形少女サクヤへ放つ、お約束の反撃可愛いチョップの威力さえも半減するはんなり令嬢——それなりのダメージのまま、何とかこの日の本題へと移ろうとし——


「少し水を飲んで、大人しゅうしとったら大丈夫思うんおすけど……。今日の所はもう、沙坐愛さざめはんの任務車両オロチには乗りとうないわ~~。」


「そっ……それはあんまりですぅ~~お嬢様~~!?」


「ああ……いや、ウチも分かるわ~~。」


「分かるっしゅ~~……。」


「皆さんまでっ!?ひどいっ!」


 弄りの矛先がすげ替えられ、集中砲火を浴びせられるドンくさいSPも嘆きと共に抗議する。

 関与していないはずの舞姫焔ノ命黒髪人形少女サクヤさえ聞き及ぶほどに、このドンくさいSPの荒ぶる方向への安全運転は知れ渡っているのだ。


 そして、その打開策を準備していたはんなり令嬢はおもむろに語り出す。


「まあこんな事もあろうかと、先の東都心トウキョウ——桜花おうかちゃんが巻き込まれた事件以来……今後の宗家をサポートする形の依頼契約をした方々——」


「ちょうどこのカガワの都を中心に活動する、……今まさに電話依頼をしよう思とりますよって……。」


「ああ……それなら安心やね。」


「安心っしゅ。」


「ワザとですね!?ワザと皆さん私をハブってますよねっ!?お姉さん悲しいですぅ~~!」


 ドンくさい年上SPのお決まりな幼さ全開に嘆息しつつ、手にした携帯端末から八尺瓊やさかに裏当主であるれいより伝えられた連絡先――カガワの都を活動本拠に構える者達へと繋ぐ。


「――あっ、リーダージェイはん?ウチは八汰薙やたなぎ若菜わかなおす~~。れい姉様からお話は――」


『おおっ、八汰薙やたなぎのお嬢さんかいな……お疲れやな。聞いとるで――ただ俺らはまだ、東都心トウキョウで風間が出るレースのサポートが残っとるからな……代わりにウチのメンバーで、そっちの居残り組みに連絡を繋いだるわ。ちょっと待ちなよ~~――』


「……皆さん、連絡が付きそうおすえ☆」


「まだ引っ張るのですか!?お嬢様!……もういいです、結構です!どうせ私はしか出来ませんよ……ゴニョゴニョ――」


「「あ……ねた……(汗)」」


 執拗な弄りに抗議し続けたドンくさいSPも、ついに芯の所がポキリと折れて……のイジケモードへと突入し――

 確実に年下であるはずのはんなり令嬢も盛大に嘆息を見せ――直後、連絡先のカスタムマシンチームリーダーより返答が返される。


『どうやらギリで動けそうなメンバーがおるわ。お嬢さんも乗り慣れた白馬RX-8がそっちへ向かっとるから、今日はそのメンバーによろしく頼むとええで?』


「ほんまですか?それはおおきに。ジェイさんもそちらのサポート忙しいやろけど、今後もあんじょうよろしゅう頼みますえ。そしたら――」


 の手筈も整いふぅと一息つくはんなり令嬢は、御神殿への階段下——池を一望出来る屋根つき展望台のベンチへ腰を下ろす。

 それにならった舞姫と黒髪人形少女も同じく腰を下ろし……そして何故か


 そして——


「……あの……何なん二人共——何でなんおすか?って……むぎゅっ!?」


「こうするためや~~!」


「ためっしゅ~~!」


 令嬢の質問が早いか否かのタイミングで、またしても——少女を挟み込む。

 困惑の渦中に放り込まれた令嬢を他所よそに語る、守りの担い手達は——


「どうせお迎えが来るまで時間もかかるんや!それまではこうやって、貴重な時間を有効活用するんや~~!」


「今ばかりは主に賛同致しますっしゅ!久しぶりの若菜わかなお嬢様を堪能するっしゅ~~!」


「た……!?堪能てなんよ!?や……やめ、っん!て——沙坐愛さざめはん?」


 溜め池のほとりに吹き荒れる——三人の幼き少女から完全に取り残されたドンくさい大人の女性は、真っ白に燃え尽きた様な瞳で嫉妬の情念に駆られるのであった。



∽∽∽∽∽∽



 お迎えを待つウチは、幸か不幸か——いやまあ、幸福なのでしょうけど……二人のお友達にまたしても揉みくちゃにされ——任務に勤しむ無二の友人達とも距離が開いていた今、とても大切な時間を過ごしていました。


 ただその直後……お迎えが来るはずの時間に、ちょっとしたサプライズがウチを襲う事になり――何かしてやられた気分を味わう事となったのです。


「ああ、なんや賑やかな排気音が聞こえるな~~。それもウチの聞き慣れた咆哮が——あれ?なんや複数聞こえますけど……人違いやろか?」


「……あっ、お嬢様——車がやって……って、あのRX‐7とインテグラは——」


「——はぁ~~桜花おうかちゃんの仕業やな?……やられたわ。これ完全にサプライズのパターンおす……。」


 そう——視界には確かに連絡のあった白馬……ウチのロウ兄様と同型のRX‐8が映っています。

 けれど……その後ろに続くのは間違いなく、今桜花おうかちゃんの送迎車両となっている純白に赤のエンブレムが輝くインテグラ——その後方は言うに及ばず、あのあぎとさんが駆るRX‐7でした。


「あれ?桜花おうかちゃんが四国ここに来るやなんて聞いとれへんで?何かあったんかいな……。」


「いやぁ……違う思いますえ?それも無くはないやろうけど……散々ウチら、に明け暮れとったから——」


「何やそのサプライズのバトルて……(汗)」


桜花おうかお嬢様までいらっしゃるとは!今日はわらわにとっても素敵な日に——って……若菜わかなお嬢様?あの……めっちゃ桜花おうかお嬢様がダッシュして——」


「ほぇ?」


 油断大敵とはこの事でしょう——今日は散々……訪れたサプライズに気を取られ、現れた現状を悟れなかったウチは——


若菜わかなちゃ~~んっ!ひっさしぶり~~!!」


「おう——って!?むぎゃぁぁ!?」


 まさに振り向き様――

 見事に蒼い疾風の突撃ダイブを食らったウチは、危うく転倒しそうになり——それでも何とか体を支えつつ、待ちわびた素敵な友人を……


「うぇっ!?な、何で若菜わかなちゃん私を引き剥がすの!?まさか新しい良い人でも——」


「違うわ!?何やの新しい良い人って!?てか、昨日からここの二人に散々やられとるよって……もう三度目の揉みくちゃはメッチや!」


「そんな~~私はまだ一回だよ~~。」


 涙を浮かべつつ名残惜しそうにする草薙が誇る小さな当主様を、グイグイと押して離しながら……呆然とした八咫やたの二人の視線に気が付き——


「——何や、どないしたの?」


「いや、桜花おうかちゃん……車椅子——やないの?」


「……桜花おうかお嬢様……自分の足で——立ってるっしゅ……。」


「ああ……うん。二人は知らんかったよね——立てるんよこれが……。」


 二人が発した言葉でようやく納得がいったウチ。

 そうです——桜花おうかちゃんが草薙の正式な当主となった事は、宗家内情報で知り得る二人も――

 付き従う魔法少女システムコアである天津神の炎神様ヒノカグツチを調伏し——桜花おうかちゃんがそれ以降、自らの足で立てる様になった件……車椅子姿しか見た事のない八咫やたの二人が、今視認した現実で呆然とするのは仕方無き事なのです。


 言わば、違う方向のサプライズが強襲したと言う事でした。


「はぁ……。何だ……ハルさんの言うサプライズって、こう言う事だったのか。——賑やかだね~~。」


「はぅ~~。アーエルお嬢様、そこはもうご勘弁願います。蒸し返さないで~~——」


 さらに停車した二台から降り立ったのは他でもない、現在桜花おうかちゃんの日常のSPへ抜擢された円城寺えんじょうじのハルさん——艶やかな黒のお下げを揺らす素敵なご令嬢と、私にとって無二の友人の一人なアーエルちゃん。


 銀の御髪を後頭部で纏める……今もちょっと狂気がにじみ出る断罪天使さんは、ヴァチカンより最強の称号である【聖霊騎士パラディン】を賜った騎士様でもあるのです。

 遠目でも分かるくらいに羨ましさを押し出す彼女は、ハルさんを弄る方向で憂さ晴らししてる感じですが……大方あちらもサプライズの方向だったのでしょう(汗)


「さぁ……せっかくの再会のところ申し訳ありませんが、こちらの方々は昼食も取っておりませんので——よろしければ食事処へご案内頂けますか?お嬢様方。」


 三台のスポーツマシンの後方……黒塗りの外車——ドイツを代表するBMWから降車するのは、アーエルちゃんが最近お熱なご令嬢——

 英国は【円卓の騎士会ナイツ・オブ・ラウンズ】機関の協力者であるアセリアお嬢様……そしてその従者である、戦う一流メイドのシャルージェさん。


 さらにそれを紹介した孤高の戦闘車両RX‐7から降り立った桜花おうかちゃんのメインSP、綾城 顎あやしろ あぎとさんの姿を視認し……このメンツが四国へ現われた意図へと辿り着きます。


 今この地で僅かであるも——確実に動き始める不穏の胎動。

 だからこそ後手に回らぬための対策として、彼女達がここに出向いたと——先に堂鏡どうきょう爺様から、現状のあらましを聞き及んだ故の結論へと導かれたのです。


「そうおすな……そしたら皆で、いつものおうどん屋へと出向きまひょ~~!」


「「「「おーーっ!」」」」


「「お……オウドン??」」


 その単語に馴染むウチらが声を合わせ——うどんと言う物体の正体すら知らない異国の二人……供にいささか世間知らずの部類な、アーエルちゃんとアセリアはんは仲良く首を傾げ——

 それも含めて一路お約束とも言える例のお店へと……それなりの大所帯で向かう事と、相成ったのでした。

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