1話—4 反転する守りの鏡
「〈だから言ったのだ!あの草薙の様に、儀を急くからこの様な——〉」
そこは現世——私は神族。
なぜここにいるかは理解している。
「〈ダメです……!このまま儀を進めては、
多くの神族がその儀を得て、代々この宗家へ力添えを行って来た。
けれど——私のそれは早すぎたんだ。
「〈ごめん……ね?ボクが——身体……弱く……て——〉」
『〈主のせいなどでは無い!せいでは無いんだ……私が——私の力が、
守護宗家は前例が——
だが……
それも病弱で……立って歩くよりも、ベッドで横たわる方が日常であった少年へ——当主継承の儀を強行した。
そして……彼の身に降臨した私が——私の神霊本体が……——
——彼の魂を……
「そう……だから私はここに居る。私が——彼の従者となるはずだった、この【ツクヨミノミコト】が——」
「この主の身体を、私が彼の地へと——根の国へと運び、蘇らせるんだ。それが例え——例え、偉大なる母【イザナミノミコト】の様な醜き姿となる結末を辿ろうとも——」
私は、私の意思と神霊体を……主の物であったこの身体へ宿す事となった。
しかしこのままこの身を私が使い続ければ、どの道肉体がそれに耐え切れずに崩壊する。
だから私は決意した。
「主よ——
その決意を……たった一つの願いを叶えるために必要な力——宗家が蘇らせた、あの超弩級戦艦——
位相次元へさえも突入可能な、魔導超戦艦 大和を使い——私は封印の地〈カガワの都〉を目指す。
——あの根の国へと通づる龍神封絶鏡を経て……死国へと赴くんだ——
∽∽∽∽∽∽
瀬戸の海を横切る巨大なる吊り橋——瀬戸の大橋が陽光を受け、輝きを振りまく。
その吊り橋を支える支柱の一つ……天頂に佇む影——切り揃えた前髪と後頭部で束ね棚引かせる艶やかな黒の御髪は、深い
海上故の強き風にも動じぬ体躯が、ただ遠方……視線をカガワの都南へ向け——静かにひとりごちる。
「流石ですね……また封印の力が強化されました。お嬢様——我が主の霊力にも劣らぬ神秘の舞いは健在……と言う事ですね。ですが——」
紺碧の瞳は宵闇の神を思わせる静けさと、深き悲しみを宿し——
「所詮貴女はお母上には及びません。歴史上数万年に一人と言われた、魂の歌声を持つお方——〈
「
双眸だけでは無い——その言葉への悲しみを宿す影は、風を纏い……やがて姿を消した。
『私は私の望みを叶えます。ですからお嬢様——そして八尺瓊が誇る後継者、若菜嬢……私の邪魔をさせはしませんから……——』
瀬戸の潮風へ不穏を
∽∽∽∽∽∽
龍神封絶鏡——それがこのため池に名付けられた名です。
古き時代に龍が住まう池として知られるここは、幾度も荒ぶる龍により民草が水害に苦しめられたと言い伝えられており——
それを憂いた高僧によってため池としての姿を成して後……その荒ぶる龍は守護神へ——日本神話や陰陽道にある、陰陽の理の元変化したと聞き及んでいます。
「まずは現状じゃがの……先程、
「この子もよくやってくれてはいるがの……あの焔と同等――と言う訳にはいかぬ。彼女の力は
「……そう、おすか……。」
封印を見守るお社側の屋敷……十畳間へ漆の艶めかしさが輝く年代物の卓を囲むウチら——そこで重々しく口を開いた
あらかたは想定していましたが……流石に厳しい状況である実情で、少し気分も萎え始めます。
この田舎の
「じゃが案ずる事はない。いや――むしろ、我らがその事態で右往左往し……あまつさえ憂いで負へとその意志を落としてしまえば奴らの思う壺。と言う事でじゃ――」
爺様が
「アイシャに
そして飛び出たトンでも事案発生――ウチの思考は一瞬、見事に停止してしまいました。
「――いや……
「そこいらの年寄りと一緒にするでないわ、まだまだ現役じゃ!言うに事欠いてボケとは失敬なっ……!しかし、アイシャも言う様になったの。……まぁ今日の所はここまでじゃ――さっさとみなで遊んで来いっ!」
「爺様無茶ぶりやな~~。ま、ウチも
「
と、完全に乗り気な二人を尻目に仕方なく……ウチもその
深く嘆息しつつお屋敷から外へ向かいました。
けどその直後――
「
「――はい、お爺様。私も心得ております。では――」
私が背負う想像を絶する業を憂いた爺様と、ドンくさいはずの
その時のウチはまだ、気付く事も出来なかったのです。
程なくお社境内でこれから何をして楽しむか、四人で相談する中——実の所ウチらは皆この地でのお役目もそれなりにあり……地域的な状況を何となく知り得ていたのですが——
「……
「何言うてまんの!あるやないか、この……お池の周りをお散歩言う立派な楽しみがっ!」
「——ああ……そうやね。
「し、失礼な!ウチを田舎もん扱いしたな!?
腕をそれ見よがしに振り上げて、プンスカと可愛い怒り顏の
ウチにとしても宗家の御家柄——
「ウチ的にはこう——ウチらの年齢時分に楽しめる場所とかがあればと……——」
と口にしたウチを見た
これはウチが、人ではない何かである事を蔑ろにした己への自責の念と感じました。
「いや……その、ゴメン……。ウチも
「何や、かまいまへんえ?ウチはウチ自身の生い立ちを、ちゃんと受け入れてますよって……。今更
優しい思いへ、方向性は違えど重き定めを背負う友人へ——心からの笑顔を返しておきます。
そんなウチらを同じく素敵な笑顔で見やる少女——サクヤちゃんが、まるで女神の様な空気を生み出します。
いえ——彼女は紛う事なき女神。
日本神話に
「
咲き誇る笑顔は、すでに夏本番の今日へ……まるで春の訪れである満開の桜の如き幸せを呼び——
それにつられたウチらまでも……自然と頰が綻ぶ様な笑顔を咲かせたのでした。
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