—帰還の章—
真実と現実の狭間で
1話—1 封じの地 カガワの都
地球と魔界衝突回避と言う、世界崩壊の危機を乗り越えた時代。
しかし減少所か悪化の一途を辿る野良魔族被害。
それらは全て、人が招いてしまった厄災であり——今この世界を覆う不穏そのものと化していた。
世界防衛に多大な貢献を見せた日本が誇る巨大防衛組織——その伝統は、伝説となる程古き時代より受け継がれる。
【三神守護宗家】——神代の時代より存在したそれらの始まりは、命の深淵と呼ばれた最凶の厄災……【ヤマタノオロチ】が世界を飲み込もうと生まれた時代まで遡る。
光と闇が世界の根幹、この大宇宙に無くてはならない存在とすれば——厄災を齎す命の深淵は、それらを負の極限へと引き摺り込む【虚無】に相当する。
しかしこの世界に於いての【虚無】は、物理法則上に生まれるエネルギーの最も低位の状態を指し——言わば宇宙の自然災害であるとされた。
対し——【
そして——
命の存在を根底から脅かす霊災のエネルギーとなる物——それは人類が引き起こす不条理なる争いと、因果にそぐわぬ膨大な量の命の死。
その不毛なる闘争の歴史から生まれた惨劇こそが、その霊災に恐るべき力を与えるとされていたのだ。
即ち……歴史上最悪とも言われる霊災【ヤマタノオロチ】は、人類の愚かさが生んだ魔の業そのものである。
∽∽∽∽∽∽
ウチに与えられたお役目の一つ——
いる所何ですが——
「はわわっ……ちょっと!?危ないですよ!?——ああっ、そんな速度で煽らないで……!ああ、
揺られ過ぎて怖いです。
かく言うウチのSPさん……運転が極端に下手と言う訳でも無いのですが、なんと言いますか——極度の心配症で……。
「いやいや
それこそ草薙の
「そうは言いますが、自動車の運転と言う物はとても神経をですね~~はぁっ!?危ないですっ、危険ですっ!もうダメですぅぅ~~!」
「……
ガックンガックンとなる車に、ガックンガックンと揺さぶられるウチはそろそろ内臓からあらぬ物が込み上げそうで——田園を青ざめた視線で虚ろう様に眺めていました。
ウチのSPさんは心配症が高じて、宗家内でも最も安全性に長けた装備を充実させた任務車両を運転しています。
が——正直魔を断つ守護宗家が、何故その車を……正確にはその名称のマシンを選んだのかが謎で仕方がありません。
ウチも御家の事情柄、自動車知識は一般の同級生以上に頭に入れていますが——その知識が間違いなければ、今ウチがガックンガックン揺さぶられるスポーツカーはV型6気筒エンジンを任務上改良したユニットを搭載する……その名を〈オロチ〉と呼称します。
爬虫類を思わせるボディ外殻とヘッドライトは大蛇のそれ。
はい……まさにウチらが討滅する相手の名称を持つ、ラグジュアリースポーツカーです。
そのスポーツカーが、ガックンガックンと車体を揺さぶりながら道を行く様は……既に道行く一般のドライバーへ、【命の深淵】の如く不穏をブチまけている事でしょう……。
——違う方向の意味ですが……
そんな中ようやく道が空き——神経質なSPさんが、やっと落ち着いた運転に戻った頃……まだ朝食も取っていない事に気付いたウチは、まあこの運転なら問題無いかとSPさんへ提案です。
「なぁなぁ、
「……はぁ、あのバイパス沿いのうどん屋ですか。ええ、了解しました……あのお店駐車場が……ゴニョゴニョ。」
ウチの提案——この封印の地に訪れた際は必ずお世話になる行きつけのうどん屋さん〈うどん 次郎〉……彼女も昼食がてらと言う点には否定を示しませんが、お店の立地から来る駐車場の状況云々には不満たらたらです。
と言いますか、この地の本当に美味しいうどん店の大抵は秘境に存在し——車の駐車もままならない事もしばしば……その中でもマシな方とは思うのですが……。
流石に2m幅を持つスーパーカークラスのマシンでは、そのスペースを確保するだけでも大変なんです。
深淵を封印せしカガワの都——かつての
霊災である【
この日本で言えば、近畿地方の湖とこの四国のため池は第一候補であり——その中でも霊的に巨大な力を持つ、二つの神域に挟まれたこの地が選ばれたのです。
神域の一つはシマネの都を代表するイズモ——そして古の時代、異国の教徒が逃れ開いたとされるトクシマの都に存在する神域ツルギ山です。
「ほな、先入っとりますえ?
「はう……お願いします、お嬢様~~……。」
目的であるうどん屋さんの駐車場に入った深淵紛いのスーパーカー……宗家において、お約束とも言える斜めに跳ね上がるドアを潜り抜けたウチ。
宗家が要するこの地の別荘からこちら、1時間程のドライブで疲れ果てた
と言いますか……普通なら2~30分で着ける距離に1時間かけたこの人の運転も大概です……(汗)
視界の隅……入り口扉の外で後退駐車でさえガックンガックンするSPさんに嘆息しつつ、彼女の大好物であるおでんの卵とコンニャクを物色し——
「ああ、いらっしゃい。今日もお勤めですか?お嬢様。」
「おはようさんおす~~。今日も美味しいおうどん……食べに来ましたえ。」
「ふふっ、毎度ありがとな。今日もいつもの奴でかまへん?」
「はい~~。お願いします~~。」
おでん物色中のウチに声をかけるは、この店を夫婦で切り盛りする片割れの奥さん——とても愛想の良い笑顔で、そのにこやかさが間違いなくうどんを美味しく引き立てる隠し味になっていると言える女性。
その奥には黙々と、熱々に沸き立つ湯で釜に当たるそこで——出来立てうどんと格闘するイケメン店主さん。
このお店をご
「はぁ~……何でこんなに止め辛いのでしょう。あまりの狭さに、危うく後ろの田んぼに転落する所で——」
「もう!
「あ、ええって!立地に問題があるんは承知の上や。出口のポールとかも……ぶつけてしまうお客様さんもおるし、お嬢様もそこは気にせんでええよ。それより転落せん様……SPさんも気を付けてな?」
ブツブツ駐車場の立地に苦情を漏らしたドンくさいSPはん——店主さんに聞こえるレベルで放ったそれを、慌ててフォローします。
しかしそこはイケメン店主さん——とても暖かい心遣いで流してくれる姿は、やはりこのお店の繁盛する決め手だと感じました。
そしてすでに席に着き――セルフで頂くその美味しいうどんに舌鼓を打つウチは、ここで得られる何時もの至福のひと時を味わいます。
「あぁ~~やっぱりここのうどんが、ウチの舌に合うとるわ~~☆硬すぎず、それでいて太すぎへん丁度良さ~~。ウチ太すぎるん苦手なんやわ~~☆」
「あ……わ、私もその……細いうどんが好みでして——やはりここのうどんが——」
「
「お、お嬢様~~!?」
先の失言を必死で挽回しようとする
そのやり取りを、クスクス見守る店主はんとその奥さん——それがこの封印の都へ訪れた際のささやかな日課となっていました。
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