プロローグ

0話 魔業を背負う者

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 それは地球へ訪れた危機。


 それは後世にまで影響するごうの始まり。


 その時世界は、二人の英雄へ——世界が背負うごうを押し付けました。


 背負った定めもそのままに、英雄は地球を追われ——遥か太陽系を離れ、いにしえの超技術が生んだ巨大な船と共に永遠の放浪を余儀無くされます。


 いえ——彼らは、自らそれを望みました。


 そして私は残されたのです。


 この身に宿した父と母の苦しみの元凶——数字を冠する獣ナンバー・オブ・ザ・ビーストごうと、脳裏に僅かに残る暖かくも悲しき両親の微笑みを刻んで——



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 夏の日差しがまばゆい煌めきを窓へと運び、滲む雫でその目を覚ます。

 すでに本番の夏の日差しが、田園を焦がさんとする朝のひと時——ぽわっと鏡を見ると、映る自分の姿に苦笑を漏らします。


「ああ~~見事に髪、跳ねてもうたな~~。……ふあぁぁ……まだ眠いわ~~。」


 すると申し合わせたかの様な声が、あつらえられた別荘の一室に響き——


若菜わかな様?お、お目覚めですか!?ああ……すでにこんな時間であります!すぐ準備して下さいぃぃ……!」


「ええぇ~~……今は学園も夏休み――それにこんな所まで出張ってますのに。もう少しゆっくりでも……——」


「い、いけません……若菜わかなお嬢様!宗家の八汰薙やたなぎのお役目……れい様の代理としてのお勤めがぁぁ~~——」


 ウチののんびりした態度に慌てふためくのは、ウチのお付き——八尺瓊やさかに家第二分家所属のSPさん。

 ……そうですね、SPとはとても言えない慌てぶりです。

 確かにウチは、八尺瓊やさかに家の裏当主であるれい叔母様代理であり——そのお勤めとしてここ西日本は四国……カガワへ訪れています。


 そこは龍をまつると言われる日本一のため池で知られる場所であり——八十八の霊場が巨大な力を封じるとも言われる四都……その一つの都にあたる街です。


 けれどその大地は今——度重なる抗争と霊災により、疲弊の只中でもあります。

 その元凶——全ての始まりである巨大霊災を封じるため……龍の宿るため池を封印の地としたのです。

 命の深淵【ヤマタノオロチ】——巨大なるため池を【八咫やたの鏡】に見立てた秘奥儀である封印術式で、深淵本体を……ため池を門として繋いだ深淵の大地根の国へと封じ――

 三種の神器を受け継ぐ草薙くさなぎ八咫やた八尺瓊やさかにの三宗家によって、あの忌むべき大災害――人造魔生命災害バイオ・デビル・ハザード以降から、封じられし深淵に対する定期的な監視を続けているのです。


「分かりましたえ~~……。はぁ……桜花おうかちゃんが関東で頑張ってくれはるのに、ウチだけのんびりは流石にあかんおすからな~~。」


 ウチがこの身を預ける【三神守護宗家】は八汰薙やたなぎ家——その同じ宗家御家元である草薙の裏門を纏める小さな当主様の桜花おうかちゃん。

 彼女が現在当主としての権力をようやく発揮し、東都心トウキョウの宗家本丸にて――近年力を増す命の深淵オロチに深く関わるとされる、野良魔族被害対策のため……力を注いでくれています。


 片側を上げた前髪を片側後頭部で結い、薄い青の輝きの奥に光る双眸は黒曜石の黒。

 ウチにとって、同じ宗家と言う以上に大切な友達で家族——いえ、宗家の皆さんは誰もがウチの事を本当の家族の様に接してくれます。


 でも——真実は揺るぎません。

 ウチは——それどころか、


 ウチのお母様はその体内に、あるを宿していました。

 それは人類が、己が欲望のままに手にしようとした災い——禁断の滅亡を呼ぶ破壊の獣。

 獣の力を得ようとした、欲望にまみれた科学者によってそれを人工的に——埋め込まれました。


 その力——世界を破滅に導く数字の刻印を持つ獣ナンバー・オブ・ザ・ビースト

 ウチはその一端をこの身に宿しているのです。


沙坐愛さざめはん、ちょっと待っとってな~~。すぐ準備しますよって~~。」


「おお、お急ぎ下さい!お嬢様ぁぁ~~!」


 ウチにとっては日々の欠かせぬお勤め——それを毎日こなす事で、ウチを慕ったくれる人達へ恩返しをと思っています。

 身に宿る忌むべき存在も、お母様はきっと飼い慣らしながら日々を乗り越えたはず……身の不幸を呪う前に、自分に出来る事を行い前へ歩むと——そしてそれをお父様が共にある事で歩んでいたはずなのです。

 いつ果てるとも知れない無尽蔵とも言える新陳代謝により、となってしまった悲劇の英雄——ルーベンスお父様と……ユニヒお母様は……。


 今のウチには確かに本当の肉親は存在しませんが、宗家の人達——何より大切なお友達がいます。

 同じ宗家に属し……正式な当主継承を経て御家を導く草薙 桜花くさなぎ おうかちゃんに、魔を払う世界最強の聖霊騎士パラディンの称号を得た断罪天使のアーエルちゃん。

 ——そして、いまは宇宙に浮かぶ天楼の魔界セフィロトで……ウチらと同じく多くの人のお役に立つため帰郷した魔族の王女、姫夜摩ひめやまテセラはんに——そこへ寄り添う高潔なる吸血鬼さんのレゾンちゃん。


 今は少し色々忙しくなってるけど、大切なお友達に囲まれたウチはきっと幸せ者なんだと思います。

 だからせめて——この幸せが少しでも長く続くように、ウチは日々を懸命に生きています。


 薄々と感じるザラついた感覚——自分でも分かるその日が……が訪れる、その日まで——

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