ギャルの帰還?

 扉がひとりでに開いたかと思えば、遙香たちは妖精王の空間に立っていた。


 シロツメクサの王冠を被った少女が、木製の玉座から声をかけてくる。

『神様がさ、帰っていいってさ』


「兄さん、善哉は?」


 遙香に敗北した彼は、おそらく帰れないのではないだろうか。


『帰還してもらったよ。記憶も経験値も全部置いていってもらって』


 PVPで負けたプレイヤーは、ここで得たもの全てを奪われて、地上へ返されるらしい。

 それはそれで、悲しい気持ちになる。


『でも、あんたらと戦った記憶もないよ。今後は清々しい気持ちで、毎日を送れるだろうね。あんたたちが頑張ったおかげだよ』


 ダイフグが、遙香の肩に乗ってきた。


「ホンマすんまへん。うちの神様が迷惑をかけて」


『まさか、あんたらがメイプリアスを救うとはね』


 ともあれ、旅は終わったらしい。


「最後に、確認だけ。本当に、私たちがこの世界に召喚されたのは、気まぐれなの?」

「どういうこと、ハッカ?」

「もしかすると、善哉が関係したんじゃないかって」


 善哉のレベルはマックスの七〇だった。

 それは、とてもひと月程度ではたどり着けない領域だ。


 まさかとは思うが、善哉は遙香たちがここへ来る以前から、メイプリアスの住人だったのでは?


 そんな推理が、遙香の頭によぎったのだ。

 だから、魔人の正体に気づけた。


 定時連絡も、声を発信する程度なら、異世界からでもできるようだったから。

 善哉は実際、メイプリアスから携帯で遙香と話している。


「ひょっとするとね、善哉を救って欲しかったのかなって」


『どうして、そう考えたの?』


「だって、私たちがいなくても、善哉は殺せたわ」


 ずっと、引っかかっていた。

 自分たちが喚ばれた理由がなにか。


 エクレールやマイが冒険しても、メイプリアスに平和は訪れた。

 二人なら、善哉も倒せたはずだ。

 正直な話、遙香たちはラストバトルに貢献したとは言えない。


 でも、エクレールたちや、メイプリアスの民や冒険者では、善哉を救えなかっただろう。



――ウチら、最強じゃなくてもよくない?



 チョ子の言葉がヒントになった。


 アモンドは、善哉の気を晴らそうと考えたのではないだろうか?

 最強じゃない相手の手で打ち負かすことによって。


 遙香たちは、アモンドの策略に協力させられたのでは。

 そう思えた。

 もし正解なら、アモンドという神様も粋なヤツに思えた。


『ハッカちゃん、うちのダンナを買いかぶりすぎ』

「別に。気のせいだったらいいのよ」


 善哉さえ救えたら。


『また旅がしたくなったらおいでよ』


 遙香は、チョ子と手を繋ぐ。

 チョ子も、遙香の気持ちを理解したように、強く握り返してきた。


「せーの」と、遙香とチョ子は同時に口を開く。




「ふざけんなーっ!」



 大声で、妖精王に向かって怒鳴った。

 顔をしかめながら、妖精王は耳を塞ぐ。


「何を言っているの? 誰が帰ってやるもんですか」

「そそ。ウチら、ここが気に入っちゃった。この世界で暮らすことにするよ」


 最初はただ戻りたかった。


 しかし、もうここの住人と縁ができてしまっている。

 今更、引き下がれない。

 まだ、世界の一片しか楽しめていないのだ。


「ウチらは、神様に反抗するってキメた。言われたとおりにはならないもんね」

「私たちは、どんどんこの街を汚染しまくってあげるわ。覚悟することね」


 溜息をついて、妖精王は微笑む。

『そう伝えておくよ。あたしもあの神様ヤロウにはウンザリだから』

「自分のダンナでしょ? ひっど」

『バカ亭主には、ちょうどお灸を据えてやろうと思っててさ』


 三人で笑い合った。

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