ギャルVS魔人 決着!

「待て! どこへ行く!?」

 善哉が天を仰ぐ。


 だが、レベルだけで繋がっていた関係など脆い。

 持ち主に見放された善哉の元に、装備品たちは帰ってこなかった。


 ビジネススーツ姿の善哉だけが、残される。

「そんな。いつの間に、自分の力を犠牲にした!?」


「つい先ほどだ」

 エクレールが、羽織っていた甚平を脱ぎ捨て、肩に担ぐ。

 懐から、ギルドカードを取り出し、善哉に見えるようにかざす。


 彼女の頭上に、現在のレベルが表示される。


「レベルが……六〇にまで下降だと!?」


 エナジードレインに必要なレベルは一〇。

 エクレールほどの使い手なら、レベル上げは相当の労力を要したに違いない。


 なのに、彼女は自身のレベルを、惜しげもなくデバフ魔法に注ぎ込んだ。


「まさか、僕に悟られず、自分のレベルを下げたのか?」


「いかにも。貴公が戦っていたのは、ハッカ殿とチョ子殿の作った装備品の力で鍛えられたワタシだ」


 遙香は、下がったレベル分のエナジーを、装備品で補ったのである。


 確かに、力こそマイやエクレールたちに及ばない。


 とはいえ、遙香はチョ子たちとひたすらネイルやデコに力を注いできた。

 エンチャントという高等技術を駆使しながら。

 結果、魔力使用スキルだけが他の追随を許さないほどに上昇していったのだ。


「どうりで、エクレール一人に戦闘を任せないとワケだ。パワーアップしたエクレールを、直接送り込む、と僕に思わせたのか」


「あんたを出し抜くには、エナジードレインしかなかった。いや、エナジードレインこそが最適だったのよ」


 自己を犠牲にして放つ魔法だけあり、エナジードレインは、どんな相手も対策のしようがない。


 現に、ドーラの足かせには、エナジードレインが施されていた。


 なので、善哉には絶対に、エナジードレインの発動を知られるわけにはいかない。

 そう考えて、あくまでも強化したエクレールをぶつけたと思わせる必要性を感じた。

 自分たちはサポートに過ぎないと。大したことないのだと相手に印象づけて。


 エクレールの高度な技術。

 マイの膨大な魔力。

 遙香とチョ子のけん制。


 いずれかが欠けていれば、作戦は成り立たなかっただろう。 


「覚悟してね」

「それはこっちの――」


 もう、話す隙さえ与えない。


「これは、チョ子の怒りよ!」

 盾で相手を殴打し、善哉の喉を潰す。


「ついでにこれは、アンタの指示で鎖に繋がれたドーラと、悲しい思いをしたマイの分!」

 善哉の両腕をチョ子が打ち抜き、両足を遙香が切り裂いた。


「最後は、友達を傷つけられた、私の怒りよ!」

「くたばれーっ!」

 遙香がテンプル、チョ子がジョーを狙い、同時に拳を打ち込んだ。


 空中で、善哉が独楽のように回転する。


「兄の中から出て行け、ベリーアル!」

 ダメ押しで、遙香は善哉のみぞおちに、チョ子が脊髄にキックを食らわせた。


 今度は宙返りを繰り返しながら、善哉が地面へ落下する。


 遙香とチョ子が、ハイタッチをした。


「僕は、認めんぞ。こんな敗北など」

 仰向けに倒れ込みながら、善哉が顔をしかめる。


「計画はカンペキだったはず。綿密な計画を立て、完全な装備を調え、万全な体制で人間を打ち負かす。そうやって、神アモンドの心を砕く手筈だったのに。お前らさえいなければ、魔王ベリーアルに勝利をもたらすことだって……それが、どうして素人ゲーマーに負けたんだ。なぜ!?」


「味方を信じられなかったからよ」

 遙香は吐き捨てた。


 味方についたモンスターたちだって、指示通り人間を追い詰めたのに、すべて自分の手柄にしようと。


 善哉は、最期まで彼らを信用しなかった。


「ベリーアル、あんたが負けたのは、自身のみっともないプレイングのせいよ」


 善哉の表情が、壮絶なまでに悔しい顔になる。

 やがて、彼のタトゥーがひび割れた。黒き灰へと変化する。

 

 善哉を覆っていたタトゥーが、風に連れ去られていく。


「僕は一体」

 タトゥーを失った善哉が、遙香の存在に気づく。


「気がついたのね?」


「遙香、お前もここに来ていたのか」

「ええ。ちょっとした手違いでね」


 それだけで、善哉は全てを察したらしい。


 続いて、チョ子の方へ身体を向けた。

「チョ子、ごめん」

 善哉は、チョ子に頭を下げる。

「僕がどうかしていた。お前を迷わせるようなことを言ってしまって」


 聞けば、チョ子に交際を迫る以前から、善哉はベリーアルの甘言に載せられていた。仕事がうまくいかず、荒れていたらしい。


 いつの間にか仕事も辞めていた。

 導かれるように、メイプリアスの地に降り立っいていたという。


「迷惑だったろ?」


「いいっていいって。あんなの、ゼンザイの本心じゃないって分かってたし」


 実際にその通りだった。

 だが、そのおかげで、チョ子は自分と向き合えたのである。

 だから、ケガの功名と言うべきか?


「ありがとう。チョ子、お前なら、自分で道を切り開ける」

「うん。ゼンザイも」


 突然、善哉の身体が青白く光り始めた。

「時間だ」

 事情を知っているかのように、善哉が言う。


「僕は負けたから、ア・マァイモンから退場させられる。ここでの出来事も、忘れ去る。だけど、お前たちと会えてよかった。もう一度やり直すよ。今度は、自分の力でやっていく」


「応援しているわ」

 善哉は、遙香の声援に笑顔で応えて、光の粒となった。 


「ゼンザイ、死んじゃったの?」

「元の世界へ帰っただけよ」

「だといいけど」


 チョ子は、尚も善哉の身を案じている。

 悲痛な表情は、勝利を掴んだ安堵とはほど遠い。


「あいつは、ベリーアルに変なことを吹き込まれて、操られていただけよ。きっと立ち直るわ」


「ホントかな? 向こうで立ち直れるかな?」


 いくら敵だったとはいえ、チョ子にとっては友人に近い存在だ。

 そんな彼が、敵として立ちはだかった。ショックも大きかったに違いない。


「大丈夫よ。だって、私の兄さんですもの」

「だよね、きっとそうだよね?」

 ようやくチョ子の顔にも、安心が浮かぶ。


 そのときだ。


 遙香たちを眩しい光が包む。

 チョ子の姿かは確認できたが、メイやエクレールの姿が見当たらない。


『お二人さん、クリアおめでとう』


 声と共に、遙香たちの前に、扉が現れた。

 わずかな隙間から、目映い光が漏れる。

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