ギャルの推理
冒険者ギルドを通して、遙香は、冒険者全員に自分の考えを伝える。
「冒険者たちは全員、北へ向かってちょうだい」
すでに、王都へはマイとドーラを向かわせていた。
遙香の考えを王に教えるためだ。
といっても、「ドーラの意見」と説明してもらうつもりでいるが。
冒険者たちは、フィンを含めて全員が半信半疑の顔をしている。
まず、遙香はこの地帯の地図を、木の板に広げた。冒険者たちにも分かるように、立てかける。
「これは、依頼の書かれた紙よ。よく見ていてちょうだい」
紙を一枚一枚、遙香は地図に貼り付けていく。
ところが、紙の束は全て、北方向に集中していた。
南には、数枚程度しか張られていない。
おお、と冒険者たちがどよめいた。
「ね、不自然でしょ?」
ようやく、冒険者も不審に気がついたようである。
つまり、これらの依頼は、人に化けた魔物側が意図的に情報を流した疑いが強い。
おそらく、行商人などに変装したのだろう。
チョ子がラーメンの屋台を引きたいなんて言い出さなければ、絶対に分からなかった情報だ。
「敵の狙いは、王都へ攻め込むこと」
王都には、通貨管理局がある。
そこを破壊すれば、世界中の流通が大混乱になるのは必至だ。
「もう一つは、最強の英雄の足止めだったの」
「誰? その英雄って?」
「エクレールよ」
冒険者レベル六〇越えの英雄を相手にするには、最強の敵をぶつけてくるだろう、と。
「ずっと妙だったの。どうして南方を攻める必要があったのか。確かに、南の遺跡にはモンスターが多数いたわ。だけど、私たちがゴブリンに襲われたのは、西の方角だったの。つまり、しかも、王都ではなくサトウカエデの独占が目的だった。王都そのものではなく、王都の所有物を狙ったってわけよ」
「なぜだ? 直接王都を目指した方が効率がいいじゃないか」
フィンの疑問に対し、遙香は自身の想像を語る。
「メープルシュガーの単価を大幅につり上げて、他国と戦争させるつもりだったのでしょう。私たちでは、他国まで入り込めない特性を利用して。これは、私たちでは覆せない」
遙香たちは、メイプリアスから外には行けない。
向こう側の異邦人に任せるしか。
遙香たちは、知らないうちに自分たちの居場所を守っていたのである。
おそらく妖精王は、こうなる事態を見越して、あんな場所に遙香たち二人を飛ばしたのかもしれない。
魔王襲撃の報を聞かされてから、遙香はずっと考えていた。
自分が魔王だったら、どういう作戦を取るかと。
「わたしの場合、強い敵を倒すために、単体でも戦える味方はぶつけないわ」
レベルの拮抗した者同士が争えば、駒を動かせなくなる。
どちら側も、一騎当千の切り札があるのに。
ならば、片方を動けなくすればいい。
「おそらく敵も、同じ事を考えるわ」
「どうやって、エクレールを止めるのさ?」
「数で押し切るの。相手の注意を南に向けさせて、大軍を集めさせる。だけど、実際は北にモンスターの群れがいるはず。いくらエクレールが英雄といえども、物量戦には敵わない」
エクレールが、小さく手を上げた。「では、王都を襲う本命は?」
「南から来るわ。必ず、ボスの魔人単体で」
「魔王ではないのか?」
「魔人ね。魔王が攻めてくるなんて噂はブラフよ」
遙香たちが貿易ルートを開通してしまい、迂回路はガラ空きになっている。
そこからわざわざ大回りして、北方面へ移動しているはず。
だから魔物たちは、ドーラを監禁した。
エクレールの苦手とする、罠や仕掛けを施して。
その間に、敵は進軍する予定だったのだろう。北から魔物の大群を引き連れて。一方、南からは魔人が直接王都を襲う。
「そんな面倒くさい作戦を」
困惑顔のエクレールに、遙香も同意した。
「せっこい! せこいね、魔人って」
「ええ、しみったれた作戦だわ。でもね、相手はこちらを無力化すればいい、という思考しかない。あいつらはルーティンで動いているから」
魔物は、自らに課せられた役割の担当に、与えられた使命の遂行に命をかけている。
「奴らの本当の目的は、敵に何もさせないで勝つこと。徹底的に相手の動きを封じること自体が、彼らにとっては、自分たちの立てた戦略の成功こそ、美徳なの」
「信じられん」と、一人の冒険者が呟く。
「まったくもって度しがたいわ。でも、そういう魔人もいるのよ」
敵のアジトから知り得た情報だ。信用してもらうしかない。
遙香だって半信半疑なのである。
「どうして、そう言い切れるんだ?」と、フィンが腕を組んだ。
「私たちは、奴らの思考を邪魔するために、日本という世界から呼ばれたからよ」
遙香は、解き明かした事実を冒険者たちに聞かせる。
魔人の配下は、指示された命令をこなしているだけだと。
神様は間違っている。ここで暮らす者たちだって人間だ。
彼らを無視して、ただ面白そうだからと、遙香たちを連れてきて。
「私たちは、メイプリアスでのんびり過ごさせてもらうわ。その為の手伝いなら、なんだってやってやるわ。見てなさい、神様!」
世界を救うのは、あくまでもエクレールたちじゃないといけない。
この地に住む人々が世界を守り、はじめて神に反抗できる。
「ハッカ、ちょっといいかな?」と、チョ子が手を上げた。
「分からないことがある?」
「神様の目的は分かったよ。じゃあさ、なんでウチらだったん? どうしてウチらが召還されたのかな?」
「指示通り動くことを第一に考えている魔王側にとって、私たちギャルが最も不愉快な存在だからよ」
ギャルの行動は予想ができない。
ましてゲームでは、顕著に表れる。
ルールを覚えようともしない。世界の法則も平気で破る。
遙香たちだって例外ではなく、今までそうやってきた。
「妖精王も、地球でギャルだった。多分だけど、彼女の行動が一番、人間側の神様にとって予想外だったんじゃないかしら。自分の利益だけ追求して、何もしなかったんだから」
神様は、それすら楽しんでいる。
しかし、これではゲームが成り立たない。だから、妖精王の代わりになる駒を連れてきた。
それが遙香たちなのだろう。
ダイフグは単なる転送装置である。彼が悪いわけではない。ダイフグも、いわゆるタスクをこなしただけなのだ。罪の意識はあるが、タスクには反抗できなかった。
「冒険者は北に集結させて。数には数で対抗するのが一番よ」
遙香が提案し、フィンに冒険者へと代弁してもらう。
「以上が作戦の概要だ。分かったな?」
おおお、という雄叫びが、ギルドに鳴り響いた。
冒険者たちもやる気になっている。
「しかし、南は王都に任せるのか? 王の軍勢だけで倒せるとは」
「いいえ、王国側にも北へ行ってもらうわ。魔物の軍勢を相手してもらう」
この世界を確実に守るには、それがベストだ。
力の強い英雄といえど、魔物を退けることはできても、都市の復興までには手を貸してくれない。
ならば、被害は最小限に留めるべきだ。
物語の主役は、ポッと出の英雄ではない。ずっと暮らしている市民なのだから。
「それじゃあ、王都は誰が守るんだ?」
「私たちだけで行くわ。相手の作戦を潰す。その上で、強い相手を魔人にぶつけるのよ」
「無茶だ。いくら英雄エクレールが同行していても」
フィンが遙香の肩を掴んだ。
「それくらいしないと、確実に倒せない」
エクレールが二人の間に割って入り、フィンの手をそっと離す。
「そうは言うが」
「これは、私たちの戦いでもあるの。私たち、チームチョコミントで決着を付けたいの」
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