ギャルの壁
住人たちが、馬車に荷物を積んで、街を出ようとしていた。
だが、門の前にいる遙香たちに気づく。
「なんの用だ? 用事がないなら、道を空けてくれ。馬車が通れない」
お互いの手を繋ぎ、遙香たちは街を去る人々の行く手を阻む。
「いい?」と、遙香が合図を送る。
「せーの」と、息を吸う。
「ふざけんなーっ!」
遙香らの絶叫が、街に響いた。
「魔王が怖いのは分かるわ。そうやって奴らは、あなたたちの心をずたずたにするのが目的なの。私たちのライフラインを絶って、生きる気力をなくすことが目的なの! もう二度と立ち直らせないために。それが奴らの手口よ!」
「せっかくみんなと仲良くアゲてきたのにさ、こんな形でお別れなんて辛いよ。悪いのは魔物じゃん。あいつらに退場してもらうのが筋ってもんじゃんか」
遙香やチョ子に続いて、マイも杖を握りしめて前に。
「わたしは、この街が、ドーラ婆が大切です。自分たちで見捨てるような選択をさせる魔王が許せない!」
住民は、三人の言葉に耳を傾けてくれている。
だが、不安なのも確かだ。
だから、フィンが代表して、最後の一人に意見を聞いてきた。
「雷帝、あんたはどうなんだ?」
「ワタシは、この街に未練などない。滅びた街だってある。捨てられた街というのは、いつ見ても悲しい。英雄クラスの冒険者は、敵を殺せても、街の活性化までは手が回らない。手段も持ち合わせていない物が大半だ」
エクレールにはエクレールなりのもどかしさを抱えていたようだ。彼女は遙香やチョ子に物資を持ってきてくれる。けれど、いつだって作る側ではなかった。
「だから、手伝わせて欲しい」
エクレールの説得が効いたのか、多くの夢生民が足を止めてくれている。
「いい? 逃げたという事実は一生残るの。精神的な意味で魔王に負けたという事実が、いつか必ず何らかの形であなたたちを苛む。誰に何を言われても、私は立ち向かうわ」
「というわけで、ウチら、魔王ぶっ飛ばしてくるから」
高らかに、チョ子が宣言した。
「無茶だ! モンスターがどれだけ攻めてくると思っているんだ?」
ひとりの住民から心配の声が上がる。
「ワタシもついてる。問題ない。それに、南から攻め込んでくる魔王は陽動だと分かっている。本命は北の方面からだ。北にだけ集中していればいい」
「俺たちの指示系統を混乱させることが目的だと言いたいのか?」
フィンが聞いてきた。
「私が魔王ならそう考えるわ。自分の手柄にしたいもの」
足止め役に『英雄を倒したヤツに、武勲を与えるぞ』とでも吹き込んでおく。そうすれば、相手は喜んで英雄側の相手を務めるだろう、との考えだ。
「そんな心理作戦、当てになるのか?」
「私の知っている魔王なら」
「魔王の正体に目星がついているような言い方だな」
遙香は頷く。
妖精王の証言からして、敵はおそらく、遙香の知り合いだ。
「だから、私は奴の生命線を断つわ。それで弱体化できる。正面から攻め込むだけが先頭じゃないわ」
「分かった。お前らに一任する。オレたちは何をすれば?」
「いつもどおり生活して。それが、奴にとって大ダメージになるから」
遙香の指示を聞いても、フィンは納得できない様子だ。
「そんなんでいいのか?」
「それがベストよ」
だが、住民から不満の声が上がった。
「その生活が難しいんじゃないか!」「うちは家を燃やされて!」「子どもが大けがをして!」
街じゅうが、パニック状態になる。
「落ち着いて、話を聞いて!」
さすがに、遙香たちに彼らをおさえるのは、限界があった。
そこに、ウィートの街へ向かってくる一団が現れる。
敵か、と思ったが、商人の集団だった。
先頭にいるのは、ウィートの街で会った行商人ではないか。
「ハッカさんと、チョ子さんでしたな? 帰って参りましたよ! それと、見てください!」
商人の後ろには大量の荷物が。
「あなた方が追い払った貴族様が、ウィートが一大事と知って、大急ぎでこの物資を提供してくださったのです!」
あの太った貴婦人が?
「その代わり、王都に来た際には、真っ先にネイルをしていただきたいと」
「心得たわ」
ウィートの住民たちに、安堵の色が浮かぶ。
これで、当面の危機は救われた。
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