ギャルの店「デコ屋」
翌朝、店の前に何かが設置されていた。
「チョ子、この看板は、なに?」
店の前に置かれたのは、小さな立て看板である。
黒板には、こう書かれていた。
「魔法のデコ屋 チョコミント
―― 私の魔法に掛かりたい人は、店に来なさい! ――」
大きく口を開けたまま、遙香は呆然となる。
「どうハッカ、イケてるっしょ?」
「……バカみたいなんだけど?」
自信満々のチョ子を見て、遙香は溜息をつく。
「デコ屋ってなによ?」
「ありとあらゆる装備品をデコるんだよ。剣も、鎧も、杖も。爪だってさ、いわばデコじゃん。ならいっそ、道具全般をデコれるお店として売り出すってどうよ? デコなら、ウチもできるし」
「つまり、何もかも装飾するってこと?」
いまいち、イメージが掴めない。
「装飾自体に、意味を持たせる必要があるわね」
遙香が考えていると、マイから声が掛かる。
「あの、小さい子どもさんが、店に入ってきたんですけど」
五歳くらいだろうか。
小柄の少女が、涙目で遙香の元へ歩いてくる。
最初の客がやってきた。
とても、ネイルアートを頼みに来たとは思えないが。
「あのね、クマさんのおめめがとれちゃったの。なおせますか?」
「分かったわ。見せてちょうだい」
少女の目線まで、遙香はしゃがみ込んだ。
相当古い。
何代も続いて可愛がられたのだろう。
なるほど、目が片方なくなっていた。
もう一つの方は、かけてしまっている。
「目の部分は、持ってる?」
「おとしたら、われちゃったの」
目を見せてもらう。
ビーズ製で、真っ二つに割れていた。
古く、劣化している。
くっついたとしても、変に跡が残ってしまう。
「これは難しいわね。この色の目がないのよ」
遙香が詫びると、少女は今にも泣きそうな顔になった。
なんとかなだめて、方法を考える。
「なおして、まほうつかいのおねえさん」
そうか、「魔法の」と書いているから、魔法使いと間違えられているのだ。
それで、彼女はこの店に。
「分かったわ。お姉さんに任せて」
少女の頭を撫でる。
「ハッカ、これを取り付けようよ。珊瑚を削ったビーズだって。エクレールがくれたんだ」
チョ子が遙香の手に、小さなボタンを載せた。
丸くて小さい。これなら目の代用として使えそうだ。
しかし、少女の機嫌を損ねるかもしれない。
もう片方の目に取りかかる。
だが、どれもイマイチ色が合わない。
ふと、小さな琥珀が視界に入る。
「ハッカ、これを使う気なん?」
エクレールが持ち帰り、ネイルアート用に保存しておいた琥珀だ。
合わせてみると、見事なコントラストを描く。
この琥珀は、ぬいぐるみの目になるために生まれたのだ。
間違いない。
「これでいい?」と、確認を取る。
「きれい。これをつけてほしいです」
「今からくっつけるから、座って待っててね」
少女の承諾を得たので、裁縫箱を用意した。
その間、少女にはカウンター席に腰掛けてもらう。
気を利かせて、マイが炭酸水を提供してくれた。ビスケットの載った皿も並べる。
遙香は何のためらいもなく、魔法で琥珀に針が通るほどの小さい穴を開けた。
少女が飽きないように、チョ子が話し相手を務める。
加工した琥珀をクマの人形に縫い付けていく。
「優しいね、ハッカって。そういう所が好き」
「う、うるさいっ」
チョ子に茶化されるのをかわしつつ、縫い付けが終わった。
「もう二度と離れないように――エンチャント!」
最後にエンチャント、つまり、魔力を付与する。
これで目も痛まず、壊れもしないだろう。
仕上げに魔法で細かい汚れも浄化した。
「まるでチョコミントね」
できあがった瞳を、チョコとミントに形容する。
「わあ、なおった」
喜びながら、少女はポケットに手を突っ込んで、市民用カードを差し出す。
遙香は代金を生産するレジにカードを通した。
稼ぎは一キャンド。
それでも、自分たち独自の手法で手にした賃金だ。
「ありがとう!」と、晴れやかに礼を言い、デコ屋初めての客はトコトコと帰って行く。
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