ギャル、「最強不要論」を説く

 改めて、エクレールが持ってきた材料を吟味する。


「どうしても、道具屋のラインナップになるわね」

「当分はそれでいいんじゃないかな、チャームとか、髪留めとかに魔除け効果を付ける感じ」

「それはドーラの店や他でもやっているわ。何か、この店独自の色が欲しいのよ」


 正直な話、遙香は雑貨屋路線に限界を感じていた。

 他店と張り合っても仕方ない。

 もっと別の方法で店を回す必要があると、ずっと考えていた。


「個人的には、化粧品屋さんをやりたいなぁ。ちょうどさ、化粧水がなくなっちゃって」

「薬草で作った代用品でよくない?」


 メープルと薬草を混ぜた全身用ローションは、美肌効果にいいと評判である。が、保存が利かない。


「乳液もないもん!」

「しょうがないでしょう。作り方を知らないんだから」


 地球と違って自由に化粧ができないため、チョ子は最近機嫌が悪い。


「かといって、ファッションと最高度の実益を備えた最強装備なんて」


 やはり、腕利きの職人を雇うべきか。



「それだよ。ウチら、最強じゃなくてもよくない?」



「どういう意味よ?」

「この店に置く装備品ってさ、別に弱くてもよくない? ってこと」


 とんでもないことを、チョ子が言い出した。


「あんた、マジで言ってんの?」

「だってさ、ウチらだってファッションのためなら、多少の暑い寒いだって耐えるじゃん。強いか弱いかで考えたって意味ないって」

「ここはファンタジー世界なのよ! 一瞬の油断が命取りになる! 実用性の高い装備品を揃えておくべきではなくて?」


 カウンターを両手で叩き、遙香が反論する。

 が、チョ子は動じない。


「効率の良さだけ求めたら、みんな同じ格好でいいわけじゃん。個性が死ぬって」

「そうは言っても、私たちの製品が原因で命を落とされたら、たまったものじゃないわ。作るからには、最高に優れた物じゃないと」

「一番じゃなかったら終わりなの?」


 痛いところを、チョ子が突いてきた。


 遙香だって、ゲームで見た目重視の装備品を集めた時期がある。

 しかし、難しいダンジョンやイベントになると、実用性の高い装備に持ち替えた。

 その歯がゆさを知っているため、チョ子に強く言えない。


 メイプリアスは、リアルな幻想世界だ。

 一瞬の油断が死を招く。

 これまで生き残ってこられたのは、単にエクレールやマイといった実力者が手伝ってくれていたからに他ならない。

 自分たちの実力ではないのだ。

 

 二人の意見は、平行線を辿る。


「いや、チョ子殿の意見はもっともだ」

 エクレールまで、チョ子に賛同した。


「ワタシの話をしよう。この刀は『キンツバ』といってな。型落ち品だったんだ」

「嘘でしょ? すごく強そうな刀じゃない」


 年季が入っているが、しっかりと手入れされていて、頑丈そうである。

 これまでも、エクレールがキンツバを使って、大柄のモンスターを屠る姿を何度も見てきた。

 なのに、型落ち品だったとは。


「これを買おうとしたとき、店主は別の品を何本も用意してくれた」


 実際、もっと軽くて丈夫な武器も沢山並んでいた。

 そこにしか売られていない特別な刀も。

 金は大量に持っていた。

 武器屋の品を全て買えるほどには。

 だが、エクレールはすべて断り、あくまでもキンツバに拘った。


「呼んだのだ。この刀が。自分を使ってくれと」


「分かる。バッグとか。安くても高品質なのがあるんだよねー」

 まったく状況が違う話なのに、チョ子が同調する。


「型落ちだろうが最弱だろうが関係ない。もし、キンツバが弱いなら、ワタシが強くなればいい。ワタシがキンツバを、名刀のレベルまで名を轟かせる、とな」


 ビリビリ、と遙香の背筋に電流が流れた。

 これがエクレールの強さなのだ。


「たしかに、ハッカ殿の考えも分かる。しかし、重厚な鎧で備えていようが、油断していれば死ぬ。ナイフ一本で探検しようが、生き残る奴は生き延びる。要は使い手次第」

 

 雷帝の言葉には、説得力がある。

 事実、彼女はポンチョと革製鎧、刀という絵に描いたような軽装で、一〇〇年近く旅をしている。

 実力次第で、どこまでも強くなれるのだと。


「効率的な強さだけを追い求めるなら、高額化も検討せねばはならん。作り手にも、高い技術が必要だ。とはいえ、どれだけ準備万端でも、命を落とすことは避けられない」


 エクレールの意見は一理ある。


 だが、遙香だって引き下がれない。


「分かったわ。じゃあ、最強談義で決めるわ!」


「何をするん?」


「この地域で一番強い装備品をかき集めて、その装備がコーデとしても完璧か、判断するの」

 遙香は、ペンと紙を用意した。


「やったろうじゃん!」

 チョ子が腕をまくるポーズを取る。

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