ギャル特製かき氷

 ドーラの言葉によって、生徒たちがまた真剣さを取り戻した。


「いいかい、砂漠地帯だとね、一週間水のない地域に若手冒険者を放り出して、自力で水を魔法で作り出す訓練を行う。飲み水に困るからね」


 その後は上手に魔法をこなすことができたようだ。

 チョ子のパフォーマンスで気持ちが解れたのだろう。


「ありがとうございます、チョ子さん。みんな、これで怖がらずに冒険に行けますよ!」

「いやぁ、あれマジだったんだけど……」


 これがチョ子なのだ。

 発想は凄いのに、まったく偉そうに振る舞わない。


「氷を食べる……そうよ。それでいいのよ。どうしてそんな簡単なことに気づかなかったのかしら」


「何か思いついた、ハッカ?」

「かき氷よ! かき氷を売り出すの!」


 季節ものだから、頭が回らなかったのだろう。

 まったく発想がなかった。


 かき氷は枕草子にすら出てくるのだ。

 ファンタジー世界で作れて当然だ。


「シロップはあるよね。それ以外はどうしよう?」

「この地域はフルーツが豊富だから大丈夫。イチゴをそのまま載せてもいいわね」

「台湾かき氷とかは? あれだったらフルーツ大量に使うもんね」

「牛乳が普及するなら、念願のアイスクリームだって」


 お店のカウンターにずらりと並んだアイス入りのバルク。

 ディッシャーでかき出したアイスを、ワッフルコーンでいただく。

 たまらない。想像するだけで甘い味が口で蘇ってきた。


 信じられないといった風に、チョ子が首をかしげる。

「できるの?」


「アイスなんて、カエサル・シーザーの時代からあるのよ。作れないわけがないわ」

「へえ、シーザーって人は、何味が好きだったんだろ?」


 そうか、この女は、昔の人が食べるアイスをイメージできないのだ。

 アイスバルクやコーンに入ったアイスしか知らないから。


 さっそく、ロゼットの店で試作品の提供へ。

 最近まで、冒険者の汗まで臭ってきそうな程、男性の密度が濃かった。

 今は、紅茶の香りが漂ってくる。

 もはや宿屋としての機能は朝夜のみ。

 昼や夕方は主婦で賑わっている。

 

 チョ子が氷を精製して、氷塊を回転させた。

 それを遙香が包丁で削り取っていく。

 これで下準備が整う。

 シロップはハチミツと砂糖水のみ。

 密の掛かった氷の上へ、薄く切ったイチゴを並べる。

 片面がシロップ、もう片方がイチゴになるように。


「あんた、マジでお菓子屋さんを目指したら?」

「趣味趣味。ウチには無理だって」

 遙香はチョ子のデザインを褒めちぎった。

 だが、当の本人は謙遜する。

「どうせなら、色も欲しかったけどね」

「色素が手に入らないから、お手上げね。昔はみぞれ味しかなかったって聞くし」


 ともあれ、チームチョコミントの面々と、ロゼットで試食を開始した。


 一方、マイは何を食べてもおいしそうに見えるので、まるで参考にならない。


 エクレールも、「冷たくてうまい」と感想が乏しく、食レポに向いていなかった。


「思っていたよりパンチがあるわね。イチゴが上品な仕事をしているわ」

「砂糖水で作ったシロップが、いい風吹いてくるカンジ」


 とはいえ、砂糖水をそのまま氷へかけたバージョンは、味が薄すぎる。

 どうやら、一度熱してシロップのように粘度を上げれば使えそうだ。量も少なくて済む。


「じゃあ、凍らせた紅茶で削ってみる?」

「最高ですね、ロゼットさん! それ採用しましょう」

 

 新しいメニューが追加され、冒険者の宿はみるみるうちに市民用のカフェと化していく。


 宿の方にはギョウザやからあげなど、腹にたまり酒とも合うメニューを提供し、こちらも繁盛していった。


 副業ばかりが潤っていく。

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