第五章 デコ屋オープンですけど!?

ギャルの魔法

 今日も街の偵察だ。

 といっても、装備品は開発中である。

 

 今は、ロゼットから出された宿題を考えていた。

 簡単に思いつくものではない。


「アイスクリームが食べたい」

 チョ子が、また無茶を言い出した。


「無理よ。バニラビーンズが手に入らないんですもの」

「なんでそう言い切れるわけ?」

「この地域が、南国の気候じゃないからよ」


 バニラエッセンスは、メキシコなどの熱帯気候の地域で採れる。

 ここは気温が安定しすぎていて、バニラビーンズが育たない。

 バニラアイスを食べるなら、もっと暑い地域に行かねば。


「同じ理由で、カスタードクリームも作れないわ」

「うむむ。シュークリームも捨てがたい」

「生クリームで代用する手もあるけど」


 牛乳が定期的に手に入るなら別だ。

 だが、この地域の牛は肉牛が殆どだった。

 山羊や羊もいたが、乳までは調査不足だ。


「あれ、何してるんだろ?」

 チョ子が、広場に目を移す。


 噴水を中心とした広場では、普段は市場で賑わっている。

 今日は少し違った。魔導師たちが円になって、話し合っているのだ。

 ローブを着た魔導師たちは、みんな若い。

 その中で、一際目立つ魔女が一人。ドーラだ。


「あ、皆さん、こっちです」

 ドーラに付き添っていたマイが、遙香たちを見つけて手を振る。


「何の訓練?」

「攻撃魔法のコツを教わっているんです。みんな、バイト卒業なので」


 そういえば、見習いの魔導師は、バイトで火の番や冷蔵庫の倉庫番をやるとは聞いていたが。


「ドーラが指南役を?」

「一応、わたしは魔術師ギルドだからさ。後進の指導を、ね」

「魔術学校とかがあるんじゃないの?」


「学問で学ぶ魔法と、実戦で使える魔法は、ちょいとばかり違うのさ。それを教導してる」


 ドーラの言葉に、マイが続く。


「魔術学校は魔法の理論や原理、つまり仕組みの学習がメインですね。ドーラは過程をすっ飛ばして、より実戦的な魔法を手ほどきするんです」


 説明されても、チョ子はいまいちよく分かっていないようだ。


「パソコンの構造や、どうやって動くのかを学び取る専門学校と、使い方自体を習うパソコン教室の違い、みたいなニュアンスで考えればいいのよ」

「ああ、ウチのばあちゃんもパソコン教わってるよ。マウスを画面に投げて壊しそうになったけど」


 授業では、氷を削って小さな針を飛ばす攻撃の訓練中だ。

 無数の氷が、道ばたの小石を弾いた。

 砕けた石、氷の矢が突き刺さっている状態の石、その場で凍っている石もある。


「おー」と、チョ子が手を叩く。

「このように、用途に応じて色々なアレンジができるのが、氷魔法のコツさね」


 ドーラの指導の下、生徒たちが思い思いの魔法を小石に打ち込む。みんな、難しい顔をしていた。


「真剣ね」

「そりゃあそうですよ、これから危険があるかもしれませんから」


 だが、気持ちが空回りしているのだろう。

 ほとんどの生徒が、針を作れても的に当たらない。


「氷の魔法なら簡単だよ。ウチがやってみよう!」


 生徒の視線が、チョ子に集まる。


 手の平に意識を集中させて、チョ子は氷塊を作り出した。大きさは硬貨ほどだ。「ドルルルルル……」と、自分の口でドラムロールを始める。


 まさか、とは思うが。


「いきます、ぱっくんちょ!」

 なんと、というかやはり、チョ子は作った氷の塊をパクッと食べてしまった。頬を膨らませてバリボリと氷塊を奥歯で砕く。

「ほらね。お口の中に氷が納まった」


 ドッと、生徒たちが笑い出した。さっきまでの緊張感はどこへやら。「それ、魔法じゃないじゃん」と、生徒の一人が腹を抱える。


「魔法だって。冒険に行くんでしょ? お腹が空いたら大変じゃん! でも、これなら食糧難も安心!」


 バカにされたと思っていないのか、チョ子は自慢げに腰へ手を当てた。


 再び、生徒が吹き出す。


「いや、チョ子の考えは正しいよ」

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