ギャル食堂、ミスった!?

 翌日、店内には青い給仕服を羽織った英雄の姿が。

「足下が心許ないが、悪くないな」

 衣装が気に入ったのか、エクレールがその場でくるり、と回る。


「いいね、バッチシ」

 チョ子もエクレールを煽った。


「うむ。悪くない。悪くないぞ」

 跳んだり跳ねたり、刀を構えたりと、思い思いのポーズを取る。


「ごめんください」 

 若い女性が、店に入ってきた。


「あ、いらっしゃい!」

 遙香が席を立つより早く、チョ子が接客に応じる。


 手持ち無沙汰になり、遙香はテーブルを片付ける。

 マイも同じ気持ちなのか、手伝ってくれた。


「チョ子ちゃん、三日前にいただいたお薬、あるかしら?」

「えっと、確か……『モー烈剤』っすか?」

「ありがとう。ウチの主人、これを飲んでからもうアゲアゲで」


 チョ子が主婦に渡したのは、ドーラが調合した漢方薬だ。

 ミノタウロスの角をすりつぶし、複数の薬草と混ぜてある。滋養強壮に効果があるらしい。


「アゲアゲっすか。ヤバイっすね!」

 チョ子は客を両手で指さす。


「そうなの、ヤバイの! またお邪魔するわね」


 お目当ての品を買って上機嫌な客を、チョ子は見送った。


「すごいですね、チョ子さん。お客さんとすぐに仲良くなれて」

「こんなの慣れだって。怒られてもいいやって気持ちで接したら、案外失敗しないよ」

「分かりました! 勉強になります!」

 マイは両手を握り込み、気合いを入れる。


 コミュ力に関しては、やはりチョ子に軍配が上がるようだ。


 マネができない。

 遙香はどうしても、失敗を恐れて考え過ぎる。


 だが、チョ子はチャレンジに立ち向かう。

 知らないことがあるとあたふたするので、彼女とて万能ではない。

 それにしろ、どうしてそんなにメンタルが強いのか。


「エクレールは?」


 いつの間にか、エクレールはカウンターの奥に身を隠していた。

 いつものポンチョ姿で。

「さすがに、人前では照れくさいな。ワタシに接客は無理のようだ」


「あら、とっても似合ってるのに、もったいないわね」

 店に、ロゼットが入ってきた。


「世辞はやめてくれ、ロゼット」

 また、エクレールがカウンターに引っ込んでしまう。


「いらっしゃいロゼットさん、今日はどうしたんです?」


「チョ子ちゃんに提案してもらったオムライスの件なんだけど」

 ロゼットの店に、オムライスを試験的に置いてもらっている。


 まさか、失敗したのでは。不安が頭をかすめた。


「もう大繁盛で。手が足りなくなっちゃって。手伝って欲しいのよ」


 思惑はうまくいき、ロゼットの宿は大盛況となった。

 食堂は今日も満席だ。

 冒険者たちが、オムライスをかき込んでいる。


「オムライスはまだか!」

 亜人種の冒険者が、スプーンの尻でテーブルをコンコンと軽く叩いた。


「こっちはカツ丼を頼む!」と、別の冒険者の声も。


「はいはいおまちどー、っと!」

 明るい声で、チョ子がオムライスをドンと客のテーブルに載せる。


「こっちは肉じゃが定食だ! ライス大盛りでくれ」

「今作ってまーす」

 遙香の得意料理も出すことに。

 しょう油がないので、正式にはポトフだが。


「ひええ。やっぱりこの衣装、ちょっと派手じゃないですか? スースーします」

 スカートを押さえながら、マイが身体を縮こめる。


 三人が着ているのは、以前チョ子が裁縫したものである。


 特にマイは、遙香が着ている服よりスカート丈が短い。


 遙香の丈も大概だが。


 チョ子も同じ衣装を身につけている。しかし、何も気にせず接客していた。どれだけ豪胆なんだろう。


 店は開店して数日で超満員となった。

 自分たちも働くとは思ってもみなかったが。

 おそらく、飯より三人の服装が目当ての来客数が増えているらしい。


「順調ね」

 いける。遙香はフード無双に、若干の手応えを感じていた。


「これさぁ、ダメだね」

 和菓子店の看板娘は、この状況を成功とは思っていないらしい。

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