ギャル、ミシンの鬼と化す!

 帰宅後、チョ子は人が変わったように、ミシン作業に没頭した。

「なんか、アイデアが溢れてきちゃって」

 チョ子の目が血走っている。


 それだけではない。

 服飾店に行けば不要になった古着やボロを引き取り、防具屋では鉄クズをもらってくるのだ。

 それらを、衣装に変形させる。継ぎ接ぎを繰り返しては前衛的なデザインに。

 鉄は炎の魔法で柔らかく溶かし、シルバー細工のようなアートに変えて。


「慣れてるわね。相変わらず」


 思えば、家庭科の授業はチョ子の独壇場だった。

 ちなみに、チョ子の裁縫熟練度は七〇で、新米デザイナークラスだという。

 

 熟練度は、今までの暮らしの中で培ってきた技術や知識が反映されているらしい。


「妹の服が破れたら、ウチが直してあげてた。この間だって、使わなくなったランドセルをガマ口にしてあげたんよ。そしたら、妹がすっごい喜んでくれて」

 チョ子が、少し寂しそうな顔を浮かべた。

 元の世界を思い出してしまったのだろう。


「できた!」

 完成したのは、エプロンドレスだ。

 超ミニ丈のティアードスカートである。


「これ、すごいですよ。補助魔力が微量に宿っています。これさえ着ていれば、筋力が三〇%しか必要ありません」

 マイが衣装に手をかざして、服に備わった魔法を分析した。


「そうなの? ねえチョ子、そんな魔法、いつ施したの?」

 衣装を作ったチョ子に聞いてみても、当の本人はただ首をかしげるだけ。


「魔法使いが編んだ服飾に魔力が籠もる現象は発生します。けれど、定着させるまで年月が掛かるんですよ。それを一瞬で」


「どうでもいいよ。そんなの。要はカワイイかカワイくないかっしょ!」

 チョ子は、自分の能力にさして興味が皆無なようである。


「さてさて、マイちゃん、早速試着してもらおうかな?」


「へ、ふええええええ!?」

 マイの垂れ耳ヘアが、横にピョコンと広がった。

「無理無理、無理です! わたしみたいに地味な女にそんな凝った服、似合うわけないですよ!」


「決めつけはよくないな、マイちゃん。これ、マイちゃんをイメージして作ったんだから」


「でも、風が通り抜けて、なんだか心許ないです!」


 短い丈のバルーンパンツを履いておいて、スカートが苦手とは。

 彼女の美意識がイマイチ分からない。


 涙目になるマイに、チョ子がにじり寄ってきた。


「ほどほどになさい、チョ子」

「いじめてるわけじゃないし! 大丈夫、絶対似合うって! 悪いようにはしないからさ!」

 すっかり、悪役のセリフである。


「ふにゃあああ!」

 マイは一目散に、外へ逃げた。

 しかし、玄関前に立っていた女性に行く手を遮られる。


 店を空けていたエクレールが帰ってきた。

 遠征に行ってもらい、用事を頼んでいたのだ。


「あ、エクレール様。お帰りなさい。今、お茶を……」

 キッチンまで引っ込もうとしたが、そこには衣装を手にチョ子が待ち構えていた。

 マイはチョ子に引っ張られ、部屋の隅にある更衣スペースへ。


「おお」とか、「ふええ」といった声が、カーテン越しから聞こえてくる。


「相変わらず賑やかだな、ここは」

「それで、情報はどうだったの?」

「やはり魔物の動きが活発だ。そのおかげで大収穫なんだが」


 エクレールが、店の中央にある長テーブルに、モンスターの素材を出す。

 想像以上に大量だ。


「同じモンスターばかりで、代わり映えはしないが。使えるなら使ってくれ」


「十分よ。ありがとう」

 エクレールのカードを自分のカードと重ねて、依頼料を支払う。


「魔王って、世界支配に興味がないって聞いているわ?」


「個体に寄るんだよ。そいつには何か目的があるようだ。領土の拡大か、アイテムが欲しいのか」


 ロゼットが話していたとおりだ。


「う、うう」とうなりながら、更衣室から、マイも帰ってきた。


「お、オシャレな格好だな」


「み、見ないでください! 恥ずかしいです!」

 服を隠すように、マイが自分の身体を抱く。

 

 彼女の格好は、古い給仕服を改造したものだ。

 手の指やエプロン、お下げを、売り物の小物類でデコってある。

 防犯と、店の宣伝も兼ねてあるのだ。色も、落ち着いた黒からピンク色へ。


「どうよ、エクレール。バッチっしょ?」

 得意げに、チョ子が腰に手を当てた。

 服装は、マイと同じ服である。


「わたしが着ても似合いませんからぁ!」


「いやいや、釣り合っているぞ。ところで、ワタシの分はないのか?」

 エクレールが、興味津々の様子でチョ子に尋ねた。


「え、着ちゃう? マジ装備っちゃう?」

 色めき立つチョ子。

 興味津々のエクレール。

 もう誰にも止められなかった。

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