第四章 経営って大変なんですけど!?
ギャル、オムライスを喰らう!
いつもなら、チョ子が遙香の上に乗って起こしてくる。
今日は、その重みを感じない。
遙香が先に目を覚ました。親友の方を向いて、ため息をつく。
白いキャミソール&ピンクのショートパンツといったラフな格好のまま、チョ子は枕に顔をうずめていた。
「何してるのよ。早く起きなさい」
「オムライス食べたい」
目を開けて早々、チョ子が無茶を言う。
鶏肉は、ロゼットのシチューに入っていた。卵なら普通に流通している。ケチャップも瓶詰めだが見つけた。高価だがバターも。
しかし、肝心の米があるかどうか。
「ねえハッカ、そろそろさ、ご飯ものをお腹に詰め込みたくない?」
「確かに。でも我慢なさい。今日も明日もあさっても、朝食はパンケーキよ」
「もうやだぁ! お米をお腹に入れたい! 固いパンもパンケーキも飽きちゃった! メープルもハチミツもおいしいよ! けど、違ったものが食べたい!」
子どものように、チョ子がジタバタする。
「家が手に入っただけでもよかったじゃない」
向かいには冒険者用の酒場がある。
この付近の遺跡を目当てに、冒険者達がひっきりなしに出入りしていた。
遙香たちも、昼か、夜だけ利用させてもらっている。
朝だけはせめて自宅で、なんて理由ではない。起き抜けに動くのは勘弁、というのが本音だ。
「お米ならありますよ」
朝食の席で、エプロン姿のマイが答える。
パンケーキは彼女が作ったものだ。
「マジなの、マイ?」
遙香がパンケーキを切る手を止めた。
「はい。なんでも、お米の流通が再開されたので」
つい先日、米を生産している村との行き来が可能になったという。
これまで、強力な魔物によって道が完全に塞がれていたらしい。それまでは、迂回すらできずに困っていた。
その道とは、なんと遙香とチョ子が通った「洞窟への最短ルート」だったとか。この道が開通したおかげで、品薄だった米が大量に入ってきた。
「情報ありがとうマイちゃん! やったねハッカ。オムライス作れるじゃん!」
「そうね。実践しましょう」
決意を新たにする二人をよそに、マイが手を上げる。
「すいません、皆さん。オムライスって、なんですか?」
遙香とチョ子の目が光った。これは、味見役が必要である。
「百聞は一見にしかずよ、マイ。街へ行ってくるわ」
どのような装備品が売られているか、偵察のために街へ繰り出す。
この街は活気がないと思っていたが、装備品は充実している。
鉱山が近いからだろうか。
人口も、市民より冒険者の方が多い。
意識的に視察をしているからか、今まで分からなかった問題点も多数見えてきた。
この街は旅人や冒険者たちにとって、単なる通過点に成り下がっている。
下手に人の出入りが激しいため、さほど工夫しなくても、生活できる分は稼げていた。
住人たちも、現状に安心しきっている。
これでは「街を活性化」という意気込み自体が生まれにくい。
魔法の道具などは、ドーラの指導のおかげでコツは掴んできた。試作品もできあがっている。
問題は装備品だ。
性能の高い商品を作るなら、現地の職人に頼む必要があるか。
「ちょっと、これを試着してみて」
「任せなって」
チョ子と一緒に、自分の背丈に合った鎧をチョイスした。
「ブカブカね」
遙香の鎧は、腰回りに隙間ができている。
「うーん、胸がキツい」
豊満すぎるチョ子の身体をくまなく包んでくれる鎧など、そうそう置いていないようだ。
「すみません、これら装備品って、女性用はどうなっているの?」
見繕ってくれた店員に聞く。
「オーダーメイドですね。体型に合わせて微調整するんですよ。奥に工房があるので」
「面倒ね」
最初から、女性向けを作れる人が極端に少ないのが問題だ。
職人が男性しかいないせいである。
女性用の鎧や剣などは、男性が使っている品物をやや細めた程度。これでは窮屈だろう。また、顧客に合わせたアイテムを売るため、高価になってしまうという。
いっそ、自分が技能を磨いて自力で作り出すしかないのでは。
しかし、鍛冶スキルは皆無。今から覚えようとしても、いつまで掛かるのか。
もっと手軽な、実用的で、安価に装備できるアイテムは作れないか。しかも、女性が喜びそうなオシャレで、可愛い……。
ダメだ。頭が爆発しそうになった。
「なによりさ、女子が少なすぎ。まずは女子を増やすことを考えないと」
「そうね。第一に、顧客を定着させましょ」
店に帰ると、マイが待っていた。ホウキで床を掃いている。
「おかえりなさい。どうでした?」
「色々と、問題が多すぎるわ」
夕飯前になり、市場で米を大量に購入し、オムライスに必要な材料もゲットした。家に帰って早速料理を開始する。
お釜で米を炊くシステムがもどかしい。
使い方が日本とは違う可能性もあり、念のためロゼットに聞いた。ロゼット宿でも釜は扱っているという。二人が泊まっていたときは、米を切らしていて釜を使う機会がなかったそうだ。
フライパン等は普通に扱える。問題は火加減だけ。
「これがオムライスという食べ物なのですね」
マイが、未知なる料理をじっくりと眺める。
ちなみに、料理担当はチョ子だ。
遙香は洋食が苦手である。味噌汁や肉じゃがなど、おふくろの味は得意だ。が、しょう油や味噌が容易に手に入らないこの土地で、遙香の腕を発揮するのは難しい。
また、お菓子作りなどの乙女力は、チョ子の方が上である。
「装飾がカワイイですね。お湯で戻した乾燥肉とタマネギとお米だけで、こんなにもオシャレな料理ができるなんて」
チョ子特製のオムライスは、材料を薄い卵で包んだだけじゃない。ケチャップでマイの顔にデコレーションしている。
「チューブ式のケチャップじゃないから、綺麗には描けなかったけど」
「それでも面白いです! ありがとうございます!」
似顔絵を描いてもらって、マイは飛び上がった。
遙香が持ち合わせていないのは、こういったサービス精神である。気が利かないのだ。
「では、いただきます」と、マイは丁寧に両手の指を重ねる。
「もぐもぐ、初めて口にする味です! 酸っぱいケチャップが甘くなってて、お米が鶏肉とタマネギと混ざって、複雑なうまみが生まれています」
懸命に食レポしているが、マイが食べている表情だけでも、十分に旨いと伝わってきた。
「私たちも食べましょ」
「やったー。いたたきまーす」
ようやく米料理にありつけたチョ子も満足げである。
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