ギャルの熟練度

「ちょっと、アンタのステータス表、見せてみなさい」

 気になって、遙香はチョ子とダイフグを交換した。

 ステータスを表示する。


「熟練度の項目を。やっぱり、料理熟練度が五一、カリスマ主婦並みって書いてあるわね」


 この世界では、レベルの他に、熟練度という技能値がある。

 レベルとはいわゆる戦闘能力、身体能力だ。

 戦闘をこなしてレベルが上がれば勝手に上昇する。


 対して「熟練度」は、訓練すればするほどアップしていく。

 市民たちは熟練度を上げて、自らの職業に就いている。


 女子力という項目があったら、チョ子はカンストしていたのではないだろうか。


「ハッカの熟練度は四三。おふくろの味レベルだってさ。だからハッカの料理っておいしそうなんだね。謎が解けたよ」

 自分より数値が低いのに、チョ子は遙香の料理を欲しがった。


「どうりで器用なワケね」

 遙香は、チョ子の手際を賞賛した。


「あんた、よく和菓子にオリジナルの装飾して怒られてたわね。『和菓子を遊び道具にしちゃいけません!』って。あんたも『遊び道具じゃないもん!』って反論して」


 津波黒家は、伝統を重んじる老舗だ。なので、余計なデコレーションはかえって反感を買う。


「そういうこともあったねえ」

 チョ子が感慨にふける。


 思えば彼女の方も、女の子っぽさからほど遠い和菓子に辟易していた。

 そのフラストレーションが、彼女をギャルへと走らせたのかも知れない。


「素晴らしかったです。ごちそうさまでした!」

 満足げに、マイはスプーンを置く。


「これ、お店ができますよ! ここを食べ物屋さんにすれば、繁盛しますよ!」


「だよね。実はさ、もっとレシピもため込んでたんだよね」


 メイプリアスで作れるかも知れないメニューがびっしりと書き込まれている。


「気持ちはありがたいけど、元々道具屋さんよ。火気などの設備を増設したら、更に費用が増えるわ。店の方針も考え中だし」


 地球産フードメニューによる無双展開は、異世界物語における定番のひとつとも言える。しかし、そう簡単にはいかない。

 火力の方も問題だ。改築したとしても、オーブンはあってもコンロがない。


「この世界って、食べ物をどうやって保存するのかしら?」

「見習い魔法使いに、氷を作ってもらうんです」


 未熟な魔法使いは、お店の料理番などの雑用を行って、トレーニングを積むらしい。火も氷も、自力で扱うという。


「魔法訓練学校の学費を稼ぐには、いいバイトになるそうですよ。人とのコミュニケーションも身につくし。わたしは、まだ苦手なんですけど」


 どこの世界でも、フード業界でのバイトは鉄板か。


「ロゼットさんも、魔法使ってたよね?」


 ロゼットは自分で氷を形成し、鶏などの食用肉を保存していた。

 彼女も、魔法使いの出身なのだろう。


「基本、あのお店は一人で回しています。お客さんが多いときだけ、手伝ってもらうそうです」

「じゃあ、経験豊富で火が使えるお店に提供を……あっ。ロゼットさんのお店で提供するのは?」

 

 ダメ元で相談してみると、快く承諾してくれた。

 ロゼットのお店で、試験的にチョ子の発案したメニューを出す。


 ただ、ロゼットから意見が返ってきた。

「でも、一時的に人手は欲しいかな?」

 大量の客をさばけるのか。人を増やせば人件費の問題も発生する。


「分かったよ。こちらのマイちゃんを推薦します!」

「ええええええ!?」

 思わぬ展開に、マイが目を丸くする。

「なんでわたしがやる方向になってるんですか!?」


「トレーニングだよ。コミュニケーション能力の」

「その必要性はどこに!?」

「いつか誰かとパーティを組む可能性だってあるわけじゃん。今のうちに慣れておけば」

 不安がるマイに、チョ子は無茶ぶりをした。


「あんまり無理を言わないの。ロゼットさん、私たちも手を貸すわ。接客にノウハウを知らないのは、私も同じだから」

「じゃあお願いね」

 これで、話がまとまった。


 翌朝、朝食を終えて、作戦会議を行う。

「売り出すなら鎧ね。需要はありそう」

「だよねー。オシャレなのが欲しいよねー」

 この口ぶりだと、チョ子に任せたら使い道のなさそうな鎧ができ上がりそうだが。

「装備品だから、普段使いは考えなくてもいいから、楽ね」

「じゃあ、ウチは普段着のデザインを練るよ」


 遙香が重装備、チョ子が軽装備を担当することにした。

 各々が、スケッチブックでデザインを描く。


「ねえねえ、これくらいかな?」


 この世界の住人は、スカートの丈がやや長めだ。

 足を出すときは短パンを穿くようである。


 チョ子のデザインは、大胆なティアードスカートになっていた。手持ちの生地は数が少ない。

 つなぎ合わせるなら、こういったデザインが丁度いいかも。


「ひとまず、それ作る方向で行きましょう」


「あ、衝撃の事実が発覚した」

 チョ子が、悲痛な叫び声を上げた。


「ミシンが欲しい。複雑なデザインだとしても短時間で済むから」


 個人で経営するなら、手縫いでも問題はない。

 だが、店として開店させるなら、ある程度の文明に頼る必要はありそうだ。


「分かったわ、チョ子。今日はお店を閉鎖して、みんなで行きましょう」

「どこへ行くん?」

「冒険よ」


 久々の旅へ。

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