ギャルと洞窟と鍵開け

 北を目指し、馬車で運んでもらう。

 

 丸一日後、洞窟から一番近い村で馬車を降りた。

 

 村の宿で一晩休み、そこから更に半日かけて歩く。

 洞窟に着くのは夜頃になるらしい。魔物の力が弱まる朝までに、外へ出る算段だ。


「どうだ、ついてこられそうか?」

 チョ子と二人、息を切らしながら頷いた。休めていた身体を起こす。


 先ほど、ミノタウロスを二人がかりでようやく退治したところだ。エクレールが倒した個体より一回り小さかったが、それでもゲームのように華麗に勝つなんてできない。ひたすらチマチマ、ヒットアンドアウェイといった、泥臭い勝利だった。


「成長が早いな。もはや、フォモール族など相手にならぬか」


 フォモール族とは、ミノタウロスやコボルドなどの、獣と人間の混ざった亜人種のことだ。


「平気よ。後悔はないわ」

「鍛えてくれって言ったのは、こっちだもんね」


 昼は魔道署の熟読、夜はエクレールに、一時間ほどコーチを頼んでいた。


 また、数あるルートの中で、もっともモンスターの多い道を選んで通っている。

 実は、もっと安全に通れるコースはあった。のんびりレベルでも上げながら楽に旅をするルートが。

 しかし、一ヶ月かかると馬車の運転手に言われた。

 よって、多少きつくとも到着を急いだ。足手まといになるのを覚悟で。

 

 しかもギャル二人は、エクレールの力を極力借りずに挑んだ。

 想像もつかないほど強いモンスターを相手に、何度挫けかけたか。

 しかし、ここを乗り越えれば、安全な旅が手に入ると判断した。


「よく言った。じゃあ、ここからが本番だ」


 岩が幾重にも重なってできた入り口が、地獄の入り口のように口を開けている。コウモリの鳴き声も聞こえてきた。


「引き返すなら今だ。馬車で先に逃げればいい」

 エクレールが、振り返って選択を迫る。


「冗談言わないで」

「そうそう。帰るかっての」


 エクレールも、ギャル二名の言葉を聞いて、諦めたらしい「行くぞ」と、たいまつを灯し、先頭を歩き始めた。


 足跡が響く。思っていたより天井が高い。

 ロープが必要な崖などはないようだ。

 軽めのアスレチックの気分である。


「暗くてよく分からない」と、エクレールがつぶやく。


「近いね。こっち」

 チョ子が右を指した。


「頼もしいな、チョ子殿は」


 こういうとき、チョ子の地獄鼻が役に立つ。


 敵もヘビやコウモリなど、弱いモンスターばかり。

 レベルを上げておいてよかった。もし、楽なコースで旅をしていたら、油断して死んでいただろう。


 エクレールが、駒のように跳躍した。

 大量に湧いた敵の首を、次々とはねていく。エクレールの本領発揮だ。遙香が苦戦する怪物を、あっさりと蹴散らしていった。

 華麗でいて、的確。


 レベルを上げたのには理由がある。

 遙香の白魔術習得とチョ子の魔力アップだ。

 また、レベル上げの仕組みを自体を知ることが目的だった。


 ダイフグの体内に内蔵されたアプリを使って、ステータス画面を表示する。

 遙香はパラディンのスキルが上がっていた。レベルは二〇近い。


 チョ子は同じように、銃撃のスキルが異様に高くなっている。レベルは一八くらいか。


 レベルがアップすると、どのステータスが上昇するのかを確かめる必要があったのだ。


 結果、レベルは戦闘や依頼の達成度に連動することが分かった。

 ちなみに、スキルは特定の攻撃や技能を使い続けると数値が伸びていくようである。


 遙香はいわゆるタンクであり、防御しつつ回復魔法をこなし、ボスを斬る。

 

 大量の雑魚を殲滅し、ドロップ品を回収するのが、チョ子の役割となっていた。


 チョ子より遙香の方がレベル上昇が高いのは、ボスキラー役だからだろう。スキルは可も不可もない上昇っぷり。

 

 反対に、チョ子はスキルレベルがバカ上がりしており、専門職然とした成長ぶりだ。


 特に迷いもせず、いかにもといった通路に辿り着いた。

 しかし、鉄の扉がそびえ立ち、行く手を塞ぐ。

 鍵らしきコンソールが、やけに近代的だ。

 これがいわゆる古代文明なのだろうか。

 

 試しにエクレールが刃を鉄扉へ突き刺した。


 だが、ビクともしない。


 雷帝の刀すら通さない頑強な扉を前に、三人は立ち往生してしまった。


「そんな。ここまで来て」

 エクレールが、鍵部分を恨めしそうに見つめる。さすがの雷帝も、こうなっては詰みらしい。


「いっそ、脇から穴でも掘る? 鍵は必要ないわよ」

「固い岩でできた洞窟だ。何年かかるか分からない。崩落の恐れもある」


 何を思ったのか、チョ子がコンソール部分に触れた。何かを確かめるかのように。

「これ、ウチなら開けられるかも」


「あなた、冗談も大概に……何かしら、メール?」

 遙香がダイフグを手に載せる。メールボックスのページが開き、メールが表示された。


『随時通話で説明はだるいから、説明部分はダイフグに一任するね』


「せめて、向こうで私たちがどんな扱いなのか、知りたいんだど?」


 家出人と見なされ、警察が動いていたら大変だ。


「お二方の関係者には、偽の記憶を植え付けてますねん」


 ダイフグの説明によると、二人は長期ホームステイの最中になっているらしい。電波が届かない海洋を調査していると。


 また、地球の一日は、この世界の一週間だとか。つまり、二人がメイプリアスに来て、地球の時間では約一日くらいしか経っていない。


「そういう記憶操作ができるなら、私たちを元の世界に返して欲しいんだけど?」


「それは言わんとってください」

 ダイフグが、妖精王からもらった資料を代弁する。

「チョ子さんの能力、地獄鼻だけとちゃうんですわ。簡単な鍵なら解錠できまっさ。泥棒などの悪いことはできまへん。宝箱に掛かってるトラップを解除したり、隠れた扉を探せまっせ」


 遙香はダイフグを懐に戻す。

「チョ子、やってちょうだい!」


「そうこなくっちゃ」

 遙香の許可を待っていたかのように、チョ子はコンソールをまさぐり始めた。「これだ」と、声を発する。ヘアピンを外して、鍵穴に差し込む。続いて、もう片方の手にダイフグを載せて、画面をテンキーモードにした。ひたすら番号を打ち込んでいる。


「開きそう?」


「余裕」と、返事が返ってきた。同時に、鍵がガチャリと音を立てる。


 溜息として、遙香は驚愕の感情を吐き出した。「やるわね、チョ子。すごいわ」


「まぐれだって。まぐれ」


 謙遜するチョ子の手を、エクレールが強く握った。「感謝する、チョ子殿」


「いえいえ」と、チョ子は頭を掻く。

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